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コロナ禍3年目・2023年度 関西圏中学入試はこう動いた Vol.2
【2023関西圏中学入試 8つのトピック】

掲載日:2023/4/20
TOPIC1入試日程に大きな動きなし

 関西圏の中学入試は、毎年1月の第2もしくは第3土曜日が統一入試日で、2023年は1月14日。ほとんどの学校が、この解禁初日(以下「初日」)か、解禁2日目(以下「2日目」)に入試日を設定しています。つまり実質上、この2日間でおおむね結果は出るということです。
 また、基本的に入試翌日には合格発表が行われるため、初日の入試で第1志望に合格できればその後の日程を受験する必要がなく、受験生としては気が楽です。学校としても、生徒数の確保は最重要事項であるため、少しでも早く入試を実施して合格発表を行い、入学の意思を固めてほしいという思いがあるのは当然だと言えるでしょう。こうしたそれぞれの事情から、必然的に初日と2日目に入試が集中するのです。
 これをふまえて、一部の学校で入試日程の見直しが実施されることがあります。いわゆる競合校と日程が重なるのを避けることもあれば、より入学意欲の高い生徒に来てもらおうと、あえて同日に設定することもあります。ただ、例年に比べて2023年度の動きは比較的静かなものでした。8割強にあたる118校が、前年度の入試日程をそのまま踏襲しています。ある程度、各校の“住み分け”が落ち着いてきたのではないかと見ることもできますが、入試日程の変更自体は毎年何らかのかたちで発生するものです。今後も、注意深く見ておく必要があるでしょう。

 一方で、関西圏の中学受験生の平均出願校数は、だいたい3~4校。当然ながら、志望校の受験日が重なってしまえば、最終的な出願校を選ぶ必要があります。しかし、これだけ初日と2日目に入試が集中すると、各日1校ずつ、合計2校しか受験できません。そこで導入が始まったのが「午後入試」です。入試日に午前日程・午後日程を設定するもので、1日で2校(2回)の受験が可能になりました。うまくスケジュールを組めば、2日間で4校(4回)を受験できます。
 2023年度も、多くの受験生が活用しました。初日の午後入試を受験したのは2022年度から314人増の1万462人、2日目午後では116人増の7292人という結果でした。割合で換算しても、全体(初日午前日程を受
験した人)の60・4%の受験生が、午後入試にもチャレンジしたと推測できます。
一方、3日目以降に入試日を設定する学校はかなり減っています。受験の短期決戦化が進んでおり、今後もこの傾向は当面続きそうです。

TOPIC2コース改編と新設 今年は6校が実施

 2023年度入試でコースの改編を行ったのは、大阪の香里ヌヴェール学院・四天王寺東・初芝富田林・履正社、兵庫県の神戸山手女子・神戸龍谷の6校。昨年度は11校だったことと比較すると、今年はやや落ち着いた結果となりました。
 特に大きな動きは、『グローバル選抜探究コース』を新設した神戸山手女子です。同校は昨年度まで単一のコース制度でしたが、新たにコースが増えることとなりました。コースの改編や新設は、学校がより良く変わろうとする姿勢の表れです。また、新設コースの系統から、その学校がどんな方向性を目指しているのかを知る物差しにもなります。単に「新コースができた」という事実だけを見るのではなく、その中身までよく注視すれば、教育界全体のトレンドや学校の個性が読み取れるでしょう。近年のコース改編のトレンドは「グローバル」「探究」「特進系」の3系統と言えるでしょう。

TOPIC3選抜方法の多様化が進み、受験生にチャンス拡大

 近年、「学力試験で何点取れるか」という従来の選抜方法(一般入試)以外にも、新しい試験を導入する学校が増えています。
 たとえば実社会では、リーダーシップやコミュニケーション力、困難にくじけずに頑張れる回復力、あるいは思考力・判断力・表現力など、教科学力だけで測れない力も重要です。こうした一元的に数値化しにくい能力は「非認知能力」と呼ばれますが、このような力も含めて、多面的に受験生のポテンシャルを判定しようという動きが出てきたためです。
 それが、「自己推薦型入試」「適性検査型入試」「思考力型入試」です。以下、それぞれの選抜方法について概要を解説します。

① 自己推薦型入試

大学の総合型選抜(旧AO入試)とよく似た選抜方法で、原則として教科の学力試験は課されず、人物評価が中心です。受験生は、スポーツや芸術などの習いごと、ボランティア、児童会活動や地域活動、探究活動など、小学校時代に力を入れた活動をアピールします。その活動の中で得た成長や能力を評価するのです。
通常、中学受験に臨むためには相当の勉強時間が必要です。そのために、好きな習いごとを辞めなければいけない子どもたちもいました。しかし自己推薦型入試であれば、本当に自分が好きで打ち込んできたことを強みとして入試にチャレンジできます。こうした入試の登場で、これまで中学受験に関心のなかった層からも「受験してみようかな」という受験生が増えました。
一方で「学力試験を課さずに入学して、授業についていけるのか」といった懸念も聞かれます。しかし学校側には「何かに打ち込み頑張ることができる下地を持つ生徒であれば、本校で入学後に伸ばせる」という自信があります。自己推薦型が導入されて10年以上が経過していますが、導入後に廃止をした学校がないことから見ても、きちんと成果が出ているということなのでしょう。
2023年度入試での実施校は57校。昨年から横ばいですが、それまでは毎年増え続けてきたことから考えると、いったん落ち着いた状態に入ったと思われます。

