左から、中司延亮先生、堀井清史校長、齋藤雄志先生。
四條畷学園中学校では、「夢や目標を明確にして、自ら高校を選んでほしい」という思いから、2021年より3年間教育を実践しています。そんな同校の変革のバトンをともに握る3名の先生にフォーカス。挑戦を続けることで遂げた進化が見えてきます。
「英語の楽しさを誰かに伝えたい!」と教員の道へ。1983年に英語科教諭として四條畷学園に赴任。1996年の国際コース設立に携わり “ツールとしての英語”を学ぶカリキュラムを追求。そのエッセンスを注ぎ込んだ、現在のグローバル教育への思い入れも強い。
異業界で“人を育てる喜び”を知ったことから「子どもの教育に携わりたい」という思いが芽生え、理科(化学)教諭に転身。創設を担った旧6年一貫コースでは、1期生の担任を務め、そのとき独自に創り上げた探究活動『自分プロジェクト』が、現在の3年間教育における探究学習のベースとなっている。
社会科教諭。コース改編後の発展探究・発展文理クラス1期生(現中3)を学年主任として見守りながら、探究学習の進化に力を注ぎ、2022年度は中2の職業体験を、2023年度は中3の修学旅行に企業と連携した探究型プログラムを導入。生徒・保護者からの信頼は厚く、担任を持たない今も多くの相談が寄せられるそう。
先生方は教員として、どのような思いを大切にされているのでしょうか。
堀井校長
英語科教諭としての、「英語は単なるコミュニケーションのツールであることを伝えたい」という思いです。1996年に立ち上げた国際コースでは、中学段階でイギリスに2ヵ月間滞在するプログラムを設けました。
忘れられないのが、現地で毎朝行われた各国の引率者によるミーティングです。最初はアクセントの違った英語で積極的に考えを主張する他国の引率者に圧倒され、何も言えない自分がいました。でも回数を重ねるうちに、対等に話せるようになっていったのです。そして英語は単なるツールであり、アクセントやイントネーションの違いや、美しい発音かどうかは関係なく、「(英語で)伝えようとするから、伝わるのだ」という気づきを得ました。これこそがまさに国際感覚なのではないでしょうか。現在行っている少人数制の英語授業『Reading & Communication』(RC)の礎となっています。
中司先生
私の理科の指導では、生徒に疑問を投げかけて、一緒に考えるスタイルを取っています。若い頃はわかりやすくしっかりと教えることこそが教員の役割だと思っていましたが、旧6年一貫コースで探究学習を担当し、答えがあるものを教える教科学習とは異なる探究学習の指導の難しさを実感。そこから意識が変わりました。たとえば生徒が質問に来たら、「先生もわからんわ」と言って一緒に考える。生徒にとっては面倒だし、時間もかかるとは思いますが、「自分で考えるから、めっちゃ理解して帰れる」と言ってくれますね。
齋藤先生
生徒自身が気づくと信じて待つことです。宿題一つとっても、手取り足取りではなく、あえて「こういうふうにやってみたら」といったアドバイスをするにとどめています。根底には、自分の考えや行動に責任を持ち、人のせいにする人間にはなってほしくないという思いがありますね。
生徒のことを一番に考え、時間も手間もいとわない姿勢が伝わってきます。
中司先生
生徒との距離の近さは、本校教員に共通している点かと思います。オープンスクールなどでは、話しかけやすいという意味合いで、「先生がみんな若い」とよく言われるんです。
齋藤先生
私は学年主任で担任を持っていないこともあり、他の先生方に比べると、生徒との距離は少しあるのかなと感じますが、今も相談されることはあります。そうなると、いついかなるときにも対応してしまう自分がいます。生徒からタブレットの連絡ツールで、勉強面で困っていることがあると言ってきたら、「明日の朝に相談にのるよ」と返事をしたり、つい先日は保護者の方から電話で相談があって、お話を聞いたり…。
中司先生
学年主任という立場で、生徒や保護者から直接相談が寄せられるというのは、すごく距離が近いと思いますよ!(笑)
齋藤先生
真剣に悩んでいたり、困っていたりするときは、親身に接しようと心がけています。本校にはそういう教員が多いですよね。
校長先生は先ほど(取材前)、海外研修の事前学習に顔を出されていましたね。研修への思い入れの強さとともに、生徒との距離の近さも感じられます。
堀井校長
海外研修では、ニュージーランドの姉妹校で日本の料理を披露するので、先ほどは事前学習として、ネイティブ教員と一緒に英語で話しながら焼きそばを作っていました(笑)。
生徒との距離感については、探究学習を通して互いの考えを尊重する姿勢が育まれているところが大きいのではないでしょうか。言いたいことを言える環境には、自然と活気が生まれます。私は校長という立場ですが、生徒によく声をかけますし、生徒からも話しかけてくれるんですよ。
