中学校検索

地域
学校区分
学校名
検索
閉じる

中学 受験plus

この記事は1年以上前の記事です。

どんなことがあっても
面白がれる人になれ

iU学長 中村 伊知哉(なかむら いちや)先生

 和服姿で日常を過ごし、学校を作り、新しいまちづくりを考え、超人スポーツの未来に目を輝かせ、政府のプロジェクトにも関わる中村伊知哉先生。「着物姿で霞が関を歩いても、不審な目で見られない社会になるといいな」とつぶやく先生は、一歩先の社会を生きる達人に見えます。2020年4月、iU(情報経営イノベーション専門職大学)の学長に就任し、「入学してくる学生たちの意識は、僕よりももっと未来に進んでいた」と顔をほころばせます。中村先生がイメージする、これからの理想の学校の姿とは? そして「これからの子どもたちに必要な力」とは? 子どもたちがワクワクできるような未来を語っていただきました。

掲載日:2021/7/31
Profile

iU学長 中村 伊知哉(なかむら いちや)先生 1961年生まれ。
京都大学経済学部卒。慶應義塾大学で博士号取得(政策・メディア)。
1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省(当時)入省。1998年 MITメディアラボ客員教授。
2002年 スタンフォード日本センター研究所長。2006年 慶應義塾大学教授。2020年4月よりiU(情報経営イノベーション専門職大学)学長。
内閣府知的財産戦略本部、文化審議会著作権分科会基本政策小委員会などの委員を務める。CiP協議会理事長、吉本興業ホールディングス社外取締役、理化学研究所AIPセンターコーディネーター、東京大学客員研究員、慶應義塾大学特別招聘教授などを兼務。
著書に『超ヒマ社会をつくる』(ヨシモトブックス)、『コンテンツと国家戦略~ソフトパワーと日本再興~』(角川EPUB選書)、など多数。

コロナ禍で浮き彫りに
された問題点と
デジタル世代への期待

 コロナ禍によって学校が休校になった今年、いかに日本のデジタル教育が後進国であるかが浮き彫りになりました。今まで小学校で5人に1台しかパソコンを持っていなかった日本でも、やっとパソコンを1人1台持たせようという決断をすることができました。
とはいえ、すぐにどの家庭でもオンライン授業を受けられる環境が整ったわけではありません。今まですべての子どもに教科書が配られてきましたが、これからは勉強道具としてパソコンやインターネット環境も大事になると同時に、経済格差が教育格差につながるような問題も表面化するでしょう。これは真剣に考えていかなければなりません。
 一方、コロナ禍によって学校行事や部活動の大会が中止になったことを踏まえ、子どもたちはさまざまなアイデアを出して日々を楽しもうとしています。たとえば直接友達と会えなくても、みんなで面白い映像を作って発信したり、「オンライン文化祭をやろう!」と学校に提案したりするなど盛んに行われているようです。
 これからの世の中をつくっていくのはデジタルネイティブ世代ですから、彼らこそ、世の中を良くするようなアイデアを出す世代だと思っています。「どんどん始めよう」と、大いに期待しています。

コロナ禍は
次のルネサンスを生む
可能性を秘めている!?

 歴史を見ると、今回のコロナ禍のような出来事は14世紀のヨーロッパでも起きています。ペストの大流行によって人口の2割の命が失われた史実です。
 ペストの大流行では、人々を救えなかったために、その当時絶大な権力を持っていた教会の権威が失墜しました。そうして民衆の力が強まって生まれたのがルネサンスです。ルネサンスでは新しい芸術や文化などが大きく花開きました。ルネサンスは中世ヨーロッパの社会構造をガラリと変え、中世が終わりを告げて近代がやってきたと言われています。
 新型コロナウイルスも、今ある価値観などさまざまなものを壊して、次の時代を作ろうとしているようにも思えます。もしかしたら、次のルネサンスを生み出すのではないでしょうか。
 今は大変な時期であり、これからの若い世代は予測不能な社会で生きていかなければならないとか、AIの登場で今ある仕事の大半がなくなるから大変だなどと言われていますが、僕にしてみれば「それは、ひょっとしたら何にでもなれるってことじゃないか?」と思うんです。
 僕らの学生時代は、いい大学に入っていい会社に入るのが、一番いい人生であり、みんながそこをめざしていました。でも、今は違います。その昔、お笑い芸人なんて、「他にできることがないから就く職業」と言われていましたが、今や子どもたちが憧れを抱く職業です。ユーチューバーだって、近年生まれた新しい職業の代表格ですが、子どもたちに大人気ですよね。
 今年、僕が学長に就任したiU(情報経営イノベーション専門職大学)(※)は、学生全員が起業するのですが、昔だったら保護者の方に「起業なんてしないでちゃんと就職しなさい」と言われたでしょう。でも、本校には親子揃って入学する学生もいれば、国立大学を辞めて入学してきた学生もいます。本来は3年間勉強して、4年生で起業することを想定しているのに、入学してすぐに起業する学生もいます。入学者の意識は、僕の予想よりもはるかに先の時代に進んでいました。
 今の世の中は、みんなが1本の道を歩いてひとつの山をめざすのではなく、選択肢や可能性が広がって、それぞれが違う山をめざすフラットな状態になりつつあると感じています。今の時点で「やりたいことが見つからない」という子も、「どんな将来に向かおうか」と、楽しく選べる世の中になるのではないでしょうか。

