Profile
辻元 俊夫 校長
1968年、東京都出身。中学から高校まで剣道部に所属。信州大学機械工学科卒業後、教授の勧めで大阪市立大学大学院に進学し博士号(工学)を取得。三菱マテリアル(株)などで研究員を務めた後、教員の道へ。2008年、豊南高等学校に着任、2025年4月に第6代校長に就任。趣味はゴルフ。
1968年、東京都出身。中学から高校まで剣道部に所属。信州大学機械工学科卒業後、教授の勧めで大阪市立大学大学院に進学し博士号(工学)を取得。三菱マテリアル(株)などで研究員を務めた後、教員の道へ。2008年、豊南高等学校に着任、2025年4月に第6代校長に就任。趣味はゴルフ。
祖父が蒸気機関車の製造会社に勤めていたので家には機械の図面があり、それを目にして育った私は機械に関心がありました。また、私が中学生の頃、両腕に障がいをもった子どもが、義手を使いさまざまなことにチャレンジするドキュメンタリー映画を観てロボット工学を学び、義肢をつくって「障がいをもった子どもたちの役に立ちたい」という思いから、信州大学機械工学科に進学しました。
しかし、機械工学科は重機の研究がメインであり、ロボット工学は扱っていないことを入学後に知った私は、その代わりに物理学と出会えました。一般教養課程で物理学を教えていた教授からその楽しさを学び、この教授のもとで卒業研究をしたいと思うようになったのです。その恩師の勧めもあって大学卒業後は大阪市立大学大学院へ進み、物理の研究を続けました。博士号を取得したのですが、在籍していた研究室には非常に優秀な研究者の方がいて自分の力不足を痛感し、「自分は研究者に向いていない」と思うようになりました。
そこで研究者への道は断念し、非鉄金属メーカーの研究所に研究員として務めることにしました。数年後、秋田県にある半導体用のシリコン単結晶の製造に必要な“石英ルツボ”という器(※)を作る工場に出向し、高卒の社員と仕事をするようになりました。彼らは非常に優秀で、日本の産業を支えているのは、優秀な高卒社員だと思うようになりました。高校教育の重要性に気付いたので、「未来を担う子どもたちの役に立つ教員の仕事に就きたい」と思うようになったのです。私の兄が教員だったこともあり、教育という仕事に親しみや憧れがありました。
※高純度の石英から作られた特殊な容器で、非常に高い温度と過酷な化学環境に耐えるように設計されている。主に半導体製造、冶金、材料科学など、高温での純度と安定性の維持が重要な産業で使用される。
大学時代に高校の教員免許を取得していたので、秋田から実家のある東京に戻り、教員になる決心をしました。当時36歳の私は都内の私立高校で非常勤講師として数学を教えることにしました。
しかし、意気揚々と教育現場に飛び込んだものの、高校生と接するのが初めての私は生徒の立場になって教えることができず、次第に生徒の心が私から離れていったのです。私はそのことを猛省し、個別指導の塾で講師も務めて経験を積むことにしました。個別指導ですから授業はマンツーマン。どのような言葉で生徒に伝え、どのような姿勢で生徒に寄り添えば理解してもらえるのかをこの塾で学びました。修行ともいえるこの経験がなければ、今の私は存在しなかったでしょう。
いろいろありましたが、なんとか東京都の教員採用試験に合格できました。いよいよ教員としてスタートできると思っていた時に、知り合いの先生から豊南高校を勧められました。私は既に40歳になっていました。都立高校に務めると“転勤”があります。学校に慣れるだけで教員生活が終わってしまう気がして、私学である本校の教壇に立つことに決めました。
数学の授業では、数学の魅力を生徒に伝えられるように努めました。例えば絵画には、“どのような観点で鑑賞すれば素晴らしさがわかるのか”を解説しなければわからない作品があります。数学も同じです。そこで黒板に公式を書き、「こういうところが新しい発想で、面白いんだよ」と説明していました。
大阪に住んでいた祖母がよく口にしていた言葉があります。それは、「どうせやるなら、気をようしなはれ」でした。“気をようしなはれ”は、“気持ちよくやりなさい”という意味です。この精神を実践してきたことが、私の取り柄になった気がします。
私はロボットの研究・開発をするという希望を抱いて大学に入りましたが、その夢は叶いませんでした。しかし、物理の教授と物理という学問に出会うことができました。大学院、就職した企業、教鞭をとった高校……と紆余曲折はあったものの、気持ちよく研究や仕事を続けてきたつもりです。ですから生徒には、どのような環境におかれても、“めげることなく、気持ちよくベストを尽くすことの大切さを知ってほしい”と思っています。変化の激しい時代だからこそ、この精神を知ってほしいと願っています。
本校は1年間を3学期ではなく、4学期に分ける“4ターム制”を導入し、基礎学力の定着を徹底しています。これによって3学期制の高校の4年分に当たる授業時間数を確保でき、地道に学力をつけていくのです。校長としての私のビジョンは、こうした数多くの授業の質をこれまで以上に高め、揺るぎない基礎学力を身につけさせて大学へ送り出すことです。当たり前のことですが、非常に重要なことだと感じています。私自身も高校時代に学んだことは今も忘れていませんし、生きるうえでの糧となっています。
部活動で考えるとわかりやすいでしょうか。部員たちは毎日、何時間も練習に励んでいますが、試合や発表は練習時間に比べれば一瞬で終わってしまいます。しかし、この練習があるからこそ結果が出せるのです。タブレット端末に頼るのではなく、“紙と鉛筆”を使うことも大切だと思います。特に高校で習う数学は紙と鉛筆がベースです。問題集を解くのに使用した式や授業で学んだこと、気付いたことを鉛筆で書き込んだノートが何冊も増えていくのを見れば達成感も得られますし、学習意欲も高まるでしょう。一説によれば、“不便で時間のかかる作業のほうが、脳にとって有益なストレスだ”と言います。このことを入学式で新入生に伝えました。
技術の急速な発展によって、人の作業は大幅に減りました。AIの進歩は目覚ましく、人間が本来しなければならなかった面倒な作業が効率化されていきます。生徒に伝えたいことは、“効率化によって生み出された時間を有効活用して努力にあててほしい”ということです。いくら世の中が便利になったからといって、知識を習得するための努力の量は今も昔も変わりません。そしてAIをはじめとするデジタルを“万能”とは思わず、紙や鉛筆も使って脳に有益なストレスを与えつつ、地道な勉強を続けてほしいと思います。そして基礎学力を積み上げ、将来、社会に大きく貢献してほしいと願っています。
この学校の掲載記事をピックアップしました。