グローバル経済社会における、日本の国際競争力の低下が叫ばれて久しい昨今ですが、その原因の一つに挙げられるのが教育のあり方です。特定の分野(たとえば論理的思考力など)に関係なく誰もが実社会で求められる力、すなわち汎用的な「ジェネリックスキル」の育成が不十分ではなかったかと指摘されています。
こうした時代背景も受け、より高いレベルでジェネリックスキルを育てていくために誕生するのが、新コース『メインストリーム・コース』です。
「社会で活躍するための能力は、大きくコンピテンシーとリテラシーに分けることができます。コンピテンシーとは、優れた成果を生み出せる人の行動特性のことです。協働力や思いやり、誠実さなどが挙げられますが、アットホームな校風の影響か、本校の生徒はもともとこれらが高い傾向にあります。対してリテラシーとは、知識や能力を活用する力のことで、この両輪がそろってこそジェネリックスキルとして機能すると考えます。新コースでは、特にこのリテラシーを高める教育活動を充実させていきたいです」(入試広報部長・田村信平先生)
現在は、主に国公立大学進学を目指す生徒が多い『フロントランナー・コース』と、系列の甲南大学進学者が多い『アドバンスト・コース』で構成されています。『メインストリーム・コース』は、このうちのアドバンスト・コースを改編する形で誕生するものです。
「しかし、何かを大きく変えるわけではありません」と田村先生。ジェネリックスキルを大切にした教育は、従来のアドバンスト・コースでも高い評価を得てきました。いえ、むしろそこにこそ同校のアイデンティティが詰まっていたと言っても過言ではありません。
同校は、西日本の私学では唯一となる旧制高校の流れを汲み、屈指の伝統を誇る男子校。「世界に通用する紳士たれ」を教育目標に掲げ、名だたる有名企業の経営者など、実際に多くの著名な実業家を輩出してきました。また、ビジネス界だけでなく政治家や法律家、医師、アーティストやアスリートまで、多様な世界でOBたちが活躍しています。
「誤解のある表現かもしれないが」と前置きして、田村先生はこう明かします。
「国公立大学への進学実績から、フロントランナー・コースがメインであるかのような印象を持たれるかもしれません。しかし、フロントランナー・コースはあくまで本校の両輪の一つであり、もう一つはメインストリーム・コース(旧アドバンスト・コース)です」。
新コースに『メインストリーム・コース』と名付けたのも、その自信と信念の表れだと言えるでしょう。ジェネリックスキルを伸ばす教育をさらに強化し、より“甲南らしく”、原点に立ち返るかのように進化していくためのコース改編なのです。
では、どのような部分が進化するのでしょうか。これまでも同校では、「OBワークショップ」「OB企業訪問」など、卒業生の強い愛校心とネットワークを下地にした取り組みを多数展開してきましたが、今回のコース改編においては、より高いレベルでリテラシーを育てていくため、同一法人に当たる甲南大学との連携を強める計画です。
具体的には、甲南大学が進める「SDGsプロジェクト」(KONANプレミア・プロジェクト)に参加したり、甲南大学の学生の指導のもと一緒にクラブ活動を行ったり。一緒に研究・調査・発表を行いながら「中高生のうちから、大学生と共に学べる」環境だと考えるとわかりやすいかもしれません。しかしこれらはあくまで“手始め”。さらなる個別の連携案については、臨機応変にブラッシュアップしていく予定だと言います。
注意したいのは、甲南大学への進学を前提とするものではないことです。あくまで甲南大学の持つ叡智を活用して、生徒により多くの機会を提供しようという考えに基づいています。
「『メインストリーム・コース』の誕生によって、リテラシー、ひいては総合的なジェネリックスキルが高まれば、それらの力が評価される総合型選抜型の大学入試においても成果につながっていくでしょう」(田村先生)
もともと小手先の偏差値教育や、学びを費用対効果で考える価値観とは対極の理念を持つ同校。まさに同校の“メインストリーム”となる、進化した学びに期待が高まります。
クラブ活動が活発で全国大会の常連クラブも数多く擁するが、実績重視ではなくむしろ、教育目標である”徳・体・知”と仲間意識を育む場として捉えている。
中高を分けずに6学年が一緒に活動するところも甲南らしさ。写真はブラスアンサンブル部と応援団。