私立中高進学通信
2022年特別号
私学だからできるオリジナル教育
東京成徳大学中学校
教養を身につけ、予測不能な現代社会で
自走する力を育む「自分を深める学習」

「人生で役立つ、ためになるテーマに沿って、楽しくわかりやすく、
いろいろな考え方やモノの見方に気づいてもらえる授業を心がけています」と長原潤一先生
「徳を成す人間の育成」を建学の精神とする東京成徳大学中学・高等学校。2026年に迎える建学100周年に向け、新たなビジョン「成徳の精神を持ったグローバル人材の育成」を掲げ、完全中高一貫校の強みを生かした、6年間を通して大きな成長を遂げる教育を実践しています。「未来を見据え、世界を知る、自分を拓く」を教育コンセプトに、高度な「ICT」「英語」「探究」をはじめとする多彩なカリキュラムで、“夢が目標に変わり、未来につながる”特色ある教育を展開。その柱となる独自の授業「自分を深める学習」について、中1担当の長原潤一先生にお話を伺いました。
答えがひとつではない問いに対して
考え続けることで視点・考え方の幅を広げる
約20年前から実施している「自分を深める学習」は、“徳を成す人間の育成”の核となる、同校が誇る独自の授業。「自分とは何か」「なぜ学ぶのか」「どう生きるのか」「幸せとは何か」といった、答えがひとつではない問いについて考え続けていくなかで、視点・考え方の幅を広げ、人生を自走する力を育むことが狙いです。
「時には迷い、壁にぶつかりながらも、クラスで最適解・納得解を導き出していきます。自分を見つめ他人を理解することは、人が社会で生きる基本であり一生のテーマ。見聞する世界が格段に広がり、大きな変化の波が来ている現代社会において、自分を保ち、社会に適応していく力は、よりいっそう必要となってきます」と長原先生。
「自分を深める学習」は週1時間、中学生は「道徳」の時間を使って行われます。中1は「人と人とのつながり」、中2は「命のつながり」、中3は「グローバル社会の中でどう生きるか」と、学年ごとに大きなテーマが設定されており、段階的により広がりのあるテーマを扱いながら学びを深めていく内容となっています。そのなかでも各回の授業ごとにテーマが設定され、中3になると「将来どう生きるか」といったキャリア教育につながる内容も含んできます。

理科教員の父、国語教員の母を両親にもち、自身も早稲田大学教育学部卒業後、東京成徳大学中学・高等学校の理科教員に。船橋市の道徳教育を推進している父とは意見交換をすることも。大学時代に小林秀雄氏の著書に感銘を受けて読み漁った経験も、「自分を深める学習」の教材作りに生かされています。
五感を使ったアクティブラーニングと
自分の考えを文章化する「内省」
授業は、各学年の「自分を深める学習」の担当教員と担任教員による2名体制で進められ、ディスカッションや発表がメインのアクティブラーニングを基本としています。
「毎回テーマに沿って考えを発表し合い、最後には内省という形で自分の考えを文章化します。次の授業では、数名の意見をランダムに選んで共有するのですが、そこには自分とまったく異なる意見もあれば共感できる意見もあるわけです。その繰り返しによって視野が広がりつつ、自分が深まると考えています」
まずは生徒同士が仲良くなる授業にしたいと語る長原先生。そのために、多様性を認め合い、「人と違っていいんだ」「ここにいていいんだ」という所属感が感じられる雰囲気づくりと、なるべく五感に働きかける内容を心がけています。
「たとえば、校外学習と絡めて実施した時は、真っ暗な自然の中を灯りなしで歩く授業を行いました。そこで音や匂いを感じながら、自然とのつながりを考えてもらったのです。教室では、実際にコーヒーを飲んでもらい、感じた味から、対立につなげて学びを深めたこともあります」。
対立するものに
もうひとつの軸を加えてみるという考え方
コーヒーの味から「対立」? それはどういうことなのでしょうか。
「生徒の多くはコーヒーを苦いと言いますが、苦みの先に甘みを感じてみようと提案します。そして苦みと甘みだと直線状で対立するけれど、そこにもう一つの軸、たとえば『香り高い』という軸を加えると、要素が3つになって対立ではなく調和しますよね。2つの間の対立は我々の身近にもたくさんありますが、そんな直線的な対立にもうひとつ軸を足すと、XYZの空間的な広がりができて調和するんじゃないか、と問いかけるのです。『香り高い』はあくまで私の意見ですが、生徒それぞれに答えがあっていい。つまり、何か対立があったときに、自分でオリジナルの軸を加えてみたらどうだろうと促してみるのです」

「苦甘香~おいしいコーヒーの真実」と題して、三軸ついて考察。長原先生が淹れたコーヒーを飲みながら、対立を調和に変える考え方を学びました。
「自分を深める学習」は、モノだけではなく人と人とのつながりも考えるので、“好き”と“嫌い”についても取り上げました。
「『好きだけど嫌い、嫌いだけど好きという一見矛盾した感情は、“恋愛”や“友情”という、もう一つの軸を加えると納得できるよね』とか『“ありがとう”と“迷惑”、この対立する感情が混在する人間関係は親子関係だよね』など、矛盾を抱える人間関係についてもよく話します。思春期ではこの矛盾を解消できずに悩むこともあるかもしれませんが、矛盾していていいんだと気づいてもらえれば、生きやすくなると思うのです。そんな人と人とのつながりについて思いを巡らせながら、自分の考えを整理し、いろいろな考え方があることに気づいてほしいですね」

