私立中高進学通信
2022年特別号
未来を切り拓く グローバル教育
巣鴨中学校
イギリスの医師や研究者から学び
医療への理解を深め、高次の思考へ
講堂で全参加者に向けて講義をする、ジェームズ・トーマス先生。
先生は慶應義塾大学医学部で臨床医や専任講師を務めていました。
巣鴨中学校・高等学校は、イートン校サマースクール、巣鴨サマースクール(SSS)をはじめ、国際教育プログラムに定評があり、世界の名門中等教育学校が参加する国際組織『WLSA』(World Leading Schools Association)への加盟も果たしています。
7月24日(日)から28日(木)までの5日間、夏休み中の巣鴨で『DOUBLE HELIX:TRANSLATIONAL MEDICINE』が開催されました。過去2回は世界の超一流講師によるオリジナル授業をオンラインで受講するプログラムでしたが、今回は医療に特化し、医師や研究者など4名を招いて対面で行われました。対象は、医療従事者をめざす高1から高3までの希望者。志を共にする他校の生徒達も参加しています。
『DOUBLE HELIX:TRANSLATIONAL MEDICINE』の目的のひとつは、知識を獲得しながら医療への理解を深めること。そしてその理解を、問題解決能力や批判的思考力といった高次の思考へとTRANSLATE(変換)し、医療によって人々を幸福にするための土台を築いていきます。
巣鴨を含む7校から計42名が参加
「このグラフは集中力の推移を示しています。講義開始直後の皆さんは、きちんと話を聞こうとして集中力を高めていますが、講義が進むにつれて集中力が落ちていきます。しかし、最後のまとめに入ると、再びきちんと聞こうとして集中力が高まってきます」
同校の講堂で毎朝授業前に行われた「Motivation Curves(The Ups and Downs)」で、ジェームズ・トーマス先生は参加者全員に英語でこう話します。講義のタイトルは「モチベーション曲線(浮き沈み)」という意味です。先生の言葉に耳を傾けているのは、巣鴨をはじめ、市川、鷗友学園女子、駒場東邦、洗足学園、南山女子部、広尾学園の“文化”が異なる7校の生徒合わせて42名が参加しています。ユーモアあふれるジェームズ先生の話に、講堂は和やかな雰囲気に包まれました。
ジェームズ先生の専門は臨床神経科学。現在、オックスフォード大学博士課程に在籍し、慶應義塾大学医学部で専任講師と臨床医、研究員を務めた経験を持ち、イギリスと日本の両国で医師免許を取得しています。ジェームズ先生は自身の生い立ちや数々の失敗談を語りました。すると、参加した生徒たちは次々に手を挙げて先生に質問を投げかけたのです。講義が進むにつれて、生徒たちとジェームズ先生との間には一体感が生まれていきました。
この後、参加者は学校の枠を越えた男女混合のグループに分かれ、4名の先生が担当する各コースで、英語によるレッスンをローテーション形式で受けていきます。こうすることで、5日間で全グループが4名の先生全員から学ぶことができるのです。その際に全コースで重視されているのが『医療における共感と協働の重要性』。そのうえで各コースには独自のテーマが設定されています。ジェームズ先生のテーマは「医療倫理」です。
オックスフォード大学病院の産婦人科専門医であるヨウスケ・マツミヤ先生のテーマは「チームワーク」。先生はイギリスの名門パブリックスクールであるイートン校の出身です。
ヨウスケ先生の夫人であるマガリ先生のテーマは「免疫学」。セイント・クレア・カレッジで物理を教えるマガリ先生は、オックスフォード大学大学院で免疫学の博士号を、ケンブリッジ大学大学院で遺伝学の修士号を取得しています。セイント・メアリーズ病院で包括医療チームのリーダーを務めるソニア・ツカゴシ先生のテーマは「世界の健康と医療格差」。先生は東洋アフリカ研究学院で医療人類学の修士号を取得。世界各国で医療活動に従事してきました。
「チームワーク」をテーマにしたヨウスケ・マツミヤ先生。
「免疫学」をテーマにしたマガリ・マツミヤ先生。
「世界の健康と医療格差」をテーマにしたソニア・ツカゴシ先生「DOUBLE HELIX」とはDNAの「二重らせん」
国際教育部部長・英語科主任の岡田英雅先生「どの先生方も医療の第一線で活躍されている方たちです。その一人であるジェームズ先生は、その経歴を耳にしただけで『近寄りがたいほど偉い先生』と、生徒たちは畏敬の念を抱いたことでしょう。しかし、あのようにユーモアを交えて話され、生徒と心の距離を近づけていました。これは、生徒がこれからリラックスして学べるようにとの配慮であるとともに、医師や研究者が雲の上の存在ではなく、身近な存在であるべきだと知ってもらうためです」
そう語るのは、国際教育部部長・英語科主任の岡田英雅先生です。岡田先生は巣鴨中学校・高等学校での13年近い指導歴を経て、イギリスに留学。大学院で修士号を取得して帰国し、2017年に同校に国際教育部を立ち上げました。
「この『DOUBLE HELIX:TRANSLATIONAL MEDICINE』を実施する前に、『巣鴨サマースクール(SSS)』の発展形として『東京スプリングスクール(以下、TSS)』という新たなプログラムを企画していました。世界の名門大学を卒業した方を招き、高度な教育を生徒に受けてもらう予定で、他校の生徒にも参加してもらえることが大きな特色でした。しかし、このプログラムはコロナの影響によって2年連続で中止となってしまったのです。その代わりに誕生したのが、この『DOUBLE HELIX(以下、DH))』です」(岡田先生)
