社会が変わり、求められる新しい力
学校教育はどう変わる?

グローバル化や人工知能の進化が加速するなか、社会で求められるスキル(能力)は変わってきています。かつての日本社会では、良質で均質な商品やサービスを大量に安価に提供することが重視され、日常では横並び、「みんなと一緒」が求められ、企業では指示されたことを正確にこなす人材が重用されました。しかし今後は、オリジナリティあふれる商品やサービスが求められ、多様なニーズに柔軟に対応する力が重視されます。必ずしも「みんなと一緒」である必要はなく、むしろ「自分らしさ」が大切にされ、多様性を包み込むような社会がめざされています。
こうした社会で活躍するには、幅広い視野や深い教養、しっかりした洞察力や感受性、自分なりに工夫する力や自分の考えを表現する力などが必要不可欠になります。どれも従来型の日本の教育ではあまり重視されていなかったことから、教育内容を見直す必要性が叫ばれるようになり、その一環として、大学に教育内容の質向上を求めるとともに、その内容を公表することを求め、高校までの学校には新学習指導要領を実施、そしてその間をつなぐ大学入試制度も改革されることになったのです。
従来の大学入試は「受験勉強を積み重ね、それまでに身に付けた知識や技能を使って解答用紙を埋める」という形式が主流でした。しかし、今回の大学入試改革では、「知識・技能」に加えて、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」を“学力の三要素”と位置付け、「大学入試センター試験」から「大学入学共通テスト」という新しい入試を行うことになりました。
2020年度、この新しい大学入試が実施されました。2023年度までの間は先行実施期間で、本格実施は2024年度からとなります。この段階的な実施の背景にあるのは、新学習指導要領への切り替えです。新学習指導要領は、小学校では2020年度から、中学校は2021年度から全面実施され、高校は2022年度から学年進行で実施されるので、2020年度~2023年度の間は、新学習指導要領での教育を受けていない生徒が大学入試を受験します。したがって、先行期間実施中は、従来の教育を受けた生徒でも対応できるように、部分的な変更となっているのです。
大学入学共通テスト
「大学入学共通テスト」は、昨年度までの「大学入試センター試験」の代わりになる試験で、国公立大学に入学するための一次選抜です。私立大学は必要に応じてこのテストを利用することができます。
2020年度の大学入学共通テストでは、数学・国語に記述式問題が追加されることになっていましたが、見送られることとなりました。
英語は「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を重視。しかし、入試当日に受験生一人ひとりの「書く」「話す」能力を評価するのは現実的ではありません。そこで民間の資格・検定試験を受験生が事前に受け、その成績で評価をすることになっていましたが、こちらも見送りに。大学入学共通テストでの記述式問題と英語の民間資格・検定試験の利用とも、当面は導入が見送られる方針となりました。ただ、共通テストでの導入が先送りになったとはいえ、私立大学を中心に、英語4技能を測る検定試験(=外部検定試験)はこれまでも大学入試での利用はされており、受験生にとって民間資格・検定試験の点数などを入試に利用できる、という状況に変化はなさそうです。
“未来社会対応力”を
培うため教育改革が進む
先述のとおり、2020年度からの大学入試改革で最もわかりやすい変化は、これまで行われてきた「大学入試センター試験」が廃止され、「大学入学共通テスト」が導入されたことです。また、各大学が実施する「個別選抜」では、さらに「主体性・多様性・協働性」までを求めるとされています。そうした力を試すために、「小論文、プレゼンテーション、集団討論、面接、推薦書、調査書、資格試験等」が例示されています。これらの大学入試改革や新学習指導要領で新しく問われるのは、いかに自分で考えて答えを導き出すかです。しかし、この力は詰め込み式の学習だけで身につけることはできません。中高の6年間でいかに学ぶかが大切になってきます。
そのため、私学が今まで以上に教育の質を高める取り組みを実践するとともに、その結果として私学を選択する家庭が増えているのです。
大学入試改革から見る中学受験
大学入試は
2024年度必ず変わる

学習指導要領が変わり、これに基づく新しい教科書が使われるのは小学校が2020年度、中学校が2021年度、高校は2022年度からになります。新しい教科書・カリキュラムで高1から学んだ子どもたちが大学入試を受験するのが2024年度です。
つまり、2024年度からの大学入試は必ず変わると言えるでしょう。教わる内容が変わっているのですから、試験の出題が変わるのは自然な流れなのです。
ただし、今回の学習指導要領の改訂は、従来の「知識・技能」の取得が中心の学力観から、知識・技能を“活用”して「思考力・表現力・判断力」を養う新たな学力観へとシフトしています。知識や技能の“活用”は、大学受験に向けて少し勉強すれば身につくものではありません。小学校、中学校、高校と長い時間をかけて積み重ねていくものです。
そうすると、知識・技能の活用力を早めに身につけさせたいと準備する動きが起きてきます。実際、小学校ではすでにいろいろな教科でプレゼンテーションが取り入れられていますし、小3・小4の外国語活動や小5・小6の英語科では英語のスピーキングが教えられています。
このように国が主導する大学入試を見すえた教育活動が、小学校・中学校ですでに始まっています。そんななか、自分の力をより良い環境で磨いていきたい、というお子さんにとって、中学受験は大きなチャンスと考えられます。
私立中学では、大学受験を見すえ、前倒しで教科を学ぶカリキュラムが特徴と言われていました。保護者世代も、このカリキュラムは体験してきたかもしれません。しかし、活用力を身につけるには時間がかかります。一部の私立中学では、知識・技能を深く活用する学びに時間を割くために、前倒しをして学習するカリキュラムをやめた学校も出てきています。これからは深く学ぶことが重要視される時代になっていくでしょう。
大学入試改革は中学受験を考えるうえでの一つの材料に過ぎません。大切なのは、これからの子どもに必要とされる学力観を見ることなのです。
「21世紀(未来)型教育」と「中学入試の多様化」

