塩貝省吾(しおがいしょうご)校長
プロフィール/1966年 京都府生まれ。大正大学大学院文学研究科宗教科宗教学専攻修了。
母校である東山にて宗教科、社会科講師、図書館員、総務課、体育科教員などを経て2013年に教頭就任。
2019年副校長職、2020年校長就任。
1868年に創立した歴史と伝統を誇る東山中学・高等学校。自ら情熱と主体性をもって行動し、目標を達成し、夢を実現させる力『セルフ・リーダーシップ』の育成を教育目標としています。塩貝省吾校長は「楽しい学校にしたい」という思いで生徒が気軽に参加できる取り組みを実践しています。
先生が教師を目指したきっかけを教えてください。
中学時代、地元の公立中学で真剣に野球に取り組んでいました。守備はキャッチャーで、バッテリーを組んでいたピッチャーとは親友。高校で私は東山に進学し、彼は地元の学校へ進んだのですが、その後、彼は高1のときに不治の病で帰らぬ人となってしまいました。何もできない自分に腹が立ち、無力感にさいなまれていた私の救いとなったのが、東山の宗教の授業でした。当時、宗教の授業を担当されていた先生は、「生きるとはどういうことか」をすさまじい迫力で伝えてくださいました。どんなにやんちゃな生徒でもその先生の話には静かにきちんとした態度で耳を傾けていたほどで、皆が尊敬の念を感じていたのです。あるとき、その先生から「キミは教師になれ」と言われました。その言葉を聞き、親友を亡くして悲しんでいるだけではいけない。自分が生きていくなかで、未来を担う子どもたちを育てる仕事がしたいと感じ、教師になることを決意しました。
先生が心がけておられることは何でしょうか。
東山は、創設からずっと、法然上人の教えを基本として人づくりに取り組んでいます。法然上人は、15歳で出家され、比叡山で厳しい修行を積み、43歳で浄土の教えを確立されるまで真実の教えを求めてひたすら挑み続けた方です。勉強・スポーツ・趣味など何でもいい。東山はその志を受け継いで“挑むこと”が大切であり、その姿勢が人生をつくるということを生徒に伝える学校です。
私自身も、決意したことを成し遂げるために、毎日、掃除とあいさつを率先して行っています。「なんだ、そんなことか」と思う人がいるかもしれませんが、仏教では、掃除は自らの心を磨くことに通じ、あいさつには自分から相手に心を開くという意味があります。校長である私が、このようなことを積み重ねる姿を生徒に見せることが大切だと考えています。
教頭先生に就任後、『教頭とん汁会』を開催しておられたとか。
東山には、放課後に残って自主学習をする生徒が大勢います。「皆お腹が空いているだろうな」と思うといても立ってもいられなくなり、放課後の空き時間に買い出しに行き、おにぎりやスープ、カレーなど小腹を満たすものを作って振る舞いました。「できたぞー」と放送をすると、生徒たちが自習室や教室から歓声を挙げて食堂に集まって来ていました。
校長に就任してからは、昼休みや放課後に、生徒が校長室に気軽に来られるように、校長室にお菓子と飲み物を用意しておこうと考えました。校長室がカフェになるという意味で『Cocho Cocho Cafe』(こちょこちょカフェ)と名付けたのですが、コロナ禍でできなくなりました。開催できる日を楽しみにしながら、今できる身近な挑戦を重ねて、私も生徒も一歩ずつステップアップしていきたいです。
校長就任後、『東山チャレンジ』『校長チャレンジ』を実施されています。
生徒が何かに挑みたいというときに、経済的な理由であきらめる、ということがあってはならないと考えています。『東山チャレンジ』は、生徒の挑戦を東山が資金面で支援する取り組みです。今年で3年目になりますが、1回目はコロナの影響のない時期だったため、海外での活動を支援しました。今年もたくさんの応募があり、生徒の挑む意欲を感じています。
『校長チャレンジ』は、生徒からさまざまなアイデアを募集する企画。今はコロナ禍で不安もあるけれど、心は一つであることを感じてほしいという思いを込めています。第1回のお題は「生徒川柳」。177もの作品が寄せられ、どれも本校にからめた内容で、クスッと笑えたり、「あるある!」と思える面白い作品ばかりでした。
『東山チャレンジ』『校長チャレンジ』ともに、「学校をもっと面白く!」という趣旨で、今後も積極的に展開します。そして、「挑む心で自ら選択し、失敗してもチャレンジし続け、自分自身の人生を築いてほしい」ということを、あらゆる場面で生徒に伝えていきたいと考えています。
「校長チャレンジには、中1から高3まで気軽にチャレンジしてもらいたいので、事務室の前に提出箱を設置しています。第2回は『東山のマスコットキャラクラーをデザインしよう』。すでにたくさんの作品が集まっています」(塩貝校長)
「マスコットキャラクターもすでに提出しました!」(Sくん)
校長室で開催された「第1回 校長チャレンジ 生徒川柳」で優秀賞に輝き、表彰されたSくん。
塩貝校長
優秀賞受賞おめでとう!Sくんは、全部で7作品も応募してくれたよね。川柳コンテストをするって知ったとき、どう思った?
Sくん
面白いこと考えてくださる校長先生なんやなって思いました。たくさん作って応募したのは、作句のためにメモをしていたら、気がついたら作れていたからです。
塩貝校長
もともと国語が得意?
Sくん
入学当時は数学の方が得意でした。3年日記(東山の夢を叶える3大ツールの一つ)を書き続けているうちに書くことが楽しくなって、その延長で川柳も作れたんだと思います。絵を描くのも好きなので、3年日記の文章の空いたスペースに絵を描いている日もあります。
塩貝校長
自分なりの使い方をしているんやね。そしたら、優秀賞に輝いた作品の背景を教えてくれる?
Sくん
どうせ校長室に呼ばれるなら、ほめられるほうがいいなという気持ちを表現しました(笑)。
塩貝校長
それはそうやな(笑)。
Sくん
僕は、佳作になった「しゃがんでる 高く飛ぶため 今はまだ」という作品が一番、気に入っています。
塩貝校長
その作品も素晴らしいと思う。もし、何かで失敗しても、これから高く飛ぶために今はしゃがんでるんや、ということやね。ところでSくんは、将来は何になりたいの?
Sくん
小学生のときから宇宙飛行士にあこがれています。そのためには勉強を頑張らないといけないと考えて、東山に来ました。
塩貝校長
挑む気持ちで入学してくれたんやな。うれしいです。勉強だけでなく、いろいろなことに挑戦してほしいです。その挑戦がSくんの人生をつくっていくのですから。これからもSくんの挑戦を楽しみにしています。今日は、ありがとう。
Sくん
ありがとうございました。