『フィリピン体験学習』のお話を聞かせてくれた高2・Uさん(写真左)と高3・Kさん(写真右)
30年以上もの長きにわたり、フィリピンの貧困地域への支援や交流を行ってきた小林聖心女子学院。その活動の一環として、実際に現地を訪問する5泊6日の『フィリピン体験学習』(希望者対象)があります。支援施設や学校を訪れて現地の人々と交流し、さまざまな体験をします。参加した二人の生徒に、現地で学んだこと、感じたこと、驚きや感動を語ってもらいました。
児童労働の現実に衝撃を受け、参加を決意。貧しくても自らの置かれた環境を楽しむ子どもたちに出会い、“豊かさ”の本質を考え始めたという。
現地の子どもたちが、まっすぐな心で自分を表現する姿に感動。進学先の大学では経営学を学び、将来はボランティアの運営に携わりたいとのこと。
『フィリピン体験学習』に参加したきっかけや理由は?
Uさん
私は小学校から小林聖心に通っていて、小学生のとき見た動画が衝撃的だったことが大きいです。カカオ農園での児童労働問題に密着したものでした。自分たちが収穫しているカカオがチョコレートになることも知らず、もちろんチョコレートを食べたこともなく、なぜ働かされているのかもわからないままの子どもたちの姿を見て、問題意識を抱いたのがきっかけです。
Kさん
私も小林聖心の小学校時代からフィリピンについて学んでいて、貧困地域への募金活動などが日常の学びの一部になっていました。また、SMSF(聖マグダレナ・ソフィア基金。聖心会を母体とする、フィリピンの支援団体)のボランティア活動で、オンラインチューターとして毎週一回、現地の子に英語を教えていたので、その子たちに直接会いたいと思ったことも理由です。実際に会うと、画面越しにしか会えなかった子たちが本当に存在し、たくましく生きていることがわかって、うれしい気持ちになりました。
フィリピンでの滞在で最も印象的だったことは?
●SMSFユースプログラム●
SMSF(聖マグダレナ・ソフィア基金)は、聖心会を母体とする現地の教育支援団体。SMSFを介して街の散策や交流、支援活動などのプログラムに参加できる。自分たちが抱いていた“貧しさ”と“豊かさ”の定義に疑問を抱き、考え方がガラリと変わる生徒も多い。
Uさん
SMSFで支援している人たちが暮らす街を散策したときのことをよく覚えています。決して経済的に豊かであるとはいえない環境にあるのに、現地の子どもたちからはまったく“不幸なオーラ”が出ていないことに驚きました。私たちが勝手にそれを「(貧しくて)不幸だ」「かわいそう」と思っているだけで、考え方を改めないといけないなと。
Kさん
子どもたちとの交流で、一緒にダンスをしたのがとても楽しかったです。貧しい環境で生活し、私たちとは文化も違うのに、ダンスを通してお互いに心を開いている実感がありました。そのとき「ああ、人間はこういうときに幸せを感じるんだな」と。経済格差に問題意識を持って参加しましたが、現実は、お金がなくても心豊かに生きている人たちが目の前にいたことに衝撃を受けました。日頃から「本当に価値あるものはお金ではない」と教わってきましたが、それが事実であることを、身をもって知ることができました。
文化の違いで大変だったことやそこから得た気づきは?
●ビルラーニ●
現地のストリート・チルドレンたちの保護施設。生徒たちは、施設設立の経緯やフィリピンにおけるストリート・チルドレンの現状を学びつつ、この施設で保護されている子どもたちと交流。
Uさん
『メリエンダ』というおやつの文化です。それが1日2回あるんですけど、おやつと言ってもスパゲッティなどの主食なんです! つまり1日5食で生活しているようなものですよね。美味しかったけど「もうカンベンして」と(笑)。
Kさん
シャワーが「水」しか出ないことです。気候的に温水でシャワーをする習慣がないそうです。最初は驚いたし気合いで浴びていましたが、いつの間にか慣れるものです(笑)。
Uさん
気づきとしては、「私たちの当たり前が、当たり前とは限らない」ことです。特に印象的だったのは、彼らは貧しくて学校にも行けないのに、夢はしっかり持っていることでした。自分自身も経済的には困窮しているのに「自分よりも困っている人はいるから、そういう人たちを助けるのが夢だ」と言うんです。とにかく、経済的に余裕がなくても日々の暮らしの中に楽しみや幸せを見つけて、心が満たされています。本当の“豊かさ”って何なのかなと思わされました。
Kさん
私も、子どもたちが夢に向かってまっすぐに生きている姿勢に胸を打たれました。それと、フィリピンでも韓国ドラマやK -POPが人気で、共通の話題が持てたことも新鮮で楽しかったです。フィリピンは暖かい気候の国なので、「(韓国ドラマでよく登場する)雪を見てみたい」と言っていたのも印象的でした。
自分が成長したと感じることは?
●リフレクション●
あらゆる教育活動において、必ずリフレクション(振り返り)の時間を設けている。まずは個人で振り返り、その後はグループで共有しながら意見交換を行う。体験をすぐにアウトプットし、価値観などの共有をすることがねらい。
Uさん
これまでも生徒会で募金活動などに取り組んでいましたが、そんなつもりはなくても、(貧しい人たちに)“与える”という感覚がどこかにあったのではないかと思います。でも、現地で直接交流して、それがいかに表面的な理解だったかよくわかりました。私たちがするべきなのは“与える”ことじゃなくて“奉仕する”ことだと。じゃあなぜ彼らに奉仕するかといえば、それは同じ世界に生きる同じ人間だからだと思うんです。将来は建築を学んで、貧困地域の都市開発や街づくりに挑戦してみたいです。
Kさん
フィリピンの子どもたちは主体的で、「自分は何が好きか」「何を大事にしているのか」をはっきり伝えてくれます。その経験から「人はみんなそれぞれ違うけど、それでも人は結びついていける」と強く感じました。だから私ももっと自分をさらけ出して、一人ひとりが持っているものを互いに尊重できるつながりを作りたいです。そのつながりこそが、真に価値あるものだと思います。
小林聖心女子学院では、フィリピンへの支援や交流が学院全体(小~高)での伝統となっています。小学校からボランティア活動、オンライン交流を重ね、高校で実際に現地を訪れるプログラムとして位置づけられているのが『フィリピン体験学習』です。大まかな滞在プランは、貧しい環境下にある子どもたちの支援施設や、被虐待者の保護施設などの訪問、交流、体験などです。現地で“五感”を使って体験し、自分たちが学んできたことを現実のものとして体感することがねらい。
「想像・先入観と現実の違い」「文化・価値観の違い」「“ 豊かさ”に対する根本的な考え方」「カトリックの思想に基づく“奉仕”のあり方」など、多くの衝撃的な出会いが生徒の視点や意識を変えていきます。学びを机上論にとどまらせず、まさに“人生の糧”となるような、価値あるプログラムとなっています。