英語嫌いから17歳の海外体験を経て
グローバル教育に目覚めた中高時代
辰野さんの原点である17歳で参加した国際会議について教えてください。
実は私、中学で英語に挫折しているのです。帰国生の多いキリスト教系の女子校に通っていたのですが、周りは英語が堪能なクラスメートばかり。「私は英語や海外なんて興味がない!」と意地を張っていました。
母は、そんな私の17歳の誕生日に、「スイスで開催される国際会議に、一人で参加する権利をあげるわ」と、チケットをプレゼントしたのです。「?」ですよね(笑)。現地に行き、会場に入ると、肌も髪の色も違う様々な国の大人たちが参加していました。戦後50周年の国際会議で、テーマは貧困や環境、難民など、まさに今のSDGsそのもの。英語辞書を引きながら、きっとこんなことを話しているんだろうなと、想像を巡らせながら3週間過ごしました。
戦争について日本のしてきたことが語られる場面もありましたが、当時の私は、日本が戦争を通して世界からどう見られているか考えたこともなく、自分は英語だけじゃなく世界のことも知らないんだと痛感しました。
会議の最終日、「様々な国の人が世界平和について話し合う場があることは素晴らしい。こういう場が続いてほしいです」と発言したところ、目の前に座っていたおばあちゃんにひどく怒られたのです。「それを続けていくのはあなたでしょう!」と。そこで初めて、「平和とは常にあるものではなく、誰かが作ってくれているんだ、だから私は平和な世界で生きていられるんだ」と気づいたのです。同時に「私も平和を作る側に立たなくては」と強く思いました。そして「日本は平和ボケしてる!」と急に熱い人になって帰国し(笑)、高校生ながら大学の国際交流や環境サークルにまじって活動を始めました。
当時通っていた私立女子校で、印象に残っていることやよかった点は?
女性で代表や経営者というと、性別が真っ先に注目されることが少なくありません。でも、女子校ではリーダーなど様々な役割を女子が担うのは当たり前。女性だからという感覚がないので、「女性〇〇」とカテゴライズされるのはいまだに不思議に感じます。また、キリスト教系の学校だったので、社会貢献を行うのが当然の環境でした。SDGsをいちはやく教育に取り入れた学校にキリスト教系が多いと感じたのですが、それはもともと実践していることに重なるからだと思います。自分にとってそうした環境は恵まれたものであり、そのなかで育ってきてよかったと感じます。
夢を語り続けてきた友人・仲間に励まされ、
悲しみを乗り越えてGiFTを設立
GiFT設立の経緯と目的は?
17歳の原体験がベースにあり、もともと教育に関わりたい、教育を通して世界をよりよくしたいと考えていました。大学でグローバル教育を学び、人材育成やコーチング、国際交流事業に関わるなど、グローバル教育のど真ん中でキャリアを積むなかで、「30歳までにグローバル教育のプロフェッショナルになっていたい」という思いを強めていきました。
ところがちょうど30歳の頃、父が亡くなったのです。家族全員の生活に影響を与える父の死に直面し、「家族が大変なときに、夢を追ってもいいのか」と悩みました。そんな私を救ってくれたのは、17歳の頃から夢を語り続けてきた友人たち。「諦めるな」と励まされ、再び前を向き、GiFTを設立したのが2012年12月です。
当時は国内で、「グローバル人材の育成」が叫ばれていた時代です。海外と戦える強い人材が必要なのに若者は内向きで、これをどうにかしなくてはという風潮が強くありました。私はそれに疑問を感じました。日本経済が落ち込み、金銭的な事情から留学したくてもできない若者がたくさんいました。話す場があれば、しっかりとした意見を持っているのに、社会が彼らを内向きと呼んでいたのです。
そのような背景のなかで、世界で戦う人材ではなく、多様な人たちと新たな価値を作れる人=「地球志民」を「グローバル人材」と定義し、育成したいと思ったのです。地球社会の一員として自分がどう志を持って生きていくかを考える場を作りたいという思いが強くありました。
GiFTはどのような活動を行っているのでしょうか。

