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進学通信WEB版

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Web記事
『東山ブランド米作り』始動
栽培から商品化、販売までを自分たちの手で!

「中高生がお米を作って自分たちで売る」というプロジェクト。さらにそのお米は、手間がかかる栽培法で育てられたブランド米だといいます。これは農業高校での取り組みではありません。
このユニークなチャレンジを始めたのは東山中学・高等学校。浄土宗・知恩院の学問所を起源とし、創立155年という屈指の伝統を誇る男子校です。進学校としてもスポーツ強豪校としても知られていますが、そんな同校がいったいなぜ「米作り」なのでしょうか。

公開日2023/12/25
●『東山チャレンジ』『校長チャレンジ』に次ぐ、新たな挑戦
塩貝省吾校長。前例にとらわれないユニークな発想力で、生徒が“チャレンジ”できる環境づくりに熱意を注ぐ。

塩貝省吾校長。前例にとらわれないユニークな発想力で、生徒が“チャレンジ”できる環境づくりに熱意を注ぐ。

「私のモットーは『失敗なくして成功なし』。本校を“誰もが挑戦できる場” “小さな失敗を安心して重ねられる場”にしたかったのです」と語るのは、塩貝省吾校長。
このプロジェクト『東山ブランド米作り』に至った経緯や目的ついて、次のようにお話していただきました。

その言葉どおり、同校はいたるところで“チャレンジ”が一つのキーワードになっています。これまでも、生徒が挑戦したいことに学校が資金援助をする『東山チャレンジ』や、生徒からイベントやプロジェクトの企画を募集する『校長チャレンジ』など、斬新な取り組みを行ってきました。

そして「次なるチャレンジの場を」と、校長チャレンジのなかで塩貝校長自身が企画したのが『東山学縁(ひがしやまがくえん)』です。同校を通した“学びの縁”という意味で、社会で活躍中のOBなどとコラボレーションし、彼らから学びながら協働的なプログラムなどに挑戦します。その一環として、有志生徒を募って挑戦することになったのが、今回の『東山ブランド米作り』でした。

●米作りを通して社会課題に向き合う
先生も生徒も一緒になって、一過性の体験ではなく、持続性のある”本気の米作り”であることが特徴。

先生も生徒も一緒になって、一過性の体験ではなく、持続性のある”本気の米作り”であることが特徴。

しかし、なぜ“米作り”なのでしょうか。塩貝校長は「米作りそのものが目的というよりは、米作りを通して社会の課題に目を向けてほしかった」と言います。食料自給率が低い日本において、数少ない“自給率ほぼ100%”の作物であるお米。しかし、農家の高齢化などから衰退しつつあり、20年後には米すら自給できないという説さえあるそうです。

塩貝校長はさらにこう続けます。「良いもの(米)を安く売ることも大切ですが、結局それが農家を苦しめ持続性を低下させてきました。やはり“高くても良いもの”を売っていける仕組みを作らないと」。ブランド米にこだわったのは、それが理由でした。良いものを作り、適正な価格で売る。それによって農家が潤えば、より品質を高めることも、農家としての事業継続性の向上も可能になる。それを生徒たちと共に“チャレンジ”する企画だったのです。

●市場にほとんど流通しない「幻の米」

そこで同校では、京都府亀岡市内の農家と連携し、1反(約991.7㎡)の田んぼで米作りを開始。田植え・除草・稲刈り・加工・商品化・販売までを協働で担っていきます。米は「はざ掛け天日干し」という伝統的な製法で作られ、強い甘味が特徴。手間のかかるこの製法で米を作る農家は非常に少なく、一般の市場流通率はほぼないため“幻の米”と呼ばれ、仮に販売すれば通常の2倍以上の価格で取り引きされると言われます。これを同校が農家から高値で一括買取し、ブランド米として商品化して販売する、というプロジェクトです。

しかし、米作りはもちろん、サプライチェーンに関しても生徒たちは素人です。そこで企業の協力を得て、お米をどのようにブランディングして販売するのか、“正しく儲ける”ビジネス手法や経済の仕組みを学びます。生徒たちは「企画部」「デザイン部」「営業部」「広報・宣伝部」と、企業のように四つの部会に分かれ、米の商品化に向けてそれぞれの役割を担います。現在(2023年10月)は、パッケージデザインなどを制作中。また、『東山学縁』のネットワークを活かして、OBと共にマルシェイベントなどで販売する計画も練っています。

米作りだけでなく、その先の商品化、販売まですべて生徒たちが行う。完成したオリジナル米を自分たちで販路を開拓し、実際に販売して利益を上げることも目標。そのための収穫から製品化、販売、収益を上げるまでの動きを、企業の方よりお話いただき、グループに分かれて「何のために」「誰のために」「どんな米をつくりたいか」をそれぞれに話し合い、共有。

●「どうなってほしいか」という要求はない。「どうなるのか」が楽しみ

生徒たちの成長にも、目を見張るものがあります。米作りの大変さを知ることはもちろん、起業家精神に目覚めて自発的にセミナーなどに通い始める生徒も現れました。

しかし、このプロジェクトを通して生徒たちに何を感じてほしいかは、ノープランなのだそうです。
「それを私たち大人が決めて誘導するのは違うと思います。結果として『農業はしんどいからイヤだな』という感想も、一つの貴重な学びですから。どうなってほしいかではなく『一体どのような成長を見せるのか!?』という心の化学変化を楽しみにしているのです」と塩貝校長は笑います。

●地域の人や企業の善意に頼った連携活動では続かない

実はこの企画を最初に農家の方へ持ち込んだときは、難色を示されたそうです。「ちょっと来て何となく米作りに触れるだけの、学校の体験学習でしょ? 忙しいからそうしたレクリエーションに付き合う余裕はなくて…」という声もありました。しかし塩貝校長はこう言って、熱心に農家さんを説得します。「いいえ、体験は望んでいません。“本気の米づくり”をさせてください!」。

最初はその熱意に押された形の農家の方でしたが、実際に始めてみると数十名もの生徒や先生たちが定期的にやってきては、農作業を手伝ってくれるのですから大助かりだったそうです。しかも、通常よりも高価格で買い取られるため、事業としても大成功。「来年以降もぜひやりましょう!」と言ってくれているそうです。

「学校が地域の方や企業と連携して何かをするとき、彼らの善意に頼ったボランティアになりがちです。しかし、それではダメだと思うんです。最初の数回はよくても、皆にメリットがないと続きません。今回の米作りで言えば、農家は労働力や売上でのメリットがあり、学校(生徒)は、社会的課題を知り、第一次産業や労働の重要性を学べます。企業は、自らの事業や特性を活かした社会貢献活動ができます。この素晴らしい仕組みを、本校だけで終始するのではなく、他校にも広がっていけばいいなと思います」(塩貝校長)

東山中学・高等学校

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