ある時の三軸は「ナンバーワン」と「オンリーワン」、そして生徒たち自身が考えるもう一つの軸。ある生徒はそこで「ラウンドワン」を軸に挙げました。「ナンバーワンとかオンリーワンを超えて、みんなでボーリングをすると楽しいよね」との言葉に教室はわき上がりました。
「発表が楽しい」「書きたい意欲が高まる」
主体性が引き出され文章力も向上
こうした学び・問いを繰り返し行うことで、生徒たちはどのような変化・成長を見せるのでしょうか。
「生徒には毎時間ごとの内省と、学期ごとのアンケートを書いてもらうのですが、そこでは『自分の意見が否定されないのがうれしい』『友達の意見を知ることができて興味深い』『発表下手だったけど、自分の考えを発表するのが面白くなってきた』といったポジティブな感想・変化が多いです。また、“命と死”について考えてもらった時には、『小学生時代に、いじめられて死にたいと思ったこともあったけど、自分を深める学習で、命を大切にしなくてはと思うようになった』という内省もありました。そんな生徒に響くような内容も盛り込んでいけたらと考えています。
学力面では、内省を書くことで文章力がついていると感じます。書けるようになると同時に、問い続けることで書きたい意欲が高まるのだと思います。こうした思考を言語化・文章化する力は、学力の向上につながるだけでなく、論文や資料作成など、大学や社会に出てからも役立つものとなるはずです」
世界の名著や哲学書も取り入れながら
将来役立つ人生の種まきをしたい
今後は、20年間のノウハウと時代のニーズを融合させながら、さまざまな要素を取り入れ、さらにブラッシュアップしていきたいと語る長原先生。
「“面白くて、わかりやすくて、ためになる”を前提にしつつ、生徒が大人になったときに花開く人生の種まきをしたいので、年齢に対して高度なことをやっていると思います。活字離れが叫ばれて久しいですが、ドストエフスキーなど世界の文学や哲学書を取り入れることもありますし、私が大学時代に感銘を受けた小林秀雄の著書を引用することもあります。3学期は孔子の言葉『知好楽』や『真善美』など、先人が説いた3文字の漢字を取り上げ、その意味を考えていく予定です」
こうした学びを経た生徒の未来として長原先生が思い描くのは、大人になった彼らが、グローバル社会で徳を成す人間として、多様性・違いを認め合いながら、自分で考え、行動し、柔軟かつしなやかに人生を切り開いている姿。
「たとえば対立があったときにも、『もうひとつ軸を加えればいいんだ』とか『矛盾していてもいいんだ』と思い出してほしい。10年後20年後に、『自分を深める学習』で得たことが役立っていると感じてもらえたらうれしいですね」
テーマ | 内容 | |
---|---|---|
第1回 | ビッグロック | 大切なものは何か |
第2回 | 知好楽 | 別のビッグロックに気付く |
第3回 | なぜ学ぶか | 「何よりも国語」を読んで |
第4回 | ありがとうの手紙 | 大切な人へありがとうの手紙 |
第5回 | 「ありがたきもの」 | 語源を知り、命のつながりを知る |
第6回 | 言葉惜しみ | 当たり前のことが難しい |
第7回 | あたりまえ | ありがとうの対義語を考える。 |
第8回 | なぜ生きているのか | 自分とは何かを考える。 |
第9回 | 夏休みのプランを立てる | PDCAサイクルの紹介と共に |
第10回 | 中学生のボランティア | 小善は徳をもたらす |
第11回 | 退職後のボランティア | 視点を変える |
第12回 | 「よみがえれ 日本海」 | 環境問題も視野に入れて |
第13回 | 西田幾多郎「善の研究」 | 真の善とは何か、どう生きるか |
テーマ | 内容 | |
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第14回 | ジョハリの窓 | 信頼と創造 |
第15回 | 憧れの人物 | 「代表的日本人」を先に見据えて |
第16回 | 十人十色を知る | 前時のポスター鑑賞と他者理解 |
第17回 | 心に余裕を | 人生相談を読んで考える |
第18回 | 「美を求める心」 | 心とは何か |
第19回 | 2学期担任企画 | 各クラス オリジナル授業 |
第20回 | 協働 | 合わせアドジャン |
第21回 | 信頼 | フィストバンプ |
第22回 | 「オトナ受験」 | 一年前は受験生だった |
第23回 | いまの自分を知る | エゴグラムから考える |
第24回 | 座禅のすすめ | 自由とは何か |
第25回 | 1年間の振り返りと1年後への手紙 | アンケートと手紙執筆 |
2021年度の中1での実施内容。世界の名著や哲学書、エゴグラムやマインドマップなど、多彩な教材と多角的なアプローチで生徒の思考と教養を深め、知的好奇心を刺激する授業を展開しています。

「自分を深める学習を通して、今まで自分の考えが当たり前だと思っていたけれど、自分と考えが反対の人もいるんだと知りました。相手を否定するのではなく、受け入れることができるようになりました」(中1生徒)
※2022年10月30日(日)の学校説明会では、「自分を深める学習」について長原先生が語ります。毎回「わが子に受けさせたい」と保護者から大きな反響があるそうです。興味のある受験生・保護者はぜひ足を運んでみてください。

美しいキャンパスと校舎は、気持ちの良い学校生活のための必須条件です。理想教育の実現を目指して造られた同校の校舎は、廊下も教室も広くゆったりと造られ、もちろん安全対策も万全。建築から20年経った今でも、最高ランクとの評を得ています。
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