『図書館には、推薦図書やトレンドを反映した特集コーナーなど、生徒が「本を読んでみたい」と感じる仕掛けがたくさん。
毎月200冊近くの新刊が入荷されている。
『国語探求』『音読』の授業では、語彙を増やし、名文や小説に触れ表現力を磨いたり、あるテーマについて自分の意見を述べたり、文の構成を考えたり、多くのインプット・アウトプットを通じて総合的に国語力を養っていく。
新しい学習指導要領においても“育てたい力”として明確に示され、さらなる重要性が叫ばれる「思考力・判断力・表現力」という概念。与えられた情報を正しく受け取って考え、自らの意見を導き出し、的確に他者へ伝える力のことで、総合的な国語力が必要だと言えるでしょう。
“英語の松蔭”として高い定評がある同校は、かねてより国語教育も重視した多彩な実践を行ってきました。国語科・芳田克巳副校長によると、次のような深い意図があるそうです。
「たとえば日本人が英字新聞を読む場合、脳内で内容を論理的に整理・理解する作業そのものは 母国語である
“日本語”で行う場合が多いです。ですからグローバル社会を生きていくためにも、まずは国語力(日本語力)を大切に育てたいと考えました」
国語教育実践のうえで、授業や演習においては『国語探求』『音読』『語彙小テスト』などが行われており、語彙を増やしたり、文章を書いたり、聞き手や読み手として相手の意向をくみ取ったりしながら、最終的なアプトプット(=表現力)につなげることを目的にしています。しかし芳田副校長は「これらは、あくまでコミュニケーションのためのスキルです」と強調します。
「人間には誰しも、『伝えたい』『理解したい』というコミュニケーションの欲求が根ざしています。まずそのことを生徒たちに意識させたうえで、コミュニケーションスキルを習得してほしいですね」
独自性のある多くの取り組みのなかで、同校らしさが強く表れているのが図書館の活用です。蔵書数はなんと約10・4万冊。図書館の運用には資格を持った4名の司書が配置されており、企画やイベントなど多様なアプローチを次々と展開し、生徒と読書との出会いをエスコートしています。
また、2022年度の中学入試より、『課題図書プレゼン入試』を導入。英語入試や適性検査型など、近年は中学入試全般においても多様な選抜方法が用意されるようになりましたが、“読書”という切り口で選抜するのはきわめてユニーク。このことからも、同校が国語力をいかに重視しているかを知ることができます。
「本校には多様な個性を生かせる『英語入試』『1教科入試』があり、そこに『課題図書プレゼン入試』が加わる形となります。読書好きであることはもちろん、これからは“人に伝える力”も大切になってきます。自分の好きなことを、自信を持ってアピールしてほしいですね」 (浅井宣光校長)
たとえば「うれしい」という感情一つとっても、さまざまな伝え方があります。同校ならではの国語授業の一つ『国語探求』では、名文を書き写したり、小説を朗読するなどして感情表現の幅を広げます。しかし、美しい文章を書くことが主題ではありません。「いかに他者に伝えるか」というコミュニケーションスキルの幅を広げることが念頭にあるのです。
また、「紙の手帳とスマートフォン、どちらを支持するか?」など、身近な話題を用いて意見を述べる内容では、思考力・判断力・表現力を高め、幅広い国語力を身に付けています。
『音読』では、新聞記事などを声に出して読み、文の構成を考えたり、言葉が持つ多彩なリズム感に触れます。
図書館司書・眞鍋由比先生
『全校読書運動』は、夏休みの課題の一つです。毎年、テーマ(2021年度は「希望」)に沿った推薦図書リストから、生徒たちは各自で選んで読書をします。本の帯やポスターを作成し、その本の良さを皆に伝える取り組みにも挑戦しています。
また、地域の人や小学生たちにも学校に親しんでもらいたいという思いから、図書館を一般開放する『サタデーライブラリー』を実施。いろいろな本があることに感動する来校者も多く、さらに『サタデーライブラリー』で同校に興味を持ち、入学する生徒もいるそうです。
ほかにも、本から抜き出した素敵な一節が書かれた『読書おみくじ』や、SNSを使った情報発信など、手に取って本を読みたくなるような、楽しい仕掛けが盛りだくさんです。
『全校読書運動』の一環で、生徒たちが作った絵本の帯。本の魅力を、限られたスペースで工夫して表現。
「一般的に女子は小学校高学年になると自己肯定感が下がる傾向があると言われています。だからこそ、この入試で自信を持って好きなことをアピールしてほしいですね」(浅井宣光校長)
小学校時代に頑張ったことをアピールする『自己推薦型入試』。スポーツや習い事などが題材にされることが多いなかで、同校はこれに“読書”を指定し、2022年度の中学入試より『課題図書プレゼン入試』を導入します。10冊の課題図書の中から1冊を選び、ポスターセッション形式で内容をプレゼンテーションする入試です。評価基準は、熱意・プレゼン内容・本の内容理解・話し方など。課題図書は『星の王子さま』などの世界的名作から、人生倫理を諭した『君たちはどう生きるか』、『ざんねんないきもの事典』といった自然科学分野のものまで、多彩なジャンルが網羅されています。
「本校は、一人ひとりの好きなこと・得意なことを伸ばし、〝ふつうの女の子〟が輝ける学校です。『私はこれが好き!』と言えるものを、自信を持ってアピールしてください。それが評価されることで自己肯定感が生まれ、入学後の学習にもつながっていくでしょう」(浅井校長)
同校は他にも英語1科入試など、「これだけは負けない!」と思えるものを評価する入試を行ってきました。多様な個性や志向を尊重し、それを原動力にできる、女子の特性を大切にした教育を反映しているのです。
私はもともと話すことが得意ではなくて、本を読んだり自分の中で深く考えることが好きでした。
松蔭の国語の授業では、たとえば新聞コラムの要約がありますが、内容を理解して文章で表現し、さらに自分の意見を伝えるところまでを行いますから、幅広い国語力を身につけることができ、話すことにも苦手意識がなくなりました。読書感想文で賞をいただけたのも、こうした日々の授業はもちろん、先生のサポートで私の思いを引き出してくださったおかげだと思います。
将来は語学を活かした仕事に就きたいです。