今回の中学3年生は、2022年度新設の難関国公立大や医学部などを目指す『スーパーJコース』1期生に当たる生徒たち。
企業が抱える課題の解決策や、新規事業のアイデア募集を“お題”として、中高生がそれに挑む探究学習プログラム『クエストエデュケーション』。キャリア教育の一環として多くの学校が取り組んでおり、全国大会『クエストカップ』も開催されています。しかし、公式大会に出場できるチーム数は限られています。そこで「もっとみんなにチャンスを!」と、校内で独自に大会を開いているのが常翔学園中高です。同校は、現在のように“探究学習”が一般的でなかった頃から注力してきた、探究学習のトップランナーとしても知られています。
『JOSHO CUP』と名付けられたこの大会は、予選を勝ち抜いたクラス代表チームが、他のクラス代表チームとアイデアを競い合います。これまでは高校1年生対象の取り組みでしたが、2024年度からは中学3年生(『スーパーJコース』)も参加し、何と準グランプリに輝いたチームがありました。また、同クラスの別のチームは『クエストカップ』で佳作に選ばれています。
“準グランプリ”という栄えある成果に、4人のメンバーたちは「相手が高校生だからといって、気後れすることはなく、自分たちらしい発表ができた」と口をそろえます。メンバーのTくんは「優勝できる自信があったので、むしろ悔しい」と唇を噛みます。それだけ全力で挑んだという証なのでしょう。
プレゼンの寸劇に取り入れたオリジナルキャラクター「テクマトリックスマン」のポーズ! 恥ずかしがらずに思い切りキャラクターになりきって発表に臨んだという。
このプログラムには多くの有名企業が協賛していますが、自由に企業やテーマが選べるわけではありません。「この企業のテーマに取り組みたい!」とエントリーシートを提出し、そこから選出される必要があります。準グランプリに輝いたチームが選んだのは、IT系上場企業のテクマトリックス株式会社で、お題は『つむがれてきたイノチが光るテクマトリックスの新事業を提案せよ』でした。同社を選んだ理由として、リーダーのMくんは「AIが発達するなかで、そうした技術や知識があれば社会に出たときに役立ちそうだと考えて、IT企業を選んだ」と言います。
しかし、この難解なお題にさっそく苦戦を強いられるメンバーたち。最初は“つむがれてきたイノチ”という言葉から、ヘルスケアに着目して「睡眠の質の改善」をテーマに据えてアイデアをひねりましたが、いまひとつしっくりきません。そこで、再びゼロからお題と向き合い、自分たちが取り組むべきテーマを徹底的に模索。そしてたどり着いたのが「伝統工芸を次代へ紡ぐアプリ」の開発でした。そのきっかけについてメンバーのOくんは、“イノチが光る”というキーワードから、「いま自分たちが生きているのはご先祖のおかげ→伝統工芸やその技術も同様→しかし現代は、その継承に課題を抱えている→ITの力で再興させて未来へ紡ぎたい!」と考えた、と語ります。
具体的な内容も非常に独創的なものでした。アプリ内で伝統工芸に関するクイズで遊べたり、360度のVR空間で職人の仕事現場を見学できたり、気になるものがあればその場で見学や体験に応募できる仕組みまで。さらに、伝統工芸界が抱える課題を調べるなかで、その衰退には、職人の収入や資金面も一因であることがわかりました。そこで、職人や業界を支援するクラウドファンディングや、その返礼品として工芸品が贈られるシステムも提案しました。
とても中学生とは思えない、実用性まで見据えた素晴らしい企画ですが、それだけで準グランプリは獲得できません。アイデアの内容だけでなく、プレゼンテーションの質も評価対象となるからです。これについても、メンバー内で熱い意見が飛び交いました。それぞれが思いのたけをぶつけ合う日々は続き、何と本番直前まで、プレゼンアイデアを練り上げていたというから驚きです。
各チームが、趣向を凝らしてプレゼンテーション。今回の発表は、比較的“王道”のプレゼンスタイルを取るチームが多かったが、そのぶん中学3年1組チームの寸劇スタイルは強い印象があったようで、準グランプリ受賞にも大きく影響を与えた。
4人前後で一つのチームを組む。意見の違いや互いの強みへの理解を通して、人として劇的に成長する生徒も多い。探究活動のサポートや提案の評価には、企業の方も参画する。実際に事業化まで発展する事例もあるため、お互いに本気。「中高生の体験授業」の域をはるかに超えた真剣勝負の場となっている。
担任の瀨口悠生先生(写真左)は、「企業探究の教育的意義は非常に大きく、社会に関わる喜びを知り、課題解決能力を伸ばしてほしいです」と期待を寄せる。
結論として、寸劇を取り入れたコミカルなプレゼンで挑むことにしたメンバーたち。最後は「もしアイデアの内容で負けても、プレゼンの熱さでは負けないように、どのチームよりも、発表を楽しもう!」と舞台に立ちました。実際、その考え抜かれたプレゼンストーリーも高く評価され、準グランプリ獲得となったのです。
この取り組みを経て得たものを、メンバーは次のように話します。
「チームをまとめながら、よい議論を進める力です」(Mくん)
「これまで正解のある勉強ばかりしてきましたが、自分の頭で解を考えるようになりました」(Tくん)
「抽象的な問いに対して、自分なりに答えを見つける力です」(Oくん)
アイデアが企業の実際の事業に採用されるケースもあり、「自分たちも社会と関われる」という実感を得られることも、このプログラムの大きな意義の一つ。皆、「この経験は、きっと将来に繋がるはず」と笑顔を見せてくれました。