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進学通信

2022年6月

この記事は1年以上前の記事です。

教育問答
教職員の主体性と協働をもって
未来を保障する学びの確立を目指す

平井 正朗 先生
私立中高の英語科教諭、管理職等を経験。全国英語教育研究団体連合会(近畿地区)理事等を歴任。
カリキュラム・マネジメントを軸とした組織的・多角的な学校改革でV字復活させる手腕が買われ、2021年4月より現職。
学校法人濱名山手学院理事、関西国際大学客員教授、大阪市教育委員(教育長職務代理者)、
国際教育学会理事、全国芸術高等学校校長会理事などを兼任。
日課はホームページ「校長ブログ」の執筆。

公開日2022/8/1

大正13年に創設された伝統校が、今、大きく変わろうとしています。学校経営の手腕が高く評価されている平井正朗校長が2021年度から全力で推し進める「未来型グローバルリーダーシップ」をスローガンに掲げた学校改革のキーワードは、カリキュラム・マネジメント。聞き慣れない言葉だな・・・と侮ることなかれ。その実践からは、生徒一人ひとり、そして多くの学校が今まさに直面している課題の解決に向けた道筋が見えてきます。

目指すのは、地域に
開かれた学校づくりと
進路満足度100%

まずは、2021年度から取り組まれている学校改革についてお聞かせください。

 母体である学校法人濱名山手学院が掲げる「他者を尊重しつつ、主体的・能動的に自らの人生を切り拓くことができる人間を世界に送り出す」という教育ミッションに基づき、本校の建学の精神「自学自習・情操陶冶」のもと、約1世紀にわたる歴史と伝統を継承しながら、予測できない未来社会において豊かで幸せな人生を送るための学力・能力を培う“未来志向型女子教育”の実践を目指しています。他者を敬い、主体的・能動的に人生を切り拓く対話力を持ち、柔軟性に優れた“未来型グローバルリーダーシップ”を発揮できる人物を育成する学校へと進化を遂げたい。生徒ファーストを基調とし、本校の特徴である面倒見の良さを“チーム濱名山手”として結集させ、カリキュラム・マネジメントを通して、地域に開かれた学校づくりと進路満足度100%を実現させたいと考えています。

改革初年度から、大学合格実績に躍進が見られましたね。

 本校初となる神戸大学の学校推薦型選抜合格や医学科合格2名が出たほか、関関同立の合格者は前年度の約2倍となりました。カリキュラム・マネジメントのもと、高3の学年と進路指導がタッグを組んで生徒一人ひとりの夢の実現に向けてまい進した成果です。今後も進路保証に向けて、生徒一人ひとりが成長を実感できるような教育を実践していきます。

教育現場に求められる
“チーム学校”への
マインド・シフト

平井校長が学校改革を手掛けるなかで重視されてきたカリキュラム・マネジメントとは、どのようなものですか?

 生徒一人ひとりを組織的運営の中で成長させるということです。学校としてのビジョンに基づき、教員が生徒と接する質の向上にプライオリティを置きながら、組織的なPDCAサイクルを積み重ねていきます。その際に全教職員のベクトルがそろっていることが基本中の基本。それができなければどんなに素晴らしい改革も水泡に帰します。

“チーム濱名山手”という言葉には、そういう思いが込められているのですね。

 これまでの学校文化を振り返ると、教員は「一国一城の主」が主でした。個々の熱意がこれまでの教育を支えてきたことは言うまでもありませんが、教育活動や生徒・保護者対応にどのくらいの時間をかけ、いかに生徒の成長につなげることができたのかという点に目を向けると、教員によって温度差が生じてしまうことも確かです。保護者として、「A先生が担任だった時は良かったけれど、B先生になってからは・・・」という思いを抱いたことがある方は、少なくないのではないでしょうか。その原因はどこにあるのか。学習指導要領では、校長がリーダーシップを発揮して校務を有機的に結びつけ、共通の目標に向かう協働の文化を創り出し、学校の教育力を向上させるべきであるとしています。それは決して簡単なことではありませんが、学校を取り巻く環境が劇的に変化し、学校に個人の力では解決できないほど多くの課題が山積している今、勇気を持って踏み込んでいくことが求められているのです。先述の担任の話に置き換えると、個々の教員の持ち味を活かしながらも、どの教員が務めても生徒の成長に影響が出ないようなシステムの構築を目指すということになります。“チーム学校”へのマインド・シフトに向けて、私は教職員との対話を大切にしています。本校の教職員たちは、一生けんめいやってくれています。

