私立中高進学通信
2025年特別号
私学だからできるオリジナル教育
開智未来中学校
『才能発見プログラム』を通して
育まれる実践的な行動力でつかむ
「自分だけの探究」という名の誇り
今年度、文部科学省から「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」に採択された開智未来中学・高等学校。同校には、「探究活動」が注目を集める前から取り組んでいる独自の探究活動『才能発見プログラム』(高1)があります。自ら立てた探究テーマに1年間かけて打ち込みながら、文字どおり“才能を発見”した高校2年生4名と、探究教育主任を務める宮入裕人先生に集まってもらいました。
四茂野真湖さん(高2)
探究テーマ:『知って楽しい!食べて美味しい!トマトの魅力』
父と姉がトマト嫌いという四茂野さん。「どうすれば自分が大好きなトマトを食べてもらえるか」をとことん考え、透明なトマトジュースやトマトを使ったスイーツづくりに挑戦しました。
井草穂乃花さん(高2)
探究テーマ:『起き上がれ!アンキロサウルス』
アンキロサウルスは、かつて北アメリカ大陸に生息していた恐竜のこと。「一度ひっくり返ると2度と起き上がれない」というアンキロサウルスの定説に、疑問をもって挑みました。
中楯手絢さん(高2)
探究テーマ:『より多くの人に癒しを届けるには』
「単に“癒し”といっても、日本人と外国人では、その感じ方が異なるのではないか?」との仮説が探究の原点。日本の代表的な観光地「浅草」で訪日客104人にアンケート調査をしました。
佐間田源さん(高2)
探究テーマ:『ふくべ細工で地方創生を行うには』
自身の地元・栃木県下野市の伝統工芸品『ふくべ細工』。地元の名産「かんぴょう」の副産物でもあるふくべ細工に着目し、SDGsの観点から地域創生を考えていくという壮大な探究活動です。
宮入裕人先生(探究教育主任)
高1の『才能発見プログラム』の責任者。社会科教員。自身も探究好きで、大好きなカレーの探究をするうちに、『Japanese Curry Award』の審査員を務めるようになったそうです。
トマトあり、恐竜あり、癒しあり、SDGsあり!
多彩な探究活動
――現在高2の皆さんは高1の1年間、『才能発見プログラム』を経験しています。各自の探究テーマと、その概要を教えてください。
四茂野さん
私のテーマは『知って楽しい!食べて美味しい!トマトの魅力』というものです。トマト嫌いな人でも飲める“透明なトマトジュース”や、誰でも食べやすいトマトスイーツをつくる活動をしてきました。
井草さん
私はかつて北アメリカ大陸に生息していた恐竜「アンキロサウルス」を題材に、『起き上がれ!アンキロサウルス』と命名した才能発見プログラムに取り組みました。硬い甲羅を持つアンキロサウルスが起き上がることができるのだとしたら、どのように起き上がっていたのかを、生物学や物理学などの視点から探究しました。
中楯さん
私の探究テーマのキーワードは「癒し」です。日本人だけじゃなく、外国人も含めて、『より多くの人々に癒しを届けるには』がテーマです。日本人と外国人の「癒し」に対するイメージの違いや、共通点について詳細な分析を行ってきました。
佐間田さん
ユウガオの果肉を剥いて干した食品が「かんぴょう」です。役目を終えた“残りのユウガオの実”(いわゆる産業廃棄物)を再利用したものが、僕の地元である栃木県下野市の民芸品「ふくべ細工」です。SDGsの観点からふくべ細工を捉えると非常に興味深いものがあるので、『ふくべ細工で地方創生を行うには』とのテーマで、1年間地元に貢献する道を探ってきました。