「SDGsの17の目標のうち、Goal4は、『すべての人々に、だれもが受けられる公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する』です。質の高い教育は、生活改善と持続可能な開発の基盤となります」(辰野さん)
世界をよりよくする志=グローバル・シチズンシップを引き出し、その思いをつなぎ合わせてよりよい未来を共創する場づくりを、あらゆる方法で行っています。特にSDGsのゴール4の項目7に該当する分野です(SDG4.7とは?参照)。
例えば、主に大学生を対象とした海外研修「Diversity Voyage」。フィリピン・ラオス・マレーシアなどの現地の大学生と日本の大学生が、自分の人生や思いを共有しながら「教育と平和」「エコツーリズム」などのテーマに合わせて対話していくという内容です。また、文科省主催の海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」の高校生コースの事前・事後研修を担当するなど、活動は多岐にわたります。
︎SDG4.7とは?
SDG4.72030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、 人権、 男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、 全ての学習者が、 持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。
GiFTはSDGsのゴール4、特に項目7の実現に向けて活動しています。
グローバル・シチズンシップ・プロセスに基づく各種プログラム、研修の実践、世界各地で活躍する社会起業家、社会企業と協働するDiversity Voyage(海外共創研修)など、国内外で多様な場づくりを展開しています。
グローバル教育の本来の定義は
地球·未来をよりよくする志の育成
なぜグローバル教育が必要なのでしょうか。
グローバル教育は、学術的には国際理解や環境、人権、平和など多岐にわたるテーマを扱う教育です。2012年、当時の国連事務総長が立ち上げた「グローバル教育ファーストイニシアチブ」という指針でも、その文脈で語られています。なぜ必要かというと、地球社会と未来をよりよくするためです。
日本では2013年くらいから、「英語教育=グローバル教育」というイメージが広まってしまったので、GiFTは本来の定義をより強く発信していこうと思っています。
様々な国籍の学生たちとワークショップをすると、「日本人、○○人と呼ぶけど “私たち”って誰?」から始まり、「あ、地球志民ってこういうことか」と、気づく瞬間があります。そして、「地球社会に一緒に生きる一員として、私たちはどう協働していこう?」と。その視野・視座を持たないと、環境問題や食料問題を解決できません。地球社会をよりよくしたいという志を育み、自分の考えや思いを話せる場を作ることで、地球や未来はもっとステキになると思っています。
コロナ禍のなかでグローバル教育を推進していて、これからどのような活動に注力するお考えですか。
GiFTでも、海外研修やワークショップはオンラインに移行しました。実際に現地を訪れて得られることはたくさんありますが、オンラインになったことで金銭面や移動時間といったハードルが下がり、参加者の裾野も、つながる国も広がりました。「PCを開ければ世界とつながれる」という部分を手に入れられたことは大きな収穫です。リアルなプログラムでは、渡航しやすい東南アジアが多かったのですが、この夏はドイツとのオンラインプログラムを開催します。違う形で世界とつながりやすくなったと感じます。海外という意味での「グローバル」において、ハイブリッドな学びを手にすることは、すばらしく世界が広がることです。現在7カ国に「Diversity Voyage」の卒業生がいるのですが、彼らをつなげてプログラムを行いました。それができるのもオンラインならではです。
また、グローバル教育を実践するにあたって、コロナ禍で地球環境がより身近になったと感じています。地球を大切にしたい、自然や農業への興味が高まったという若者も増えています。それはその地域で、自然とつながりながらその豊かさを感じるという意味での「グローバル」です。
実は私自身も、そんな気持ちが強くなり、都心から鎌倉に移住しました。地元で採れた野菜を食べ、コンポストで肥料にして土に還して…。自然や地域とつながりながら生活しています。
国内でグローバルな視点を育むには、どうすればよいでしょうか。
GiFTが定義するグローバルとは、地球社会の一人として生きる、ということ。そして地球志民とは、多様な人達と共に、よりよい世界を作っていこうとする志を持った人のことです。
現在、高校で「総合的な探究の時間」のプロデュースを担当しており、校内でそのような視点をどう育むか、ということを行っています。「どういう未来を描いてる?」「どんな願いを持ってこの高校を選んだ?」。そんな問いを投げかけ、自分と向き合い、志を育てる場づくりです。時間と場、問いがあれば、どこにいても地球志民であることを意識できると思っています。
自分が着ている服や食べているものがどこから来たのかを考え、感謝の気持ちを感じるだけでも、その瞬間に世界はつながっているということ。その感性と感謝の気持ちが地球社会をよりよくしたいという志を育むのではないでしょうか。
自他の多様性を認め
違いを楽しむことで
地球はもっとステキな場所に
グローバルを理解するうえで大切になる、多様性(ダイバーシティ)について教えてください。
GiFTは、その人のなかにある多様性、人生を語ることを大切にしています。私は17歳での経験を経て、大学時代には22カ国の仲間と1年間ホームステイをしながら世界70都市を周り、内閣府事業の教育担当として15カ国250人が参加する船上のプログラムで働くなど、ダイバーシティのなかで生きてきました。食事制限がある人、様々な宗教を信仰する人、LGBTQの人がいる。だからこそ、「カテゴライズ」することばかりしなくていいと思うんです。一人の人間のなかにも様々な面がありますし、人生にもいい時・悪い時があります。海外で英語が通じなくて暗かった時代や差別された経験、逆に日本で目立つ時もあれば、自分で見えていない自分もいます。
このように自分のなかにも多様性があるという前提に立ち、自分に対して寛容になることで、他者に対しても寛容になれると考えています。その違いを楽しめるほうが、よりよい世界が実現すると思います。
私立中学受験に挑む受験生や保護者へメッセージをお願いします。
GiFTの活動のなかで改めて感じるのは、実は若者のほうが未来の答えを持っている場合が多いということ。今の若者は生まれた瞬間から、環境問題や貧困問題といった言葉を聞いて育った、いわばSDGsネイティブ世代。SDGsのカードゲームを使った研修をすると、小中学生からは「これって当たり前ですよね」という反応が返ってくるんです。こうした感性を大切にして、将来自分がどんな世界に住みたいか、どんな世界になったらうれしいかを考えてみてほしい。そのためにどんなことを学びたいかを自分自身に問いかけて、進みたい道へ進むために学校を選んでほしい。
「グローバル」を留学や英語という意味でとらえると、私学はすばらしいと思います。海外留学先も英語圏だけではなく、多言語の国と提携している学校もあります。数あるなかから、自分のやりたいことを学べる学校がきっと見つかるはずです。
そんな自分探究の一助として、私が企画協力に携わった書籍『わたしからはじまる!SDGs』を手に取っていただけたらうれしいです。
保護者の皆さんは、「学ぶことで自分がワクワクする未来を作れるようになる」という観点から、「どんな世界になったらワクワクする?」と一緒に話し合ったり、「どんなふうになりたい?」と会話しながら学校選びをしてはいかがでしょうか。学校選びや受験が親子で一緒に考えて行動できる機会になるのなら、とてもステキなことだと思います。

