私立中高進学通信
2021年特別号
実践報告 私学の授業
開智未来中学校
探究学習の最前線!
高1「才能発見プログラム」

高1「才能発見プログラム」では、3学期に探究学習の成果をクラス全員の前でプレゼンテーションします。
探究学習が注目を集める以前から、教育の柱の一つとしてカリキュラムに組み入れてきた開智未来中学・高等学校。学園全体で定期的に情報共有・ブラッシュアップを行い、最新の学びを提供しています。そのノウハウと成果を同校の探究活動主任・宮入裕人先生に語っていただきました。
高1生が1年間かけて
じっくり取り組む探究学習

中学・高校の5年間を通じ、学年ごとに探究プログラムを設定している同校。中1では人と自然を学ぶ「里山探究フィールドワーク」、中2では英語力を鍛えながら取り組む「British Hills探究フィールドワーク」、そして中3では個人探究となる「探究フィールドワーク」にチャレンジし、高1の「才能発見プログラム」、高2の「ニューヨーク・ワシントン探究フィールドワーク」を通して、さらに自身の興味と考察を深めていきます。多彩なプログラムのなかから今回ご紹介するのは、1年間かけてじっくり取り組む高1「才能発見プログラム」です。
「大学受験まで余裕があり、精神的にも成長している高1という時期は、探究を深堀りし、じっくり考察するのに最適なタイミングです。1学期にそれぞれのテーマを設定し、1年間かけて取り組み、3学期には成果を発表します」
そう語るのは、「才能発見プログラム」の責任者でもある宮入先生。実は宮入先生、以前在籍していた開智中学・高等学校(埼玉県さいたま市)でも探究学習検討会のメンバーとして実績を積み上げてきた探究学習のエキスパート。4年前に同校へ赴任後、さらなる探究のブラッシュアップを図るべく、新たな試みを積極的に行っています。
探究を深めるための
「才能発見プログラム検証方法の手引き」と「メンター制度」

その一つが、今年度から配布された「才能発見プログラム検証方法の手引き」。宮入先生が作成した冊子で、具体的な検証方法や資料のまとめ方など計28通りが、その具体例とやり方のポイントとともに示されています。
たとえば、検証方法については「体験活動を通して情報を収集する」「複数のグラフを読み解いて検証する」「アンケート調査で情報を収集する」「インタビューで情報を収集・検証する」など16種、資料のまとめ方については「時系列表で整理・分析をする」「メリット・デメリットの視点で整理・分析してみる」「ロジックツリーで整理・分析をしてみる」など12の手法が、図とともに解説されています。
「ただ『探究しなさい』と言うだけでは、どのように進めていいかわからず、書籍やネット検索を通して得られた情報だけで探究を終えてしまう生徒もいます。その部分を改善しようと作成したのがこの手引きです。今年度は、ここからテーマに沿った検証方法を少なくとも1つは選ぶように指示しました。また、効果的に探究を深めていくには、テーマ選びが大切になるので、そこにも時間と手間をかけました。各生徒がメンターとなる先生を選び、そのメンターと面談してテーマを設定するようにしたのです。
たとえば“利根川に住む魚について”というテーマだと、図鑑で調べるだけで終わってしまいがちです。そうではなく、具体的かつその生徒だけのテーマに仕立て直していくサポートをするのがメンターの役割です。利根川で魚が少なくなっているとしたら、その理由は何なのか、どうすれば増やすことができるのか、というふうに、興味や問いの方向づけを行っていくのです」(宮入先生)
メンターは、校長先生も含め全教員が担当。各教員の得意分野・専門分野を記入した資料を生徒に配布し、生徒は自分の興味に合わせてメンターを選びます。その際には、まず希望の先生にアポイントメントを入れ、面談を受けて合格すれば晴れてメンターを引き受けてもらえる、という仕組みが設定されています。
「もちろん最終的には全生徒にメンターは付くのですが、自分で選び、面談のアポイントメントを入れる、という行為に大きな意味があるのです」(宮入先生)
テーマが決まると「現段階での『問い』の一覧」が教室に張り出されます。その内容は「どうすれば将棋が強くなるのか」「ドイツはヴェルサイユ条約による賠償金をどう支払ったのか」「人はどこで老いを感じるのか」「なぜ環境省が推奨する冷房時の室温が28℃なのか」など百人百様となっており、ほかの生徒の問いを見て刺激を受け、モチベーションがあがる効果もあるといいます。

