2018年4月に高校でスタートした『英語科国際バカロレア(IB)コース』で、今春9名の1期生が卒業しました。IBコースでは、高3で国際的に通用する大学入学資格『IBディプロマ』を取得することを目標に、通常の教科学習に加えて「TOK(知の理論/Theory of Knowledge)」「EE(課題論文/Extended Essay)」「課外活動(CAS /Creativity,Activity,Service)」というIBコース独自の“3つのコア領域”の学びに取り組み、自分という個を確立しながら他者を理解・尊重し、世界平和に貢献できる人物を育成します。
“3つのコア領域”の学びは、自主性や積極性だけでなく、目標実現に向けて他者と協働する力、コミュニケーション力を鍛えるプログラムとなっています。これらは暗記力で対応できるものではなく、高校生にとっては極めて高いハードルといえるでしょう。しかし1期生は、この高いハードルを乗り越えて、全員が『IBディプロマ』を取得しました。1期生たちは今春、オレゴン州立大学、コロラド州立大学、クイーンズランド大学など海外大学や国内の難関大学へ、それぞれの夢に向かって羽ばたいていきました。
コース開設からこれまでを振り返って、「TOK(知の理論)」の授業を担当してこられた山㟢哲嗣副校長は次のように話します。
「本校では、IBコースを開設する前から海外大学進学は特別なことではありませんでした。そのため、IBコース生を特別扱いすることもなく、全コースの生徒が渾然一体となって成長できる環境があります。それが本校の魅力であり、IBコースの強みにもつながっていると感じています。コース開設からの3年間は、にぎやかで、慌ただしくも充実した日々でした。また、前例のないなかで1期生の生徒たちと私たち教員がともに戦った盟友として、強い絆で結ばれた3年間でもあります」
山㟢先生が担当する「TOK」は、「民主主義は終わったのか」など、答えが一つではないことをテーマに議論して、自分の考えを構築していく授業で、意見が相反する生徒同士が対立することもあったそうです。
「世の中には、意見が合わないときにあきらめて無視したり、暴力に訴えるという人もいます。対立したときは『自分と違う意見に同意しなくていい。私は理解できないけれど、そんな考え方もある』という立ち位置があることを伝えました。この立ち位置をとるのは、日本人はどちらかというと苦手です。日本では、相手の意見を受け入れないのは人格までも否定しているように感じる文化があるからでしょう」
IBコースがスタートした当初、相反する意見を受け入れることができずに苦しむ生徒に、根気よく新しい立ち位置があることを伝え続けてきたといいます。
「IBコースでは、皆が常に戸惑い、悩み、ときには苦しみました。しかしそれこそが『自分とは何か。知識とは何か。考えるとはどういうことか』を学ぶチャンスとなったのです。そのため高3の卒業が近づく頃には、9名全員が馴れ合うことなく、嫌い合うこともなく、自分の立ち位置を自分でつかみ、絶妙の距離感でつながり、その姿は凜々しく立派でした。IBコースは、対立する世界のなかで、どのように平和を構築するのか。そして、いかにピースメーカーになれるのかを模索し、行動できる人物の育成を目標としています。世界中のIB生と本校の9名の1期生、そして、彼女たちに続く後輩たちが、たくましく行動することで社会は変わっていくと信じています」
IBコースでは、一人1台ノートパソコンを使用し、プレゼンテーションに使用する資料を自分で制作。見せ方・伝え方に各自の創意工夫が見られる。
ディスカッションやプレゼンテーションの機会が多いIBコースの授業。これらの経験を通じて、他者の考えが自分と異なりわかり合えなくても、相手を尊重して認め合いながら、自分の考えを構築していくスキルが身についていく。
「CAS(課外活動)」は、自分で体験学習を企画して実践。
「私は、入試説明会に来てくださった受験生の妹や弟たちに楽しく過ごしてもらいたいと考えて、『OJ kids!』(写真)と銘打った企画や、大阪女学院中学の生徒を対象としたテスト対策のサポート教室を実施しました。CASを通じて、人との関わり方や、皆が何を必要としているのかを考え、自分にできることは何かを意識して行動するようになりました」(IBコース卒業生)
IBコースの担任は、ネイティブ教員が務める。ホームルームや終礼などをすべて英語で行うことで英語力を高めている。
IBコースで学ぶ前は、「これはやらない方がいいかもしれない」などと簡単に結論を出してしまい、行動に移すことが少なかったように思います。しかし、IBコースでは何度も“正解のない問い”を投げかけられるため、新しいアイデアを考え、そのアイデアを誰かに伝える練習を重ねることで、何ごとにもチャレンジしてみようという気持ちを持てるようになりました。
正解のない問いに対して、自分の考えや感情だけでなく、いろいろな意見に耳を傾けて考えることができるのが強みです。この強みは、IBコースで学んだからこそ得ることができたと思います。時には教科書に書いてある内容すらも疑いながら、何が正しいのかをいろいろな立ち位置から考え、自分なりの意見や考えを導き出せることができるようになったのは、一生の財産だと思います。