GiFTの国内プログラムには、中学・高校の研修、ワークショップ、講演活動も多くあります。

当時17歳の辰野さん(左)と、チェコ人の友人(右)。

2011年内閣府主催「世界青年の船」事業でコースディスカッション主任として働く辰野さん(手前右から2番目)

参加者同士でダイアログする場で、ファシリテーターを務める辰野さん

「自分の”好き”が持続可能な社会とつながって、将来や進路決めにも役立つ・未来をワクワク探究する本です」(辰野さん)。発表イベントの参加者である中学生や大学生、先生と辰野さん(左から3番目手前)。

2022年6月に発売された、辰野さんが企画協力に携わった書籍『わたしからはじまる!SDGs』。
辰野さんの「ライフカーブ」。
自分自身の人生をグラフのような曲線で表現したもので、
縦軸は喜びなどエネルギーのメーターを、横軸は時間(年齢)を示しています。
辰野さんのライフカーブは、山あり谷ありで、そのうえでGiFTを設立。
GiFTでは、ステップ1「地」の「自分を知るため」に、自身の物語を語り、他者とシェアし、自分自身の人生、
そして様々な人の生き様から学ぶことを重視しています。
GiFTでは、下の図の「地」「球」「志」「民」の4つのステップに取り組むことで、
私たち一人ひとりが世界のどこにいてもその人らしく振舞い、
行動するだけでなく、多種多様な価値観を持つ人と共に取り組む場づくりをしています。
そこから新たな価値を生み出して社会に参画する「グローバル・シチズンシップ(地球志民)」を育むことができると考えています。
Profile 辰野 まどか

17歳の海外体験をきっかけにグローバル教育に目覚める。大学時代に世界100都市以上を訪れ、様々なプログラムを通して、自らを実験台にグローバル・シチズンシップを育成するグローバル教育を体験する。coach21(現coachA)勤務後、米国大学院に留学し、異文化サービス・リーダーシップ・マネジメント修士号取得。その後、米国教育NPOにおいてグローバル教育コーディネーター、内閣府主催「世界青年の船」事業コース・ディスカッション主任等を通して、世界各地で多国籍チームとグローバル教育を実践。 2012年末に一般社団法人GiFTを設立し、多様性の中から新たな価値を創り出すグローバル・シチズンシップ育成推進のための活動を開始。 「トビタテ!留学JAPAN」高校生コース事前事後研修やアジア7カ国を舞台にした海外研修等、中学・高校・大学・企業を対象とするグローバル・シチズンシップ育成に関するプロデュース、研修、講演等を行っている。プライベートでは2019年に鎌倉へ移住し、自然・地球とのつながりを実感する時間を過ごしている。著書に『世界で学ぶ、働くことは生きること』(共著/書肆侃侃房)ほか。
| 2011~2015年 | 明治学院大学国際学部 国際キャリア学科非常勤講師 (Community Development Service Learning 担当) |
|---|---|
| 2015~2019年 | 「持続可能な開発のための教育(ESD)円卓会議」委員 |
| 2016年~ | 東洋大学食環境科学研究科客員教授 |
| 2018年~ | 2020年 かながわ円卓会議委員 |
| 2019年~ | 名古屋NICグローバル人材育成アドバイザー |
| 2020年~ | Small Worlds 教育委員会 |
| 2021年~ | 日本ESD学会評議員 |
| 2022年~ | 日本シティズンシップ教育学会理事 |