中司先生
私にとって生徒は大切なファミリーであり、対等なライバル。生徒のすごいところを目にすると「自分も負けたくない!」と本気で思いますし、生徒から教えてもらうことも多々あります。担任を持っていたときは、この姿勢で、言いたいこと、言うべきことを言い合える関係を築いていました。「教員だから」という甘えは許されないという思いがあり、だからこそ生徒たちも、私の言葉を真剣に受け止めてくれたのかなと思います。
斎藤先生
担任は『日直面談』で毎日1~2名の生徒と話していますし、日常的にコミュニケーションを取っていますね。
堀井先生
実は『日直面談』は私が“生みの親”です! それまでは学期に一回、面談週間を設けていたんですが、「毎日2人ずつ、ていねいにやったらどうかな」と。
斎藤先生
だから、仲が良いだけではない、信頼関係ありきの距離の近さですよね。放課後に廊下で話している姿もよく見かけますし、朝礼後も、すっと職員室に帰ってくる教員はいません。教卓の周りに自然と生徒が集まってきて、皆で話しているのが本校の日常です。
こうして話されている姿を見ていると、先生方同士も良い関係性を築けていると感じます。
堀井校長
本校は2010年に、当時はあまり見られなかった探究学習に挑戦しました。そして2021年、中高の私学では6カ年一貫教育が主流のなか、あえて3年間教育に原点回帰しました。
そうしたチャレンジングな姿勢はコロナ禍においても顕著でした。生徒会による『校則見直しプロジェクト』などは、(コロナ禍の)今だから変われる、変えていこうという思いを、生徒とも共有できていたという自負があります。
ただこのような改革は、「こういう学校づくりをします」と宣言するだけでは成し得ませんから、教員の意識改革にも力を注ぎました。生徒たちをファシリテートする立場にある教員一人ひとりが、「前例にとらわれず、良いと思うこと、不合理だと思うことは変えていこう」という気持ちを持ち行動することで、生徒たちの意識や行動にも良い影響を与えることができますからね。
中司先生
職員室にホワイトボードがあるのですが、これは教員一人ひとりが思っていること、変えたいことやアイデア、何でもいいから書いてもいい場所として開放しているものです。とは言っても、「そんなにアイデアは出ないかな…」と思っていたら、想像以上に書き込みがあり、中には強烈な改革案もあって(笑)。
斎藤先生
いろいろな意見が出てきましたよね。
中司先生
校長からすれば、「こんなこと書く?」というものもあったかもしれませんが、否定するのではなく、一つひとつ受け止めて、ていねいに議論を重ねました。
堀井校長
「こうしたい」という思いがあって、実際に良い変化につながると喜びを感じますし、教員自身の自己肯定感やモチベーションにもつながります。探究学習は生徒たちにとってそういう場ですが、教員も同様の場に立っていなければ、生徒の意見を引き出し、活かしていくというスタンスで指導することはできません。本音を言える雰囲気が定着してきたことで、生徒たちも劇的に活発になりました。
斎藤先生
探究学習では、想像以上に失敗を恐れずに取り組んでいる姿が見られます。挑戦することを恐れない生徒が育っているなと感じますね。たとえ失敗しても、自分で選んだ結果だから人のせいにはしませんし、前向きにリトライできる。失敗したほうが身を持って学べるので、失敗できる環境であることを大切にしたいと思っています。
そういう経験の積み重ねが、進路実現や社会での活躍において力になるのかもしれません。
中司先生
私自身この学校で、リスクがあっても最大限の努力をし、準備をして挑んできました。そこから得たものは多くて、教員という仕事も、学校という場所も、心からやりがいを感じて楽しめています。
堀井校長
そうやってチャレンジできる場であること、チャレンジを楽しめることが大切だと思います。私もこれまで、「英語教育を変えたい」「生徒の朝礼に参加したいから、教員の朝礼を短縮したい」とか、生徒のためになることはやりたいと、意思表示してきました。
中司先生
その“革命児”の血が騒ぐのか、校長になった今も、ポスターのデザインなど細かいところにも目を配って、アイデアを出してくださいますよね。だからといって、それに従わないといけない…ということはなく、ときには聞き流すことも許される雰囲気です(笑)。
堀井校長
教員間の風通しは本当に良くなりました。生徒ファースト、保護者ファーストの姿勢を大前提としながら、そうした空気感を大事にしていきたい。今後も、教員一人ひとりが自ら考え、生徒たちにとって本当に良い教育を追求するスタイルのさらなる熟成を目指します。