写真右より、中村聡太教頭、渡辺徹先生(国語科)、吉岡晋作先生(数学科)、廣瀬昂平先生(英語科)
2021年、ついに実施された新大学入試制度『大学入学共通テスト』。導入前から概要が二転三転し、多くの教育現場が対応に追われましたが、「特にあわてることはありませんでした」と語るのは、中村聡太教頭。
前身のセンター試験のころから確かな大学進学実績を積んできた同校ですが、事実、共通テストに変わってからもその進学力は変わらないどころかさらに上昇。国公立大学の合格者数は100名、現役生に限っても60名と、目覚ましい結果を残しています。卒業生(現役受験生)が161名であったことを考えると、この規模の生徒数でこの成果は、際立っていると言えるでしょう。
一方で、高い進学実績を持ちながら、決して受験対策一辺倒の教育におちいることなく、不変の人間力を培う私塾の精神を色濃く残す理念・校風や、日々の学習に力を入れていることも特徴です。中村教頭は、こう続けます。
「本校が今まで行ってきた教育に自信がありましたから、共通テストになっても、基本的なことを継続してきちんと行っていれば問題ないと思っていました」
たとえば同校は、中間・期末といった定期テストを実施せず、毎朝の『20分テスト』を軸にした学習サイクルを作るなど、独自の取り組みでも知られています。英語科・廣瀬昂平先生も「特段に対策めいたことをしたわけではありません」と言いつつ、こう付け加えました。
「一貫していたのは、語彙・文法・意味等が理解できた英文を徹底的に音読することです。理解できた英文を音読することで、その英文の内在化を図ります。その後、英文中に出てきた表現を、種々のアウトプット活動を通して今度は自らで使用し、その定着を促します。この“理解→内在化→アウトプット”のプロセスを通して、英語表現を自分のものにする過程を体験してもらい、生徒の主体的な学びにつなげたいと考えてきました」
英語ではリスニングの比重や難易度が上がることも共通テストのトピックの一つでしたが、そこに主眼を置くのではなく、純粋に生徒の英語力伸長に注力する――それが、そのまま新大学入試制度に対応できる力をも形成していたということなのでしょう。
また、思考力を問うため、(結果的に見送られたものの)記述式の問題が出題されることも共通テストの目玉でした。しかしこれについても同校は泰然自若。国語科・渡辺徹先生は、事前にリリースされた試作問題を分析し、このように考えていたと言います。
「センター試験に対応できる国語力があれば、共通テストの問題も解けると感じました。そもそも選択式だろうと記述式だろうと、思考力は必要ですから。本校ではこれまでも、中1から国語表現の授業を入れ、徹底して思考力や表現力を鍛えてきました。また、読解の授業においても情報構造(たとえば「AだがBだ」「AではなくBだ」等の構文においてはBの方が重要な情報であるということ)を手がかりに読解していくことを中学時から徹底して伝え、論理的思考力を身につけさせてきました。中高6年間の読解や表現の授業を通して論理的思考力を身につけさせてきたからこそ、共通テスト・2次試験・私大入試だけでなく小論文・自己推薦書・面接にも生徒は十分な対応ができたのではないかと思います」
こうした授業の工夫は、他の教科においても同様です。数学科・吉岡晋作先生は“問いかける”授業を大切にしています。
「答えに至るまでの過程をしっかり問う授業を意識しています。解けなかった問題があれば、『なぜ解けなかったと思う?』と問いを投げかけるのです」
ともすれば、公式と解を覚えるのみの“作業”に陥りがちな数学ですが、こうしたコミュニケーションはメタ学習(自分の得意や苦手に対し、なぜそうなのかを客観理解して“学び方を学ぶ”学習のこと)の力を掘り起こします。実社会にも通じる抽象思考や、問題解決能力にも活きるでしょう。
共通テストにおける数学の特徴は、国語的な読解力が求められたことです。たとえば100m走で最もタイムが良くなる走り方を二次関数で解析するなど、実生活に紐づけた問題も目立ちました。
「自分が持っている数学知識の何を使えばこの問題が解けるのかに気付かなければいけません。これについては意図的なトレーニングが必要ですが、“問いかけ”はそうした思考力をも育てることにつながるはずです」
中村教頭は、次のような表現で先生方の指導力への強い信頼感を示します。
「本校の教育という強い土台の上に各教員の柔軟性が乗り、相乗効果を生み出しているのでしょう」
共通テストでは思考力・判断力といった数値化しにくい非認知能力が問われることが注目されましたが、勘違いしてはいけないのは知識量そのものが不要だという意味ではないことです。これについては先生方も同じ認識で「入試に限らず、あらゆる問題の解決の源は知識である」と口を揃えます。
だからこそ同校は、まず基礎学力の定着に力を入れます。『20分テスト』をはじめとする独自の取り組みも、あらゆる授業の工夫も、その考えあってのもの。すなわち中村教頭の言う「金蘭千里の教育の土台」が、まさに日々の着実な基礎学力の定着。そしてそれが、共通テストにおいても揺らぐことない進学力を生み出しているのは間違いありません。
近年、学力以外の人物評価も試験対象とする、推薦系の入試(学校推薦型選抜・総合型選抜)を採用する大学が急増中です。特に難関大学では、明確な志望理由やキャリアデザイン、高校での活動実績などが厳しく問われる手強い入試となっていますが、同校ではこれらの入試でも2021年は14名が国公立大学に合格。
一人ひとり異なる志望理由を内面から掘り起こすには、手厚い個別セッションや添削の繰り返しが欠かせません。さらに医・歯・薬学部志望者は専門の担当教員がつき、医療の課題をテーマに討論したり、するどい質問を投げかけて志望理由をさらに掘り下げたりするなど、ここでも同校の特色である少人数体制を活かして、一人ひとりを徹底的にサポートします。
また、創立50周年を記念して2014年から進めてきた大規模な学校改革により、クラブ活動が多様化し、各種行事などを生徒自ら執り行う委員会組織(生徒会含む)も充実しました。こうした経験が生徒たちの引き出しを増やして人間的成長も促し、それが入試でも評価されています。しかし、もちろんこれらも結果論。根底はあくまで「金蘭千里の教育」を実行することなのです。