

眞砂和典校長。生徒に学ぶ意義の本質を伝えたいと意気込む。
建学以来114年、屈指の文武両道校として知られてきた三田学園。高い大学進学実績を誇りながらも8割以上の生徒が部活動に参加し、忙しくも充実したスクールライフを送っています。
しかし、眞砂和典校長は「本当にそれだけでよいのだろうか」と、ある種の危機感を抱いたそうです。
「いわゆる文武両道を“二次元的な学び”と捉えるなら、これをもっと“三次元的な学び”へと昇華させたい。具体的には、探究学習にさらに力を入れ、より立体的な学びにしたいのです」
探究学習は、社会と自己のつながりを意識しながら、自ら問いを立てて課題解決や物事の真理に迫る学び。学習者(生徒)のより強い意欲が問われます。三田学園が目指すのは、まさにそうした主体性のある学びです。従来の強みである文武両道に加え、そこにさらなる主体的な学習姿勢を加えることで、それらが互いに相乗効果を生むような“三次元的な学び”の環境を実現させようとしています。
一般論として従来の教育観において、「生徒は先生の指示や指導に従って学ぶ」ことが中心でした。特に同校の
ような進学校は、非常に高い教務力や教育コンテンツを持っています。しかし、それらを信用するあまりに依存性を生み、生徒が自ら工夫しながら主体的に学ぶ姿勢や、学ぶ意義の本質を問う意識を奪っている面があるのだとし
たら……。眞砂校長が抱いた危機感はまさにそこにあり、力を込めて次のように真意を語ります。
「生徒たちが学習をどう捉えるか。その根本的な意識を変えたいのです」

放課後を活用して行う『Thank you 探究Day』
たとえば「テストでいい点を取りたい」「通知表の成績を上げたい」「志望校(大学)に合格したい」――これらは多くの生徒が思うことであり、その気持ち自体は間違いではありません。しかし、勉強をするのはそれが理由でしょうか。それらを目的やゴールとした学びは、教育の本質を矮小化させてしまうのではないでしょうか。そのことに生徒自身が気づくことで、学習者としてより高い次元に移行してもらいたいというのが目的なのです。
これを生徒たち、あるいは保護者に理解してもらうにあたり、眞砂校長はよく『概念学習』のお話をされるそうです。概念学習とは、持つ知識や経験を“概念”として理解し、応用できる力を育む学びのことです。たとえば日本史なら“変”は革命や政権の転覆を伴う戦い、“乱”は政権側に鎮圧された戦いであるという概念を理解できていれば、一つひとつの歴史的戦乱の内容を個別に暗記しなくても、概要がつかめます。ものごとを抽象化する思考と、具体化する思考を行き来しながら考える学習だと言えるでしょう。こうした概念的理解をさらに広く捉えることで、自分は「何を知りたいのか」「なぜ学ぶのか」「何をどのように学ぶべきか」を意識できるようにするのが、同校が目指す学習なのです。
もちろん、言葉で説明するだけでは、生徒もすぐに理解するのは難しいかもしれません。大事なのは、実体験を通して納得することです。同校ではここ数年、さまざまな改革に取り組んできました。その一つが先述した、「探究学習の進化」です。さらに、「学期ごとの中間試験の廃止」「観点別評価への注力」など、多様な角度からのアプローチで、生徒に“気づく機会”を届けようとしています。さらにそうした教育のクオリティを担保するため、教員の授業研究や働き方改革にも力を入れてきました。
すでに確固たる実績や強いブランド力のある学校を変革していくのは、並大抵のことではありません。しかし、変化を恐れずに進化してきたからこそ、永きにわたって支持され続けてきたのだとも言えるでしょう。改革は、三田学園と生徒が共に“次のステージ”へと駆け上がっていこうという意識の表れ。百年以上の歴史を誇る同校が、次の百年に向けてどのように動くのか、ますます注目が集まります。
『概念学習』の中心となるのが、探究学習への注力です。総合的な探究の時間の授業とは別に、放課後を活用して『Thank you 探究Day』を導入しています。これは生徒の純粋な「やってみたい」という気持ちを喚起するもので、日常の中で感じた疑問や問題意識を教員が拾い上げ、講座として形にします。
2023年度には「倒木でベンチを作ろう」、2024年度には「中高生のためのマインドフルネス入門」など、数十もの多様な探究テーマを掲げて実施されました。写真は2025年度実施の「パウンドケーキ探究」と、使わなくなったプロジェクターを利用した「プロジェクションマッピング」。「参加不参加も、自分で主体的に判断してほしい」と眞砂校長は語ります。
2025年度から中間試験を廃止し、授業のなかで定期的に単元テストを実施する体制に変えました。「なぜテストをするのか」という本質を考えたとき、いわゆる定期テストの「試験期間」が設けられることで、「その期間だけ勉強すればよい」という誤った学習習慣が根付かないようにするためです。
テストのために勉強するのも、ヤマを張るのも、本来あるべき学習者の理想とは異なります。生徒からは「期末試験しかないので試験範囲が増えて大変だ」という声が聞かれることもあるそうですが、「そもそも、その発想が違うんだよ」と、根気よく真意を伝え続けています。

これまで学期ごとの成績は、テストの結果に重きが置かれがちでした。しかしそれでは、他人との比較やテストの点数ばかりに意識を奪われ、相対評価のための勉強になりかねません。
そこで数年前から「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」で総合的に成績を判断する、いわゆる『観点別評価』(3観点評価)へとシフトしました。文部科学省主導で全国的に必須化されている評価方法ではありますが、同校ではそれら3観点が形として見えやすくなるように授業改革を進め、プレゼンテーションや生徒同士による教え合いの場の増加、学習アプリの利用状況の把握などに努めています。

よい教育環境を作ろうとすれば、それだけ現場の教員の負担も増すものです。昨今は教員の労働環境が社会問題化していますが、同校ではそうした点もふまえて、教育の改善との両立を図ろうとしています。
たとえば半日or一日の、自宅研修日(在宅業務日)を設定したり、教員間でのグループチャットを設けて授業実践の情報共有をしたり。チャットでは「新しい授業スタイルを実践するので、見学にきてください!」など、活発な活動や意見交換がなされています。「少しでもよい授業を!」は、三田学園の教員に共通する合言葉です。