日本体育大学荏原高等学校が取り組む探究活動のゴールは、「生涯にわたって学び続ける力」の獲得です。全てのコースで3年間にわたって履修する「総合探究」の授業を軸に、アドバンスト・スポーツコースでは「専門探究基礎」(高2)→「専門探究」(高3)と自ら選んだ学問領域に合わせて探究し、生涯にわたって学び続ける人としての成長を促す独自のプログラムです。
日本体育大学荏原高等学校が取り組む探究活動のゴールは、「生涯にわたって学び続ける力」の獲得です。全てのコースで3年間にわたって履修する「総合探究」の授業を軸に、アドバンスト・スポーツコースでは「専門探究基礎」(高2)→「専門探究」(高3)と自ら選んだ学問領域に合わせて探究し、生涯にわたって学び続ける人としての成長を促す独自のプログラムです。
2022年度より全国の高校で正課として導入された『探究』の授業。正式名称は『総合的な探究の時間』と言います。情報化やグローバル化など、これまでにない“先行き不透明”な時代を力強く生き抜くために、自ら課題を立て、それに必要な情報を集め、整理・分析をし、自らの力でその結果をまとめあげ、自分の言葉で表現できるようになることを教科(探究)の目的としています。
このような探究の概念を背景にして、日体大荏原では2022年に総合探究検討委員会(探究科)を立ち上げ、独自性の強い探究活動をスタートさせました。これが『求めて学び、耐えて鍛え、学びて之を活かす』を教育理念に掲げる、同校ならではのこだわりの探究活動の始まりです。そのポイントについて、探究科委員の一人でもある進路指導部長の藤島淳先生は次のように話します。
「本校の探究活動では、『アカデミックコース』『アドバンストコース』『スポーツコース』それぞれの特徴を最大限に活用しながら、生徒がその時学びたいことをもとにテーマを絞り、探究の手法からていねいに教える「総合探究」と、複数教科の教員が担当する教科横断的な「専門探究」授業のなかで、学ぶ楽しさを育んでいきます」
これまでにない取り組みということもあり、導入当初は半ば手探り状態で始まった探究活動でしたが、“探究1期生”でもある生徒たちの成長は著しいものがあるようです。クラス担任としても日々、生徒一人ひとりの成長を見つめている英語科教諭の赤沼理先生は次のように解説します。
「2022年度のスタート以来、知識・理解力の養成(高1)、論理的思考力の養成(高2)と探究の精度を徐々に上げていきながら、よりレベルの高い探究活動をめざし取り組んできました。具体的に高1では『探究の手法を学ぶ』ことをテーマに掲げ、課題の設定→情報を収集→整理・分析→まとめ・表現という探究のサイクルを、身近なテーマを通して何度も回すことによって、探究活動の土台となる力を身につけます。
続く高2では、『事例を探究する』ことをテーマに、実際に地域や社会で起きていることを分析し、生徒同士で話し合いながら解決策をまとめ、プレゼンテーションで発表するということを行ってきました。事例探究以外にも昨年は日本の大学で学ぶ留学生たちと『街歩きプログラム』を体験してもらいました。留学生に知ってもらいたいこと、体験してもらうコースを自分たちで考え形にしていく作業は、たくさんの失敗もありましたが良い経験になったと思います」
赤沼先生らによる高1への指導ポイントの一つが、“問いを一般化すること”でした。
「例えば、『荏原高校をよりよくするには』というテーマで探究すると、多くの生徒は『ゴミ箱をもっと設置すればゴミが減って、もっといい学校になるのではないか』というような問いを立ててきます。しかし、このままだと本校は他校と比べて本当に汚いのか、汚いのであればどういう類のゴミが多いのか、という客観的な視点に欠けており、単なる個人の感想になってしまいます。学校→地域→社会とテーマが広がるにつれて、目の前にある課題を客観的にとらえ、一般化することが大切だと教えています」(赤沼先生)
探究手法(高1)、地域事例研究(高2)と学んできた『総合探究』は、高3でさらに、自分で考えたテーマをもとに卒業研究に取り組みます。高2の時点からテーマ設定に取り組み、それをもとに同じような分野に取り組む生徒20名程度でグループを作りゼミ形式で行います。