  • iU(情報経営イノベーション専門職大学)…2020年4月に開校した専門職大学。墨田区押上にキャンパスを構え、産業界や地域社会と連携を強く持ち、「ICT」「ビジネス」「グローバルコミュニケーション」を柱に、世の中にイノベーションを起こす人材を育成する。
中村先生がイメージする
これからの教育の姿とは

 今、僕が思い描く理想の教育の姿は、いわゆる「従来の学校」がないイメージです。
 コロナ禍で休校になったとき、みんな学校に行くことはできなかったけれど、リモートで世界中の素晴らしい授業を受けられることに気づきました。中には無料で受けられる講義もあります。大教室に集まらなくても、カリスマ教員がYouTubeで配信する授業を、自宅にいながらスマホで見ることができるということにも気づきました。すると、教室で先生が黒板に板書していたものを、一生懸命ノートに書き写すという授業スタイルも変わります。「学ぶ」ということが、いつでもどこでも、誰でもできるようになる可能性が見えてきました。
 そうなると、「歴史の授業はあの大学の教授の講義を受けました」「数学はこの高校の先生に学びました」「英語は予備校のカリスマ講師に教えてもらいました」という学びの履歴書を持っているほうが、有名大学の卒業証書よりも値打ちが出てくるのではないか。そんなことが5年後くらいに本当に起きているのではないかと思っています。
 教員も魅力的でなければいけません。オリジナリティがある教員でないと、誰も受講してくれなくなります。頭の中に詰め込んだ知識をただ板書するだけの授業は、画一的な人材を育てる教育として有効でしたが、これからは「クリエーティビティを育てる」という方針に沿って、教員の役割も変わるでしょう。これからは教員と生徒が一緒に何かを考えるとか、議論を交わして仲間と一緒に何かを作り上げることの価値が上がり、教員は「みんなをつなぐ」「きっかけをつくる」「みんなを元気にする」能力が求められてくるでしょう。
 最近の大学はちゃんと勉強する場所になりました。以前は大学の4年間をぼんやり過ごしていても、就職していい会社に入れば、会社で勉強させてもらうことができました。でも今の日本の企業には、人をじっくり育てる余裕がなくなっています。大学でしっかりと勉強して、即戦力として社会に出てきてほしいと要求しているのです。
 一方で仕事に対する考え方も変化しています。今までのようにずっと同じ会社に勤めることは少なくなって、転職の際にまったく違う業種に就くことも珍しくありません。たとえば先日までは金融系の会社に勤めていたけれど、今度は農業に従事します、という生き方も当たり前になっています。そしてその都度、自分で学び直しをしなければなりません。
 僕が作った大学は、一応4年制としていますが、本当はいったん大学に入ったら、30年間くらいずっと学生の資格を持ち続け、必要があればその都度、学び直しができるような仕組みになればいいと思っています。

学校に集う意味とは
何だろう

 僕は教育の理想の姿は「学校」がないことだと思っていますが、その前に「キャンパスや学校に集まってやることは何だろう?」と、今一度問い直す必要があります。
 リモート授業は便利ですが、決定的に欠けていることがあります。それは〝ニオイ〟や手触りがないということです。
 僕は東日本大震災のすぐあとに現地に行ったのですが、そこで最初に衝撃を受けたものはニオイです。津波をかぶり、太陽に照らされた大地のニオイは、今までの人生で嗅いだことのないような異様なニオイでした。それを感じたとき、自宅で東北が被災した映像を見ただけで、すべてわかったような気になっていた自分が、実は何もわかっていなかったのだと思い知らされました。
 デジタル化が進んだ今、遠隔地にいる人とつながることが容易になりました。世界中の素晴らしい授業を日本にいながらにして受けることもできます。でも、取りこぼし、失っている情報もたくさんあります。それがニオイであり、手触りであり、リアルな運動感覚なのです。こうした身体感覚を取り戻すことが、「学校に集まる」ことの意味です。教育現場では、オンラインでできることと、オフラインでしかできないことのバランスを取りながら注意深くカリキュラムを設計していく必要があります。これは小学校から大学まで、みんなで考えなければならないことです。