『DH』とはDNAの『二重らせん』のこと。岡田先生は教員生活を通して、知識(量と質)と高次の思考が二重らせんのように絡み合うことで、問題解決能力や批判的思考力が向上していくことに気づいたといいます。そこで岡田先生は、オンラインの特性を活かして、TSS以上に高次の思考が育成できる『DH』を考案。こうして第1回『DH』が2021年の3月に、第2回目『DH』が2022年1月に開催されました。同校や他校の生徒たちが、教育、芸術、医療などの第一線で活躍するイギリス人の方々から英語で各専門分野のレッスンを受け、知識と思考技術を獲得したのです。
心をひとつにして人々を助けるために
「日本の教育界には、往々にして『成績が良い生徒は東京大学理科三類(医学部)へ進む』という風潮があるようです。人を幸せにするという志を起点に医師をめざすべきなのに、社会的地位と高収入を得たいがために医師となる生徒が少なくないのです。この話を、今回のプログラムでもご来校いただいたヨウスケ先生に伝えたところ、大いに共感してくださったのです。
そこで2人で話し合った結果、初の対面版となる今回の『DH』をMEDICINE(医療)に的を絞って開催することになりました。ちなみにヨウスケ先生は東京大学で助教授を務め、慶應義塾大学でも教鞭をとっていた経験があり、本校で実施している『イートン校サマースクール』をきっかけに親交を結んでいます。
ヨウスケ先生は『医師は、患者だけでなく、レントゲン技師から看護師、受付の人まで病院で働く全員が幸せになることを考えない限り、良い医療はできない』という信念をおもちです。このプログラムで学んだ生徒たちは将来、国内外のさまざまな医療現場で活躍していくでしょう。その時に原点としてヨウスケ先生の信念を思い出し、全員が心をひとつに医療へと貢献できるような内容にしようと決めました。そして、夫人のマガリ先生をはじめ、ほかの先生方に声をかけてくださったのです。全員が私たちの理念に賛同してくださいました。
その一人であるソニア先生も、さまざまな国で医師としての活動をされています。そのなかで先生は、海外の厳しい現状を目にしてきたと言います。たとえば、ウガンダでは医師に診察してもらうために、患者が親戚中からお金を集めて、何日もかけて出向いていくそうです。また、国によっては他人が体に触れてはいけない風習もありますし、死生観も民族によって違います。患者のことが理解できなければ最適な治療は施せない。そう考えたソニア先生が大学院に入り直し、医療人類学を学んだのは、海外の習慣や文化を知るためでした」(岡田先生)
こうした4人の先生方が講義やレッスンを担当する『DOUBLE HELIX:TRANSLATIONAL MEDICINE』。なお、「TRANSLATIONAL MEDICINE」には「さまざまな学びや経験を実際の医療につなげる」という意味があります。
生徒一人ひとりの夢が広がる
『DOUBLE HELIX:TRANSLATIONAL MEDICINE』に参加した生徒に話を聞きました。巣鴨高校2年生のW.Y.さんは次のように語ります。
「脳を構成する神経細胞であるニューロンなど脳科学に関心を抱いたことをきっかけに、僕は医学の道をめざすようになりました。今回のプログラムには、最先端の医療と、活きた英語を融合した学びがあります。そこに挑戦する価値を見いだして参加しました。
各先生方のもとで行われたレッスンは難しい内容でしたが、同じグループのメンバーに支えられて理解することができました。他校には3カ国語を話せる生徒や、医師をめざすというより視野を広げるために参加したという生徒もいて、強い刺激を受けました。
印象に残っているのは、ジェームズ先生の講義です。先生は自身の失敗談を数多く語っておられました。『あんなに優秀な先生でも失敗するんだ』と驚くとともに、『失敗は成功の条件』という先生の言葉を聞いて勇気がわきました。
このプログラムで学んだこと、感じたことを糧にして、将来は脳科学の研究者か脳外科医になり、人々のために貢献したいと思っています」
名古屋にある南山高校女子部から参加した2年生のT.R.さんは次のような感想を述べてくれました。
「私の将来の夢は医師になることです。今回のプログラムが医療をテーマに実施されると聞き、夢の実現に近づけると思って参加しました。私が医師をめざすようになったきっかけは、がんを患っていた祖父が治療により元気になり、医療の素晴らしさを実感したからです。私も誰かの役に立てたらと思うようになりました。もうひとつ参加した理由があります。私の学校にも海外の名門大学の学生の方々と英語でディスカッションやプロジェクトを行うプログラムがあり、こうした取り組みの意義をよく知っていたからです。
グループレッスンでは、他校の生徒の意見を聞き、『こんな考え方があったんだ』と気づくなど新鮮な発見がありました。
ジェームズ先生の最初の講義も感動しました。特に心に響いたのは、先生の言葉です。先生は私の『モチベーションの維持は難しいことです。どうすれば、高い状態を保てますか?』という質問に『一人で抱え込まずに人に相談したり、何が原因でモチベーションが下がっているかを考えてみたりするといいですよ』と答えてくださったのです。
私はジェームズ先生やほかの先生方が教えてくださったことを胸に刻み、目標に向けて学んでいきたいと思います」
左から、巣鴨高校2年生のW.Y.さん、ジェームズ・トーマス先生、南山高校女子部2年生のT.R.さん
北校舎には物理、化学、生物、地学、情報、音楽、書道の特別教室を配置。伝統を守る一方で、快適な学習環境を整え時代の要請に応える教育を実践。巣鴨中学校
〒170-0012 東京都豊島区上池袋1-21-1
TEL:03-3918-5311
進学通信掲載情報
年度別アーカイブ
- 2025年度
- 2024年度
- 2023年度
- 2022年度
- 2021年度