『才能発見プログラム』の優秀作は、
学園全体で行う『未来TED』に出場して発表します。
外国人104人に
アンケート調査を実施
――それぞれの探究テーマが、バラエティに富んでいておもしろいですね。具体的にどのような探究活動をしたのか教えてください。
中楯さん
高1の夏休みに、浅草へ街頭調査に行き、2日間かけて104人の外国人に『癒し』に関するアンケート調査を実施しました。
――外国人104人に調査とは、すごいですね。浅草には一人で出かけたのですか?
中楯さん
はい。一人だったら単純に、どうにでもなると思ったからです(笑)。まずはGoogleスライドを使い、アンケートの趣旨を理解してもらうことから始めました。街頭だと紙に記入するアンケートは手間で難しいと考え、事前にGoogleフォームにQRコードのリンクを張り、スマホで読み込んでもらった後、タップして解答できる形にしました。「高校生です」と伝えるとほとんどの人が好意的に協力してくれ、中には自国の自慢話を聞かせてくれるなど、予想外の異文化コミュニケーションを楽しむことができました。
――佐間田さんの探究活動はどのようなものですか?
佐間田さん
そもそも「ふくべ細工」といっても、ほとんどの人が知りません。地方都市に住む僕にとって、その知名度を上げることが地方創生のとっかかりになると考えました。そこでまず始めたのが、地方創生のために下野市内で活躍するNPО法人を探すことでした。コンタクトを取れたのが、若者たちの未来を支援するNPО法人『青二才』でした。関係者へ会いに行く機会が増え、アイデア出しの仕方やプレゼンのやり方など、実践的に指導してもらいました。また、下野市役所に電話をして、ふくべ細工の第一人者を紹介してもらうことをお願いしたりしました。役所の方に僕の探究活動を理解していただき、紹介していただいたのが『下野かんぴょう・ふくべ振興の会』の代表者・青柳さんでした。青柳さんの下に弟子入りをし、実際にふくべ細工を作ってみたりしました。

『未来TED』の様子
行動力があってこそ
「自分だけの探究」になる
――中楯さんも佐間田さんも、主体的な行動力がきらりと光っていますね。
佐間田さん
僕のモットーは「思い立ったら即行動!」です。
中楯さん
人間、追い込まれればやるものです(笑)。
宮入先生
行動力があることによって、探究が初めて「自分だけの探究」になるのです。教科書に載っていない、自分だけの学びの世界です。ちなみに、四茂野さんと井草さんの行動力も素晴らしいものがあります。
――それでは四茂野さんと井草さんも、具体的な探究内容を教えてください。
四茂野さん
トマト嫌いの人向けに最初につくったのは、トマトジュースをコーヒーのフィルターでろ過した「透明なトマトジュース」でした。それを「トマトが嫌い」という先生に飲んでもらったところ、「やっぱりムリ」と(笑)。次に考えたのがトマトのスイーツでした。私は料理が好きなので、どら焼き、マフィン、大福、クッキー、ゼリーの5品を用意しました。トマト嫌いの先生が「これならいける」と笑顔で食べてくれたのがマフィンでした。でも一人だけの調査結果では信憑性がないので、「トマトが嫌い」という生徒を探して、複数の人に食べてもらいました。その結果、トマトジャムを使った大福と、クッキーが好評でした。
井草さん
私の場合は、大学で恐竜の研究を専門にされている方を探したのですが、なかなか見つけられずに困ってしまったことがありました。そんな中、哺乳類について研究されている先生が京都大学にいることを知り、直接電話をして話を聞きに行きました。その先生との会話の中で出てきたのが、「甲羅を持ったカメも起き上がることができるので、ひょっとしたらアンキロサウルスも起き上がれるのかもしれない」という仮説でした。その後、一度ひっくり返ったアンキロサウルスが、どのように起き上がったのかを実証するために、博物館に行って動物の骨格の見学に行ったりしました。