新しい社会になると、まち、
スポーツ、学校も変わる

 今、僕がつくろうとしているのは「まち、スポーツ、学校」の3つです。3つともテクノロジーに関係があることです。
 デジタル技術が世の中に出てきたのは約25年前、Windows95が発売されたことで世の中が大きく変わりました。次の大きな変化はAI、ロボット、ビッグデータの登場です。それまでは第三次産業革命、情報社会、あるいはSociety4.0と言われていた社会が、第四次産業革命とかSociety5.0と言われるまでに、わずか25年で変化したのです。
 新しい社会では、まちの姿は大きく変わるでしょう。AIやロボットがいろいろなことをやってくれるとなれば、身体活動も変わります。テクノロジーで身体能力を補強し、超人になって行う「超人スポーツ」が流行するかもしれません。たとえばAR(拡張現実)スポーツでは、自分の身体を使いつつ、視覚的にヴァーチャルリアリティの世界に入って、相手の攻撃をかわしながらをエナジーボールを打ち合うことで相手の「ライフ」を削ります。1試合やったら汗だくでヘトヘトになります。そのような競技がオリンピックに生まれたら、世界中の人々と家にいながらにして試合をするようなことも増えるのではないでしょうか。すると住宅のレイアウトも変わります。
 また、学校の部活動でeスポーツ部を作りたいと相談されることが多いのですが、体育とデジタルを組み合わせて、たくさんの学校を5Gでつなげば新しい運動会ができるかもしれません。海外の人ともつながって、バーチャル綱引きをやってみようとか、世界の人と一緒に合奏しようとか。そうなると、校舎や教室も変えなければなりません。教壇の前に先生が立って、机がズラッと並ぶレイアウトではなくなるでしょう。そのとき、学び合いにふさわしいレイアウトは何だろうと考える必要があります。
 一方でリモートワークがさらに増えると、今までオフィスで使っていたような場所が空き、まちも変わります。もしも都会のど真ん中が空いたら、ウチの大学でテクノロジーを利用していろいろな人と一緒に遊べるような何かをしたいと思っています。そんな突拍子もないアイデアは、中1くらいの世代から出てほしいですね。そんな子がいたら、飛び級をして、ウチの大学に入ってくれないかな(笑)。

変化を楽しみ
予測不能を面白がる人に

 iUのキャッチフレーズは「変化を楽しむ」です。社会は多様に変化するけれど、どう変化するかなんてわからない。だから今できることは、「どんな変化があっても、それを楽しめるヤツになろうぜ」なんです。
 先日、起業した学生たちが集まる機会があったので「コロナで投資計画も変わってしまっただろう?」と聞いてみたのですが、みんなが目をキラキラさせて「コロナで世界がガラッと変わるから、ビジネスチャンスがあります!」と言うのです。きっと、「世の中が大変なことになっているから、今は静かにしていよう」と世の中に合わせて下を向くスタンスでは、人生100年時代と言われるこの先も、ずっと下を向き続けてしまうのではないでしょうか。「今、この瞬間が楽しいか?」という柔軟な考え方が大切になってくると思います。
 僕は音楽をやっているクリエーティブな奴らと何かしたい、プロデュースする仕事がしたいと思って調べたら、ルールをつくる大元が当時の郵政省だと知り、入省のため猛勉強しました。人工知能のプロジェクト立ち上げに関わったときも、コンピュータや数学、法律の本を読んで一から勉強しました。学校を卒業しても、人生って勉強し続けなければならないものです。
 中学や高校時代に「勉強する意味がわからない」と思う人もいるでしょう。でも、学生時代の勉強は、社会に出るための基礎体温を上げることになると思うのです。
 時代が変わっても、たとえ予測不能な世の中がやってきても、未来を生きる子どもたちに必要な力……それは、しっかり食べて自分の肉体をキープすることと、きちんと挨拶をして人とコミュニケーションをとること。そしてどんなことであっても面白がれる人になること。目の前に変化があるからこそ、人生は面白いんです。

「これからの学校は、オンライン授業が主流になり、プロジェクト学習やクラブ活動など、必要な場合のみ集まり議論し合う形がスタンダードになると思います」と中村先生。

ドローンによる荷物配送。人手不足を解消する。

超人スポーツ「HADO」。
ヴァーチャルリアリティの世界でスポーツする面白さ!