「探究学習を通して京都橘が目指すもの」とは?
同校で探究学習を統括する友繁翔一先生は「単純に生徒に『生きていく力』を身につけてほしいというのが一番。もう少し具体的に言えば、課題発見・問題解決能力です」と力強く語ります。与えられた課題をこなしていくのではなく、自分で課題を見つけ、リカバリーする力。さらに、誰かと協働する力や、何かを自己決定する意志の力を養うのが同校の探究学習です。
探究学習を通して、生徒には“自分の生きる軸”を見つけてほしいです。探究と言えば成果の「発表」に注目が集まりがちですが、その過程やそれ以前の感性の刺激、情報のインプットも大事にしたいです。
探究学習の中で触れる新たな「知」も「経験」も、何が心に響くかは生徒によってそれぞれ違うものだからこそ、答えを絞って提示するのではなく、多様なきっかけ作りを意識したいですね。
探究学習は、うまくマネジメントをしないとつい大人が教えすぎて、生徒の主体性を抑え込んでしまうことがあります。その点で、生徒が自分レベルに落とし込めるのが本校の探究の強みと言えるでしょう。
同校では、現在のように探究学習が必修化される前から、『人間学』と称したカリキュラムで、いわゆる探究的な学びの機会を積極的に設けていました。
「ただし、外部にもベクトルを向けた学びを強化しつつ、インプット量もしっかり増やしたいという思いがありました。それを現在の探究カリキュラムが担っているといえるでしょう」(横山勇正先生)
「学びを通して自分がどう変わったかという振り返りを大事にしています。うまくいかないときは、どう改善するかというトライアル&エラーを重ねてほしいです」(城侑花里先生)
同校の探究学習の特徴は、6学年を2学年ごとに第1ターム、第2ターム、第3タームと設定し、段階的に学びのテーマが設けられているところにあります。
第1タームのテーマは「遊びながら学び【ホンモノを知る】」。〝本気の熱い大人〟との出会いを通して世界を広げつつ、自らの感性や実体験を通して「生きた情報」の取り方を学んでいきます。第2タームは「失敗を歓迎しながら【得た情報を活用する】」。中3では京都府の事業者から与えられた課題に対して解決策を提案し、高1では京都府外や海外に範囲を広げ、事業者の課題を自ら発見し解決策を探ります。第3タームでは、「自ら動き、自分の力で【社会とつながる】」をテーマに、自身の問題意識と社会を紐づけ、自己の生き方やあり方を考えていくというステップで学びます。
その上で同校が第一義とするのは「生徒にとって面白いかどうか」。保護者や先生以外の大人との関わりや、普段は行けない場所への訪問など、貴重な経験ができることを大事にしています。
「それは同時に教員にとっても大きな学びとなります。教員が外部の企業や協力者と連携することで、社会が教育に求めるリアルを感じ取り、自分たちの教育を俯瞰する視点につなげられるのです」 (友繁先生)
探究学習を通して、〝仮説を立てる→検証する〟というサイクルが生徒たちの習慣となり、問題・課題や社会への「当事者意識」を育み、自らの人生を切り拓いていくのです。
中1の2~3学期に実施される『企業訪問』。人生100年時代と言われる中で、100年以上続く企業を訪問。その歴史をテーマに自分なりの問いと仮説を立て、検証していく。
中2の『ホンモノを探す』フィールドワーク。京都市内を散策し、自分が思う“ホンモノ”を探して撮影するユニークなプログラム。“ホンモノ”の定義は人によって違うため、そうした多様性を学ぶ機会ともなっている。
中1『企業訪問』
中2『ホンモノを探す』フィールドワーク
「世の中の課題に新しい解決策を打ち出し、リスクを恐れず立ち向かう人」を“チェンジメーカー”と定義。京都市内の企業と連携して企業が抱える問題解決や商品開発に挑む中3の『チェンジメーカープロジェクト』。(写真は事業者と直接打ち合わせをする様子)
高1の3月にPBL型(課題解決型)の研修旅行を実施。行き先は沖縄とカンボジアから選択が可能。研修旅行に向けて『総合的な探究の時間』に事前学習を実施し、社会問題に取り組むことで、問題解決能力・コミュニケーション能力・行動力を育む。
中3『チェンジメーカープロジェクト』
高1『課題解決型研修旅行』(沖縄orカンボジアから選択)
高2以降はいわゆる“マイプロジェクト”方式で、自らの興味・関心に基づいて課題を設定し、社会貢献を目指す。これを通して将来の進路目標や夢と結び付けていく生徒も多く、これまでの探究活動を通して自己のあり方を考える集大成のステージ。発表会には企業の方や、大学の先生方を招いており、幅広い立場・多様な視点を意識したフィードバックを得られるのもうれしいポイント。(写真は小学校に訪問して授業をする様子)
プログラム作りに相当な労力がかかるうえ、外部人脈などのリソース確保にも苦労しがちなのが探究学習です。そこで配置されたのが『探究学習コーディネーター』。カリキュラム作りのサポート、プログラムに必要な人材や企業のアテンドなどを担う専門家です。
コーディネーターの長谷川さんは、「生徒だけでなく、先生も学校の主役だと思っています。だからこそ先生の『こんな授業をしたい』『生徒にこんなふうになってほしい』という思いに伴走したいですし、新たな視点を届けられたら」と熱意を語ります。京都の私学で探究学習コーディネーターを配置している学校はかなりのレアケース。その存在や貢献について、先生方からは「控えめに言って最高」と、最大限の賛辞が贈られています。