丸本 周生校長先生
大阪府出身。関西学院大学文学部卒業後、地歴・公民科教諭として近畿大学附属高等学校に赴任。
教務部長・教頭補佐・入試企画部長・教頭を歴任するなかで、現在のコース制の構築・発展に携わってきた。2022年4月に現職。
現在はICT教育推進校として、“対面授業とオンライン授業のハイブリッド化”の実現に向けて、アイデアを温めている。
本校の教育の基盤にあるのは、未来志向の「実学教育」と「人格の陶冶」という、近畿大学の建学の精神です。
「実学教育」とは、世のため人のために社会で役立ち、貢献できる人物を育てること。そのために本校では、新学習指導要領においても重視されている、基本的な知識・技能を身につけ、それらを活かして思考力・判断力・表現力を伸ばします。さらにその思考力・判断力・表現力を発揮することで、より深い理解を伴う、質の高い知識・技能を習得してほしいと考えています。
この「実学教育」が実を結ぶためには、自分自身はもちろん、周囲も幸せにしたいと考えられるような人間性を磨き上げることが不可欠です。その姿勢を示しているのが「人格の陶冶」という言葉です。具体的には校訓にある、「人に 愛される人、信頼される人、尊敬される人 になろう」。そのような人物になるためには、まずは自分が他者を愛し、信頼し、尊敬しなければなりません。つまり“相互敬愛”です。
“相互敬愛”は一生涯を通じての課題と言えるでしょう。さまざまな物の見方や考え方、自分と違う価値観を否定したり見下したりするのではなく、理解し尊重することで、多角的な視点を身につける。2022年4月の中学校の始業式でも、それらを実践することの大切さを伝えました。
私が赴任した1986年から現在に至るまでの大きな出来事の一つとして、中学校課程における2011年のキャリアデザイン教育導入が挙げられます。偏差値重視の時代に、中川京一前校長が、「偏差値は“上げるもの”ではなく“上がるもの”。これからは考える力が必要になる」とおっしゃったのです。「大学に合格させることが高校の教員の最大の仕事だ」と思っていた私もこれを機に意識が変わり、生徒たちには学校行事などを含めたバランスのよい学習活動を通して可能性を広げ、主体的に進路を選択してほしいと考えるようになりました。
その実践において、15の学部を持つ近畿大学の附属校であることは大きな強みです。さらに医学部・薬学部・理工学部・奈良病院・水産研究所などと連携して多彩な体験実習を展開しています。2022年度から、中1を対象とした農学部の研究室での体験実習、中2を対象とした近畿大学附属湯浅農場での通年プログラムも始動しました。私も同行しましたが、生徒たちの目の輝きが違います。積極的に質問する姿も見られ、その意義をあらためて実感することができました。
また、2014年に導入し、生徒一人1台のタブレット端末を持つ体制を整えたことは、大英断だったと思っています。「成績が上がるのか」「学力が伸びるのか」など、校内でも反対の声が大きかったことも確か。でもそこから、〝言葉で自分の思いを伝える力”を培う学びが加速しました。コロナ禍での臨時休校時、「教員による説明・解説の時間を1コマあたり20分に圧縮する」など、生徒の集中力維持や負担軽減に配慮してオンライン授業を実施することができたのも、タブレット端末導入以来、8年間の蓄積があったからだと感じています。
本校は2020年度、中学の「総合的な学習の時間」に、「総合表現」と「総合探究」を設置しました。これは先述のキャリアデザイン教育導入以降、各教科学習においても積み重ねてきた、考える力や知的好奇心を育む学びとICT活用を融合させたものです。
「総合表現」は文章トレーニング、新聞記者の指導による新聞作成、自分の人生における転機の物語「MY STORY」の執筆を通して、書く力・まとめる力を養います。「総合探究」では近畿大学初代総長や有名人・著名人の人生、SDGsに関する学び、実在する企業からのミッションに取り組むことを通して、調べる力、話し合う力、発表する力を身につけていきます。
「総合表現」で中2が作成した新聞を見て、書く力の伸びを実感しています。スタートから3年目にあたる2022年度、中3がどのような「MY STORY」を書き上げるのか、今から楽しみです。また近畿大学への附属特別推薦入学試験に向けては、“これまでの自分とこれからの自分”をテーマに1万字程度の論文を作成することになります。「MY STORY」の経験を活かし、今度は18年間の人生を振り返り将来をイメージすることで、人生について自ら考え歩んでいく力につなげてほしいと考えています。
今後の課題は、対面授業を基本としながら、タブレット端末とのハイブリッド化をどのように進めていくのかという点にあります。
これから校内で議論・検討を重ねていくことになりますが、私個人が一つの案として思い描いているのは、テスト後や長期休暇中の講習を、希望制のオンライン形式で実施するというもの。クラスの枠を取り払い、大学のように、一人ひとりが興味や目標などに応じて自由に講座を選択できるようにするのです。オンラインであれば人数制限も生じませんから、実現可能ですよね。ICT推進校として、よりICTの良さを活かした学びの実践に、チャレンジしていきたいと考えています。