コロナ禍前の水準を上回る活気
社会にさまざまな影響を及ぼしたコロナ禍ですが、中学受験においてもそれは例外ではありませんでした。数値を見ればそれは明らかで、コロナ流行以降の入試では、受験率(小6児童数に対する入試解禁初日の受験者数の割合)こそ2021年度9・7%、2022年度9・8%と何とか維持していたものの、受験者の絶対数は2年連続で低下。コロナ前の2020年度入試では1万74 1 7 人でしたが、1万7170人(2021年度)→1万7019人(2022年度)と微減が続いていました。
そもそも現代人が初めて経験する世界的パンデミック。前例がないため予想もしにくく、2023年度はどうなることかという声もあり、懸念されていたのは事実です。しかし蓋を開けてみれば、2023年度の中学受験界は非常に活気がありました。コロナ前の数年を含めて比較しても「大盛況」と表現してもよいでしょう。以前に戻ったと言うより、それさえも上回る活況を見せたのです。
受験者数は大きく上昇に転じ、2022年度から306人増となる1万7325人。過去10年をさかのぼっても、今年の数字を上回っているのは2020年度の一度だけ。306人増という数字にピンとこない方は、中規模クラスの中学校が1校できるほどの人数だと考えると、イメージできるのではないでしょうか。
さらに受験率に至っては、ついに10・0%の“大台”を超えました。10人に一人が私立中学受験をしている計算です。直近で10%超えを記録したのは、なんと2009年度(10・1%)。14年前までさかのぼって、ようやく見つかるほどの数値だったのです。

コロナ禍のヤマを超え
落ち着いて受験に臨めた結果か

なぜこれほどまで活況になったのかは、コロナ禍が発生した年を基準に、受験生たちの環境やスケジュールを逆算してみるとわかりやすいでしょう。
一般的に、通塾など中学受験対策は、早い人で4年生くらいから始めますが、本格的な受験生活は5年生・6年生になってからです。そして、コロナ休校など未曾有のトラブルが教育界を襲ったのが2 0 2 0 年度。つまり、2021年度・2022年度入試の子どもたちは、この最も大事な5年生・6年生の時期に、コロナ禍が完全に重なってしまったと言えます。
学校も塾も休校となり、オンライン授業などでどうにか最小限の対応をする程度。カリキュラムは予定通りに進まず、長期休暇中の講習や勉強合宿、過去問特訓なども満足に行えません。新たに通塾を始めようとしていたご家庭も、感染のリスクからそれをためらうような動きが見られました。さらに志望校の情報を集めようにも、学校説明会やオープンスクールも、すべて中止かオンライン対応。こうなると、満足のいく準備をして受験に臨むことは難しく、結果として中学受験そのものを見送ったご家庭も多かったことでしょう。
これは運が悪かったとしか言いようがありませんが、彼らと比べると今年の受験生たちは、コロナ禍の直撃を避けられた世代でもありました。もちろん、影響は皆無ではありませんが、社会全体が“ウィズコロナ”に向けて順応し始めたころです。比較的落ち着いて、しっかりと準備できる環境にあったと言えるでしょう。
また、コロナ禍によって改めて私学の強みが発揮されたことも、追い風になったと思われます。2020年の学校一斉休校時には即座にオンライン授業を開始するなど、多くの私学で対応の早さが光りました。もちろん公立校もできる限りの努力はしていました
が、自治体の管轄下にある組織体制のため、どうしても私学のような独断や即時対応は難しい部分があったのも事実です。「もしまた何か大きなトラブルがあったとしても、私学なら安心感がある」という認識が広まったことも、中学受験熱を再燃させたと考えられま
す。
安全志向から一転
最難関校へのチャレンジも活発
昨年度の関西圏の中学入試で傾向として目立ったのは“安全志向”でした。前述のように、万全を期して受験に臨める環境ではなかったため、不安も大きかったのでしょう。最難関校へのチャレンジ的な受験を控え、より合格可能性の高い学校を受験する受験生が例年より多かったのです。実際、ある進学塾からも「過去問対策などの成績をコロナ前と比べても、あまり芳しくない。相対的に皆同じ状況であるとは思うが、前例がないため、合否の水準を判断しにくかった。ボーダーライン上の子に関しては、志望校を考え直すケースもあった」という声がありました。
しかし2023年度入試では一転、しっかり準備をして最難関校に挑む受験生が再び増加しました。。進学塾側も、昨年までの経験で合格水準が読みやすくなり、積極的にチャレンジを推奨できたそうです。
全体的に“コロナ慣れ”が進んだ2023年度入試だったと言えそうです。昨年は「社会が落ち着くと同時に、(中学受験熱が)一気に加速することも予想できる」と述べましたが、その通りの結果となりました。