手応えは得られていますか。

 ええ、明らかに。本校では2022年度より、新学習指導要領における教科横断的アプローチによる探究学習を見すえ、国語・書道・社会・英語の「人文系教科部門」、数学・理科・情報の「理数系教科部門」、保健体育・音楽・技術家庭・美術の「芸術・体育系教科部門」を設置しています。それに先駆けて、研究授業として、数学・理科・社会の3教科の教員によるコラボ授業が行われました。
「数学Ⅱ」の指数関数の授業だったのですが、まずは社会科教員がその歴史的背景について文系的視点からアプローチ。続いて理科教員が実生活の中で使われる指数の具体例を紹介して生徒の興味を喚起し、数学科教員が指数について解説したのです。見事な教科横断型授業です。そこで目にした教員の前向きな姿勢、生徒たちの学びへの意欲には“変わる山手”の萌芽が見られました。

そうした変化は外からはわかりません。学校を選ぶうえで、学校に足を運ぶことの大切さを感じます。

 コロナ禍の影響で難しいこともあるかと思いますが、オープンスクールに足を運んで生徒を見れば、その学校のことがわかるはずです。そしてぜひ、生徒たちや教職員をご覧ください。保護者の方には「魂のこもった学校経営がなされている」と感じられたところを選ばれることをおすすめします。

「個別最適化学習」に
おける問題点とは?

教育を実践するうえで、課題として感じていることはありますか。

 コロナ禍における一斉休校期間中、多くの学校において、オンライン会議ツールを使ってライブ配信を行う“同期型オンライン授業”が実施されました。その後、いわゆるウィズコロナ、アフターコロナの時代においては、自分で時間を調整し、デジタル教材などにアクセスして積み残しをフォローアップする“非同期型オンライン学習”が主流となっています。
 本校では、一人1台のタブレット端末を使い、EdTech(エドテック)教材をツールとした「個別最適化学習(アダプティブ・ラーニング)」を推進しています。EdTechとは、EducationとTechnologyを組み合わせた造語で、教育界にイノベーションを起こすトレンドとして注目を集めています。EdTech教材の学習管理システムを活用することで、生徒一人ひとりの学習の進捗や理解度を把握することができる点に大きなメリットを感じています。
 しかし、この“非同期型オンライン学習”である「個別最適化学習」の実践においては、生徒・教員のそれぞれに課題があります。まず生徒に関しては、学習習慣をいかに定着させるかということと、学ぶモチベーションをいかに維持するかということの2つが挙げられます。

多くの学校、教員、保護者が感じている課題のように思います。

 教員側の問題点もあります。一つは、ICTに不慣れな教員が少なくないということ。もう一つは、ファシリテート(進め方)に慣れていないということです。個別最適化学習において果たすべき教員の役割は、教え込むことだけではありません。先述した学習管理システムを活用しながら“伴走”することが求められます。進捗状況や理解度に応じて、たとえば保護者が子どもに箸の使い方を教えるように勉強の仕方を教える、つまずきに対して個別指導を行うといったきめ細かいフォローが必要となるのですが、そうした力が欠けているというケースがよく見られます。
 本校ではカリキュラム・マネジメントのもと、生徒のモチベーション維持と学習習慣の定着に向けた取り組みを進めているところです。数学の教員が「しっかり勉強しています」と言って活用しているようすを見せてくれたことがあったのですが、自動採点機能があるものの、教員が書き込んだコメントで真っ赤でした。そうした指導を、私から指示されなければできない集団であれば、改革を成し遂げることは難しいかもしれません。しかし本校の教員は、自ら実践しているのです。