「卒業研究というと、何か固い論文を書かなければいけないと感じるかもしれませんが、生徒には自由に発想し本当に自分が関心のあることをテーマにしてほしいと思っています。今年度の3年生の探究テーマの中には、『恋愛トラブルをかいけつするにはどうしたらいいか』、『イップスを防ぐために高校部活動に求められる指導方法とは』、『メダルゲームをより身近なものにして、ゲームセンターが地域の憩いの場にならないか』など、ユニークでこちらの想像力を越えるものが多くあります」(赤沼先生)
アドバンスト・スポーツコースは高2から『専門探究基礎』、そして高3では『専門探究』という本校独自の科目を履修します。
多くの生徒が運動部に所属し、日体大への進学者も一番多いスポーツコースでは、スポーツマンらしくトレーニングについて探究する科目だけでなく、スポーツとは何のためにあるのかを座学で学んでいく授業や、実際に教員役で授業を行う「保健体育科指導法」という授業を設置し2年間学びます。指導法の授業は、日体大からくる本校OB・OGの実習生がわざわざ見学に行き、「私が在学中にやってほしかった……」というような授業になっています。
一方でアドバンストコースの専門探究は、2年進学時に ①人文社会科学 ②スポーツ・幼児教育 ③理数の3分野の中から選択することができます。第3希望、第4希望まで聞いてどの授業を受けるかは人数次第という選択授業ではなく、全ての生徒が第1希望の分野で受けることができます。高2でその分野の知識や視点を学び、それをもとに高3でさらに分野を絞り込みます。
例えば、2年で人文社会学を選んだ生徒は、『人文社会科学探究』という授業で、文学的に見る、歴史的に見る、社会学的に見るとはそれぞれどういうことなのかを探究活動を通じて学び、そこでの経験をもとに、3年次に『国際』『文学・歴史』『社会・経済』の3分野のうちから1つを選んでもらっています。アドバンストコースの3年次には各専攻でプロジェクトと名のついた授業があり、自治体やプロスポーツチームと連携して授業を行っていく予定です。
2022年度から始まった探究活動は、2024年春からいよいよ最終ステージへ。探究1期生たちがどのような成果を出すか、そしてどのように成長してくれるか、先生方は期待を寄せています。
「各コースの生徒たちがどんな卒業論文を書き、どんな卒業プレゼンをするのか、そこは今から楽しみにしています。高3生の探究活動の成果を、1、2年生向けにプレゼンする機会も設けたいとも思っています。そういう“タテのつながり”を大切にすることもまた、伝統校としての本校らしさであると考えています」(藤島先生)
「本校の探究活動はまだ始まったばかりですが、5年、10年と地道に成果を積み重ねていきながら、振り返った時に、『探究活動は日体大荏原の新たな伝統になったね』と、そんなふうに高く評価される探究をめざしています」(赤沼先生)
これから入学する生徒たちにも、日体大荏原だからできるワンランク上の『探究』を味わってほしいと、藤島先生と赤沼先生は声をそろえます。
『探究』は誰もが未経験な領域だけに、最初はちょっと難しいイメージをもつかもしれませんが、そこは心配いりません。
「高1では高校生活にも身近な『SNSに関する探究』(1学期)から始め、2・3学期はこれもまた身近な『地域探究』へと少しずつ探究の領域を広げていくので、誰にとっても不安なく学びを進めていくことができます。私が担当した高1の授業では、問いを立てる練習用のテーマとして、『日体大荏原高校をより良くするために』を提案したことがあります。自分たちが学ぶ学校の改善策なら、誰もが気軽に取り組むことができるのではないかと考えました。高1の1学期は“校則の基準をどう変えたら良くなるか”というところから問いを立てる練習を始め、2学期に入ったらデータ収集や分析のやり方を練習し、学年の終わりにクラスでプレゼン発表するというイメージです」(赤沼先生)
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