私立中高進学通信
2021年神奈川版
実践報告 私学の授業
横浜女学院中学校
知識を連結し汎用的能力を育む
クロスカリキュラム
1テーマに教科横断型授業でアプローチ

社会科の授業では、「平民」や「貴族」といった『身分カード』を配り、
その立場に立って社会を考えると、視点が異なり、意見も変わってくることを生徒たちは身をもって体験しました。
教科横断型授業をより深める取り組み
以前より英語で他教科を学ぶ『CLIL(クリル)』(※1)、持続可能な社会に向けた探究学習『ESD』を実施するなど、独自のアプローチで英語力と探究力を伸ばしてきた同校。2021年度からは、『国際教養クラス』(※2)において、より広い範囲で教科間の横断を進めていくクロスカリキュラム授業を実践することになりました。
クロスカリキュラム授業とは、1つのテーマについて、さまざまな教科で学ぶ学習方法です。各教科の教員が現在授業で行っている教科内容をホワイトボードに書き入れ、クロスカリキュラム授業のコーディネーターを務める白井龍馬先生が主体となって、ほかの教員と相談しながらそれぞれの学びをつなげるテーマを考えていきます。
例えば、「生命倫理」がテーマであれば、社会科では歴史を学ぶ中で人権意識や倫理観の変化について、理科の授業では生態系を学ぶ中で、テーマに結びつけて探究する時間を取ります。さらに、テーマに関わるキーワードを英語でも学んでいきます。さまざまな教科の内容が1テーマのもとにクロスした授業を行うことで、生徒たちの中でそれぞれの知識が統合され、汎用的な知識となって蓄積していきます。
「複数の教科で1つのテーマについて学ぶことで、各教科の具体的な学びを通して大きなテーマを探究することができます。そうした取り組みを通して、生徒たちは自ずと各教科で得られる知識を連結し、教科内容をより深く学べるようになります。
社会の変化が加速度的に進む中、教えられた内容をただインプットするのではなく、それに自分で手を加えたり、今はまだ世の中にないものを自ら学んだりできる汎用能力をつけることがクロスカリキュラムの狙いです。こうした力が、これからの社会では、より必要とされるようになるでしょう」(英語科/白井龍馬先生)
※1 CLIL…英語以外の教科を英語で協働しながら学ぶことを通して、教科学習と英語コミュニケーションを同時に習得できる学習法。
※2 国際教養クラス…同校の中学に2018年より設置された英語・国際教育に特化したクラス。
ネイティブ教員による英語の授業や、ドイツ語・スペイン語・中国語などから選択した第二外国語の習得を必修にするなど、国公立や国際教養系大学、海外大学をめざします。
中高一貫だからできる長期的な視野をもった教育

クロスカリキュラム授業では、最初は教員が授業をリードしますが、最終的には生徒が自分で課題を見つけて探究できるように促していきます。中学のうちからじっくりと主体的な学びを体現できるのは、中高一貫の大きなメリットです。
「中学の間は探究的な授業で汎用的能力を育成し、その流れの中で高校生になってしっかりと知識を定着させていく。さらに高校の後半は入試対応を行うというカリキュラムマネジメントをできるのが、中高一貫の強みだと思います」(白井先生)
クロスカリキュラム授業で得た深い学びは、思考力・応用力が問われる新しい入試制度にも、結果的に対応しているといえそうです。
「深く学ぶ体験は、生徒たちの進路選択のきっかけにもなっていると思います。自分はなぜ学ぶのか、どう生きるのか、何にアプローチしたいのかを考えさせる授業を教員と生徒が一緒につくりあげていけば、大学入試のためだけではなく、先の将来を見据えて勉強に打ち込めるのではないでしょうか」
社会科の授業での探究的な取り組み
フランス革命を当事者視点で学ぶ
生徒の力を着実に伸ばすため、同校ではさまざまな独自の取り組みを行っています。歴史を近代から遡って学ぶ、国際教養クラスの社会科の授業もそのひとつです。
「今の生活とかけ離れた縄文時代から学んでも、生徒たちは現代とのつながりをなかなか見いだせません。中2の歴史ではまず、近代以降の社会を学びます。工業化と大衆化という近代化のプロセスを学ぶことで、現代とのつながりを理解し、徐々に遡って過去の歴史を学んでいきます」(中2・社会科/岩田賢先生)
フランス革命について学ぶ授業では、「技術革新は統治の仕組みを変化させる」をテーマに、革命当時のフランス人の各身分から国の政治を考える探究的な取り組みを行いました。
「生徒にはまず、先入観のない状態で『フランスはどういう国になるべきか』を考えてもらいます。ほとんどの生徒が中立で平和的な国であるべきだという意見を支持しました。その後、「平民」や「貴族」といった『身分カード』を配り、その立場の目線から『どういう国になるべきか』を考えてもらいます。そうすることで、生徒たちは身分によって視点が大きく変わり、支持する意見が変わることを体験します。視点によって意見が変わることに生徒たち自身が驚き、今までにない意見が寄せられました」
社会科の授業で得た、社会変容の理由を紐解く知識は、ほかの教科での学びとつなげることができ、クロスカリキュラム授業の軸のひとつになっています。


ココも注目!
知識の暗記ではない学びを生徒たちに

クロスカリキュラム授業の取り組みは、SDGsの17のゴールにもつながっていくと思います。理科で習ったこと、社会科で習ったこと、英語科で習ったこと、それぞれがひとつの問題意識に結びついていくことが理想ですね。もちろん、現在が完成形というわけではないので、我々教員も研究と実践を積み重ね、各教科の連携を深めています。(社会科・岩田 賢先生)
(この記事は『私立中高進学通信2021年神奈川版』に掲載しました。)
横浜女学院中学校
〒231-8661 神奈川県横浜市中区山手町203
TEL:045-641-3284
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