教員が生徒と接する“質”の向上が、実現されているのですね。

 その事実を目の当たりにした瞬間、「本校の生徒たちは必ず伸びる」「近い将来、中高の生徒数は大きく伸びる」という確信を得ることができました。
 グローバル社会におけるダイバーシティ(多様性)を受け入れ、正解が一つではない課題に対してしなやかな感性で最適解を導き出すためには、実社会に直結する文理の壁を越えた背景知識、すなわち、教科横断的な学力が不可欠です。EdTechを活用した個別最適化学習は、そのような学力を育むためのツールの一つ。その活用において、これまでは見えていなかった問題が、コロナ禍によって顕在化したということです。導入の成否は、この局面を乗り越えるべく、学校としてどのようにマネジメントするのかにかかっていると言えるでしょう。カリキュラム・マネジメントのもと、引き続き、問題の解決に取り組んでいきたいと考えています。

これまでは序章
2023年度から改革を加速化

2023年度、中高に新コースが誕生するそうですね。

 はい。国際都市・神戸にふさわしく『グローバル選抜探究コース』といいます。定員は中学30名、高校30名。4技能5領域を軸とした英語コミュニケーション力の育成に加えて、グローバル・マインドを養い、他者と協働しながら一人ひとりの幸福を追求しつつ、社会貢献していく土台を創ります。英語の授業は週10時間以上、ネイティブ教員と日本人教員の担任2人制、グローバル探究CampやイギリスEton校とのオンライン留学プログラムを通じて、教科横断的な探究力を育成します。また、他教科と英語のクロス・カリキュラムとなる英語イマージョン教育やEdTechを活用した個別最適化学習、校内予備校等、多様な取り組みを行います。
 目標とする進路は、(中堅)国公立大学、有名私立大学、海外の大学。海外の大学進学を見すえて、大学教養レベルのAP(Advanced Placement)プログラムも検討しています。英語の到達目標は、中学卒業段階でCEFR A2レベル(英検2級に到達できるようシラバス化)、高校卒業段階でCEFR B1レベル(英検準1級に到達できるようシラバス化)とします。

改革もいよいよ本格化、といったところでしょうか。

 いえ、ここまでは改革の序章に過ぎません。創立100周年に向けて、2023年度にはさらなる大改革のプランを打ち出すことを予定しています。
 その過程で、本校のイメージを大きく変え、選ばれる学校へと進化していきたいという思いがあります。そのために今後は、ホームページやSNSを通した情報発信を活性化させるとともに、本校を知ってもらうためのイベントも積極的に展開していきます。
 定期的に行っている『きてみてヤマテ体験講座』は、「来る子どもたちには楽しみを、帰る子どもたちには喜びを!」という私のリクエストに応じ、教員が動いてくれています。第1弾として、4月24日に「プログラミング編」を実施したのですが、3月中に定員に達する人気ぶりでした。少しずつではありますが、2021年度からのさまざまな取り組みの相乗効果が表れてきたように感じています。プログラミング編は、担当教員が追加実施をすると言ってくれていますし、6月には、新たに企画したイマージョン教育イベント第1弾として、英語で作り方を教わりながらチョコカップケーキを完成させる「英語+家庭科」の講座、光る結晶作りを楽しむ「英語+理科」の講座など、“英語で学ぶ”講座も満席になり、講座を追加した次第です。またオープンスクールは、午前・午後と1日2回の実施に向けて準備を進めています。
 今、向いているベクトルは、生徒一人ひとりが学びの課題を内省して自分にしかできない学びを確立できる体制づくりと、カリキュラム・マネジメントの精度向上による、学びの保障と進路保障の追求です。まずは「行ってみようかな」と感じていただける存在に。そこからさらに、「ここで学びたい」と思っていただける、明るく楽しい学校に。名門校の再構築にまい進します。