『DS探究ゼミ』で作成し、コンクールで入選を果たしたポスター【満員電車〜快適な通勤時間を〜】。夏休みに10日間、毎朝1時間ずつ、混雑がみられる7つのドアに絞って乗降者数を計測。車両やドアによって混雑の度合いが異なる点に着目し、「駅によって電車の停車位置をドア一つ分ずつずらす」という解決策を提案した。
創立以来受け継がれる「やってみなはれ」というチャレンジ精神を持ち主体的に自らの人生を切り拓いていく“自律型人間”を育てる教育を実践する雲雀丘学園。その軸となっているのが、中高を通して取り組む『探究』です。6年一貫の『一貫探究コース』では、正課の探究科授業として探究学習に必要な基本スキルを身につける『探究基礎』(中2)、興味のある分野を学び視野を広げる『探究応用』(中3)、自ら設定した課題について論文作成に取り組む『探究総合』(高1)を設置しています。
さらに希望制の課外探究活動も活発で、大学や企業と連携して企画・実施される『探究プロジェクト』、教員がそれぞれの専門性を活かして開講する『探究ゼミ』、生徒一人ひとりの関心のあるテーマに応じて担当教員を決め、マンツーマンで指導を行う『アクション探究』と、多彩なプログラムが用意されています。
そして、課外活動における研究はさまざまなコンテストで受賞を果たしており、今回お話をうかがった高2のNさんもその一人です。Nさんが興味を持って取り組んだのは、近年社会的ニーズが高まっている学問“データサイエンス”です。データの収集・分析により有益な知見の獲得、新たな価値の創造につなげることを目的としており、社会やビジネスの課題解決・発展に貢献するものとして期待されている分野です。
Nさんは、高1のときに『探究ゼミ』のなかで、データサイエンスを取り扱う『DS探究ゼミ』に参加し、その研究が【兵庫県統計グラフコンクール】への入選を果たして、全国大会へ進出しました。研究テーマは、[満員電車~快適な通勤時間を~]。駅のホームで乗降者数を計測し、データ分析を経て、混雑の解消方法を提案したそうです。
「受賞という成果が得られたことでうれしくなりましたし、これを機に、『データサイエンスは自分に向いている分野かもしれない』と意識するようになりました」
『アクション探究』で取り組んだテーマは、【外国人観光客増加の要因を見出すための主成分回帰を用いたモデル構築】。「パソコンで作業をするのが好き、という理由から興味を持ったデータサイエンスですが、今では私の得意分野になりました。大学でもデータサイエンスを活用した研究に取り組みたいです」(Nさん)
さらに高2になって、「データサイエンスをもっと学びたい」という思いで参加した『アクション探究』では、観光業の戦略策定に向けた提案を行うことを目的とし、外国人観光客が増加する要因の特定に挑みました。この研究は、一般社団法人情報処理学会主催の【中高生情報学研究コンテスト】関西ブロック大会を通過し、こちらも2025年3月に大阪府で開催される全国大会への出場が決定しました。
「どちらの研究も仮説を覆され、行き詰まりました」と、N さんは当時を振り返ります。特に苦労したのは『アクション探究』での研究。まずは外国人観光客の増加に関係していると思われる19項目をピックアップし、47都道府県それぞれについて、その19項目のデータを収集するところからスタート。次に、GDP や人口密度など、単位やデータの規模が異なるものを比較しやすくするための“標準化”という処理を行った上で、“主成分分析”と“重回帰分析”と呼ばれる手法を用いて分析をしましたが、結果は想定外のものだったといいます。
さらに当初は、47都道府県のデータと、外国人観光客の増加率が高い12都道府県のデータを比較することで増加の要因が見出せると予測していましたが、その比較からは特定に至りませんでした。ダメ押しとなったのが、やむなく47都道府県のデータのみの分析に切り替え、得られた結果です。外国人観光客増加に影響する
三つの要素が判明したものの、その組み合わせは、予想に反したものでした。
「19の項目は、経済・人口など、私が設けた七つのカテゴリーに分けていて、分析すれば、一つのカテゴリーが浮かび上がると考えていました。しかし関連が強かったのは、経済カテゴリーと、外国人観光客の動向というカテゴリーに振り分けていた三つ。後にこれらは、経済活性の指標になるという共通点があることに気づいたものの、判明したときには“異なるカテゴリーのもの”という思い込みが強かったこともあり、どうすればよいのかわからなくて絶望してしまいました」
主体性や課題解決力を養うことを目的に、多彩な探究プログラムを展開。生徒たちにとって、進路選択や人としての成長にもつながる、貴重な経験となっている。
ただ、そうした試行錯誤があったからこそ得られたものは大きく、今となっては、予想を裏切られるところにデータサイエンスの面白みがあると感じているそうです。
「結果を受けて、何度落ち込み、涙を流したかわかりません。でも先生から、結果が出なかったことも一つの結果だと言っていただき、壁にぶつかることへの恐れがなくなりました。逃げずに解決を目指すメンタルが鍛えられましたし、受験勉強と研究を両立できたこと、その上で全国大会出場という成果を得られたことで、大学受験も頑張れそうだという自信を持てるようになりました」
加えて、データサイエンスが自身の“強み”と言えるまでのものになったことで、進路も明確になったようです。「将来はデータサイエンスを活用して社会や企業の問題解決策を提案する仕事に就きたい」と、生き生きとした表情で語ってくれました。
探究活動として取り組んだ研究で、【統計グラフ全国コンクール】と【中高生情報学研究コンテスト】の全国大会出場を果たした、高2・Nさん。
積極的にコンテストへの応募を行っている『DS探究ゼミ』。2023年度には、高2生3名のグループが【統計データ分析コンペティション2023】において、全国3位にあたる統計数理賞に輝いた。