② 適性検査型入試

公立中高一貫校が採用している選抜方式です。たとえばコメの栽培方法や気温の推移を示した上で「オーストラリアでの田植えと収穫はいつ行うのが適切か」など、教科を横断した問題が出題されます。答えに辿り着くまでの過程や理由の解説も求めてくるため、一筋縄ではいきません。本質的な「考える力」が問われていると言っていいでしょう。
ただ、特殊な選抜方式であるがゆえに、一般的な私学入試と並行して対策を行うには時間が足りません。加えて、公立中高一貫校は、1校しか受検できない制度になっています。
しかし、せっかく頑張って適性検査対策をしてきたのです。そこで、私学もこれと同型の入試を実施する学校が増えました。公立中高一貫校には合格できなかったものの、彼らの併願チャレンジの場として機能しています。
このような特性を持つため、近隣に公立中高一貫校がある学校が採用する傾向が強く、導入校数はそこまで多くありません。2023年度は16校が実施しました。

③ 思考力型入試

その名のとおり「思考力」を測る入試です。たとえばクラスのテスト成績一覧を見て「このクラスの特徴をふまえ、課題と解決策を述べなさい」といった問題が出題されます。定の解がないため対策が取りにくく、学校側も作問が難しいという課題があります。そのため導入する学校は少なく、2023年度は6校が実施しました。
ただし、思考力が重要であるのは事実。非常にチャレンジングな選抜方法ですが、新しい入試制度の中でも最も対策が難しいと言えるでしょう。

TOPIC4英語入試導入校増加 今年は52校で実施

 前述の選抜制度多様化の一環であるとも言えますが、近年増加が著しいのが英語を試験科目に採用した入試です。内容は筆記・英語面接・リスニングなどが中心で、2015年度には6校だった導入校も、2023年度には52校となりました。「国・算必須+理・社・英から選択」「国必須+算・英から選択」「英語必須+国・算から選択」などの入試科目選択パターンがありますが、中には「英語のみ」という学校も。
 また、中学入試の受験勉強において、最もハードなのは算数だと言われます。ここに他教科も並行して勉強するのは、かなり過酷な環境だと言えるでしょう。そのため「算数の代わりに(英会話教室などで学んだ)英語で受験できる」ことは非常に魅力的でもあります。
 背景には小学校での英語の教科化などが影響していますが、まだその歴史も浅いため、現時点で試験としての難易度はそこまで高くありません(帰国生対象のものや、エリート育成を目指す学校のものは除く)。英検で4級レベルの試験だと考えておくとよいでしょう。
 また、英語入試の登場は、前述の自己推薦型と同様、通常の中学受験対策以外のことを頑張ってきた子どもたちにも中学受験の門戸を開く形となりました。中学受験専門の塾通いをしていなくても、純粋に英語が好きで、習いごとで英会話教室などに通っていた経験が活かせるからです。塾通いのために英会話教室を辞める必要性も低減されるでしょう。
2024年度入試からは、大阪の公立中高一貫校も英語入試を採用すると既報されており、おそらく私学も追随する形で導入校がさらに増えるのではないでしょうか。

TOPIC5科目選択がスリム化  同志社が2科受験に

 従来の中学受験における試験科目は、4科もしくは3科からの選択が一般的でした。「国・算必須+理と社から選択」「4科目すべて」などの形式です。
 しかし近年は、受験科目のスリム化も目立ちます。「国・算のみ」という2科型や、なかには「国のみ」「算のみ」という1科型を採用する学校も増えてきたのです。2023年度は、関西大学中等部や同志社が2科を採用したことが、大きく注目を集めました。
 受験生としては、入試科目が減ればそのぶん対策も取りやすくなるのはメリットです。ただし、単純に入試科目を減らすことがトレンドだとは言い切れません。バランスのよい高い学力を担保するため、4科型を取り入れる学校もあります。社会科の重要性が再認識され、社会を必須とする学校もありました。

TOPIC6加点制度が充実し、英検保持者は有利に

 英検などの所有資格による「加点制度」が広がっています。所有する級数によって、試験の合計点に上乗せして計算してくれる制度です。年々導入校は増加しており、2023年度入試では57校が採用しました。
 どのくらい加点してくれるかは学校によりますが、英検でいうと多くの学校では4級以上が加点の対象になるようです。また、英会話教室などに通い英語を頑張ってきたことは、加点だけでなく、前述の『自己推薦型入試』『英語入試』にも適用することができます。英語が得意であれば、受験のチャンスは広がると言えそうです。ほか、漢検や数検も加点の対象になっています。

 さらに、同一校を複数回受験した場合に加点する制度が、28校で採用されています。同じ学校を何度も受けるということは、それだけ入学への熱意が高く、入学後は高いモチベーションで学校生活を送る可能性が高く、その成長にも期待できるからです。また、コース制度がある学校では、初日に合格を果たしても、加点制度を利用して、さらに上のコースを狙うために再度チャレンジする受験生もいます。

TOPIC7インターネット出願が導入校がついに9割超え

 2016年度から毎年導入校が増え、もはや当然となりつつあるのがインターネット出願です。2023年度入試でも新たに13校が導入し、関西圏の私立中学校での導入率はついに90・1%(127校)となりました。

TOPIC894校でプレテストを実施

 「学校ごとの模試」とも称されるプレテスト。会場も時間も本番と同じ条件で、試験問題の傾向も体験できるため、多くの受験生が利用しています。2023年度は、金蘭千里・履正社などが新たに導入しましたが、実施校の総数は3年前から変わらず94校です。
 ほとんどの学校が採用しており、テスト後の解説やフィードバックなどをていねいに実施する学校も多いので、ぜひ活用したいところです。

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