『才能発見プログラム』の成果を、
大学の総合型選抜に活用するケースもあります。
事前に論文を熟読して
大学教授にアプローチ
――それぞれが学校の外に向けて、どんどん出ていく積極的な姿勢がいいですね。
宮入先生
本当にそう思います。大学の先生を訪問したのは、四茂野さんもそうでしたね。
四茂野さん
はい。私の場合は、大阪大学に行きました。人間科学部に味覚の研究をして先生がいらっしゃることを知ったからです。事前に先生の論文に目を通し、「味覚嫌悪」についての知識を得てからインタビューに臨みました。その一方で、「トマトのことはトマト農家さんに聞こう」と思って、知り合いのつてを頼って取材に行きました。ちなみに、私が住んでいる埼玉県北本市はトマトの名産地です。
――生徒の皆さんが取材やインタビューに臨む際、事前に電話やSNS、あるいは人脈などをフル活用していることがわかり、とても興味深いです。
宮入先生
生徒によっていろいろなやり方がありますが、新しいことをやろうとする積極性も高く評価しています。特に中楯さんはQRコードを使った街頭アンケートを始めたばかりか、逆にアナログな「手紙」にもこだわっていました。
――それでは中楯さん、どうして手紙にこだわったのかを教えてください。
中楯さん
はい。「癒し」についてインターネットで検索していたところ、国立研究開発法人 森林総合研究所が癒しの研究に詳しいことを知り、そこの松原恵理先生に手紙を書きました。手紙の方が、ちゃんと思いを届けられると思ったからです。手紙に私のメールアドレスも記しておいたところ、『一度森林総合研究所に来てみませんか?』と。事前に一人で行くことを伝えていましたが、なぜか研究所の入り口に『歓迎!開智未来様』と書いてある大きな紙が貼ってあり(笑)、少し照れくさい気もしましたが感動しました!
宮入先生
『才能発見プログラム』では毎年度、『探究ガイドブック』と題したマニュアルを改訂して生徒に配っています。“中楯さんの手紙”がとても印象的な出来事だったので、今年度のガイドブックには、新たに『手紙を書く』という項目を追加しました。

『未来TED』への出場だけでなく、
外部コンテストに応募する生徒も増えています。
さらに進化する
『才能発見プログラム』に注目!
――今回の『才能発見プログラム』で得られた経験を、今後に向けてどのように生かしていくのかを教えてください。
佐間田さん
実は今、地方創生をしたい人と、地方創生に力を貸してほしい自治体をマッチングする外部の活動に参加しています。場所は熊本県で、春に現地へ行ってきました。活動が思いっきりできるよう自分の名刺も作りました。ふくべ細工で地方創生に取り組んだきっかけを、今度はもっと形のあるものとして進化させていきたいと思っています。
中楯さん
“癒し”つながりということで、『職員室緑化計画』というプロジェクトをひそかに模索しています(笑)。
宮入先生
私だけじゃなく、他の先生方も楽しみにしているので、ぜひ実現してください!
中楯さん
なかなかのプレッシャーですね(笑)。なんとかやってみたいです。
井草さん
一度ひっくり返ったアンキロサウルスが、はたして起き上がることができるか否かの答えはまだ出そうもありません。でも、『才能発見プログラム』には、探究活動で迷ったときに相談できるメンターの先生(『メンター制度』)がいるので、その点は相談しながら、論文にまとめられるところまで頑張っていきたいです。
四茂野さん
トマトのマフィンは校内では好評なのですが、相変わらず父も姉も食べてくれません。「姉に食べてもらいたい」というのが今後の目標の一つです(笑)。なお、せっかく地元の北本市がトマトの名産地なので、今回の才能発見プログラムを通して得られた経験を、地元の発展に貢献できたらと思っています。
――最後に、宮入先生から今後の展望を聞かせてください。
宮入先生
本校の事業が「DXハイスクール」として国に採択されたことにより、その補助金で3Dプリンターの購入や、高性能パソコンを活用した解析装置の設置などが可能になりました。3Dプリンターがあれば、アンキロサウルスの尻尾の骨格を再現することもできます。
井草さん
ぜひお願いします!
宮入先生
あともう一つは、「人とつながる探究」を意識していくことです。どういうことかといいますと、「人とのやり取りから探究は深まっていく」ということを、4名の探究活動から実感したからです。一方、理数系の探究にも力を入れていきたいと考えています。今年度の『探究活動ガイドブック』でも呼びかけています。今後は個人探究だけでなく、グループ探究も取り入れていこうと考えています。

左から、宮入裕人先生、四茂野真湖さん(高2)、
井草穂乃花さん(高2)、中楯千絢さん(高2)、佐間田源さん(高2)。
佐間田さんが持っているのが自作の「ふくべ細工」です。
開智未来中学校
〒349-1212 埼玉県加須市麦倉1238
TEL:0280-61-2021
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