「ランキングにすることで分析する」「フリップボードで情報を収集・検証する」などの検証方法が、
実際のやり方とともに示されています。
2学期の中間発表を経て
3学期は探究成果をプレゼンテーション
相談の場であるメンターに対し、発表の場として機能しているのがゼミ制度。同校では、クラス単位ではなく、中高一貫生と高校入学生をミックスした20名程度のゼミを設定しており、小さな発表はこのゼミで行われます。夏休み明けには、個々で深めた探究の中間報告をすることになっており、夏休み後半、生徒はそのスライドや資料作りに励みます。そこで活用されるのが、前述の「才能発見プログラム検証方法の手引き」。ここから最適な資料のまとめ方を選びます。
2学期は、メンターとの定期的な面談、ゼミでの発表を行いながら、検証・分析を繰り返し、探究を深めていく期間。並行して12月までにプレゼンテーション資料を作り、3学期の発表に備えます。このように学校全体によるさまざまな角度からのサポート態勢が整っているのも同校の大きな特徴といえるでしょう。そして3学期にはいよいよ1年間の集大成であるプレゼンテーション。ゼミとクラスで発表を行い、各学年から優秀な生徒が2名選ばれ、学園全体で行う「未来TED」に出場します。
「何度も面談を行って興味を掘り下げ、仮説・検証を繰り返し、人前で発表という1年間の取り組みを通して、生徒は大きな成長を見せてくれます。中1の時は意欲が低かったものの、興味がもてるテーマと出会ったことで、未来TEDに出場するまで成長した生徒もいます」と宮入先生。



学年で選ばれた2名が「未来TED」に出場。
全校生徒の前でプレゼンテーションを行います。
「1年間探究した内容を堂々と発表している様子に、
生徒の成長ぶりを感じます」(宮入先生)
※TED(Technology Entertainment Design)とは、アイデアを広めることに専念する非営利団体であり、1984年にテクノロジー、エンターテインメント、デザインが集結した会議として始まり、今日では科学からビジネス、世界規模の問題まで、ほぼすべてのトピックを100以上の言語でカバー。未来TEDとは、TEDの開智未来版。
外部コンテストに応募し
さらなるレベルアップと生徒の成長を促す
これまでにも、探究学習の成果を大学のAO入試(現・総合型選抜)に活かすケースは多く、ある生徒は探究活動を通して自身の興味を突き詰め、その取り組みをアピールして東京大学の学校推薦型選抜で合格を手にするなど、大きな成果をあげている探究学習ですが、今後の目標は「外部コンテストに出場すること」と宮入先生は力を込めます。
「『全国高校生マイプロジェクトアワード』など、探究活動で応募できる外部のコンクールにどんどん応募させたいですね。出場するという目標に向けてモチベーションが上がり、完成度も高くなり、何より生徒の成長につながります。毎年4月に才能発見プログラムのキックオフイベントを行い、1年間のスケジュールや進め方、目標などを生徒に話すのですが、今年は外部コンクールに応募しようと呼びかけました。そのうちの一つ、高校生模擬起業グランプリ『リアビズ』に言及したところ、興味を示した生徒が何名かいましたね。起業プランがグランプリをとれば、賞金として開業資金が授与されるのです。探究活動を発展させて起業プランを考えて応募したいという生徒もいて、近所のプラスチック工場から実際に見積もりをとっていました。このような生徒たちが増え、ほかの生徒に良い影響を与え、好循環を生んでくれたらうれしいですね」と宮入先生。
新たな取り組み・試みを積極的に行い、進化を続ける開智未来の探究活動。今後の活動と生徒の成長から目が離せません。




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