※出典:The Learning Pyramid アメリカNational Training Laboratories

図は、アメリカで開発された『ラーニングピラミッド』です。これは学習手法と学習効果の関係を段階に分けて説明したモデル図です。講義をただ聞くよりも、討論したり、体験したり、さらには学習者自身が人に教えた方が学習効果は高まるという説を図示したもので、『主体的に取り組む学習』ほど学習効果が高いという考え方です。欧米の先進諸国の多くでは、このような考え方を重視して教育が行われてきました。
こうした考え方を学習のスタイルに反映させたものが、「アクティブラーニング(AL)」です(文科省の現在の表現では「主体的・対話的で深い学び」)。この学びの例として挙げられるのは、課題解決型学習や議論型授業、双方向型・対話型授業、ICT授業などです。つまり、従来の一方通行の講義型の教育ではない新たな教育手法で、日本では「21世紀(未来)型教育」と呼ばれています。
進行中の教育改革をにらみ、かなり以前からこの21世紀(未来)型教育を取り入れている私学もあります。取り組み方は学校それぞれですが、各校ともより内容が充実してきていて、成果も上げています。一ついえることは、そのような自校の方向性を明確にわかりやすくアピールしている学校に注目が集まるケースが、近年多くなっていることです。
そして、小学生の多彩な資質や才能を発見し、多様な力をもつ子どもたちを迎え入れるために、さまざまな形態の「新タイプ入試」が多くの私学で新設・導入されています。従来の中学入試の選抜方法は「4科目入試」「2科目入試」「4科・2科選択入試」が大半でしたが、数年前から従来型とは異なる「新タイプ入試」を実施する学校が、年々増加しています。たとえば、適性検査型入試。これは公立中高一貫校の出題に即した問題です。
適性検査型入試は、基本的には教科の枠を外した『合科型』で、長い問題文を読解して記述で答えるという問題が主流です。
そのほか、英語入試・自己推薦型入試・思考力型入試に加えて、プレゼンテーション型などの、まさにアクティブラーニング的な入試もあり、新タイプ入試をあげれば枚挙にいとまがありません。これらの新タイプ入試は、今後も増加を続けていくと予測されます。特に以前から一部の学校が実施していた英語(選択型)入試は、近年は増加の一途をたどっています。これは、大学入試改革に加えて、2020年度より小学校でスタートした「英語の教科化」も一つの要因です。
その流れも後押しし、2021年度の関西2府4県の中学入試で英語入試を実施した学校は48校にもなりました。また、試験は実施せずとも、英検などの資格検定スコアに応じて全体の点数に加点を行う学校もあり、こちらは51校が実施しました。


保護者の「価値観・教育観」でも多様性を重視

この新タイプ入試は、一定の受験生層に強い支持を得て、その結果、中学入試全体の構造も変容しつつあります。今までの中学受験は、小4ごろから進学塾に通い始め、2~3年間じっくりと受験勉強に取り組み、各私学へチャレンジという形が大半でした。今もこのような家庭が大部分を占めていますが、近年はそれとは異なるルートで中学入試に挑む新たな層が現れ、拡大しつつあるのです。
以前はスポーツや音楽関連、英語教室など子どもに習いごとをさせる家庭は、小4・小5で減少していました。むろん受験準備に集中するためです。
しかし、最近は小4でも習いごとをさせる家庭はさほど減少しなくなっているようです。「受験一本槍で過ごさせるのでなく、小学生時代は多様なことを体験させたい」。そのような従来とは異なる新たな価値観・教育観を持った保護者が増えてきました。新タイプ入試に注目するのは、特にこの新たな層と思われます。
新タイプ入試の多くは、細かい知識や特別な解法テクニックを必要としない問題を出題しており、長期にわたり受験準備を行わなくとも、十分に対応できるといえます。
今の中学受験生の保護者は、団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)やミレニアル世代(1980年代生まれ以降の世代)が大半を占めています。現在とは大きく異なる社会を生きてきた団塊世代やポスト団塊世代とは、価値観や教育観、学歴観が異なるのが当然といえるでしょう。
そして新タイプ入試の増加、入試の多様化は子どもたちにとってメリットが大きいといえます。習いごとを辞める必要はなく、逆にそれを武器に中学受験に挑戦することが可能になったのです。入試形態が多様化し評価方法が多元化すれば、さまざまな能力を持つ子どもにスポットがあたります。それが子どもの自己肯定感を高めることになり、自己肯定感こそが自らの個性を伸ばす源になっていくでしょう。