2023年7月に実施された第1回『オホーツク海洋研修』。東京農業大学オホーツクキャンパスで講義をする教授のもと、北海道網走市にある能取湖でフィールドワークを行う4泊5日の研修です。同研修を企画した信木公介先生(理科)、参加した長島
長島さんと田端さんが学んでいるのは、最難関大学をめざす『Iコース(進学重視)』内の『理数探究課程』。同課程には『オホーツク海洋研修』をはじめ、『次世代型学力』の向上に特化した多彩なプログラムが用意されています。
2023年7月に実施された第1回『オホーツク海洋研修』。東京農業大学オホーツクキャンパスで講義をする教授のもと、北海道網走市にある能取湖でフィールドワークを行う4泊5日の研修です。同研修を企画した信木公介先生(理科)、参加した長島
長島さんと田端さんが学んでいるのは、最難関大学をめざす『Iコース(進学重視)』内の『理数探究課程』。同課程には『オホーツク海洋研修』をはじめ、『次世代型学力』の向上に特化した多彩なプログラムが用意されています。
『理数探究課程』は、2020年度の『グローバル課程』新設に続き、2021年度よりIコース内に新設されました。同課程では併設の東京農業大学をはじめとする大学との研究活動や学会発表などを通じて、論理的思考力の獲得をめざします。昨年度は生徒が『日本生態学会大会』などの学会に出場しました。また、『日本土壌肥料学会』や『ジュニア農芸化学会』などの研究発表会で各賞を受賞しています。
こうした探究活動の一環として企画した宿泊行事が、オーストラリアで実施される『クイーンズランド“海の”生態系スタディーツアー』と『オホーツク海洋研修』です。どちらもコロナ禍によって延期せざるを得なくなりましたが、今年に入ってようやく実現できました。海外で英語による実習を行う『クイーンズランド“海の”生態系スタディーツアー』と比較して、『オホーツク海洋研修』は費用が安く、日本語で行われます。そのため気軽に参加でき、しかも北海道の雄大な自然のもとでフィールドワークや研究発表をできるところが大きな特色となっています。
今年初開催となるこの研修に『理数探究課程』で学ぶ希望者を中心に高1生14人と高2生5人が参加しました。主な目的は、調査から得られたデータに対して仮説を立て、結果と照らし合わせて考察し、その成果を大学の先生や大学生に向けて発表することです。
4泊5日のうち、1日目と2日目は東京農業大学のオホーツク臨海研究センターを拠点に、能取湖に生息するプランクトンの生態について調査します。網走市の北に位置するこの湖は、オホーツク海とつながる汽水湖となっています。生徒は生物産業学部海洋水産学科の西野康人教授が操縦する船に乗り、4班に分かれて海水を採水し、プランクトンを採集しました。その後、同大の学生からサポートを受けながら、顕微鏡でプランクトンの種類や量などを調べました。
3日目は同じく4班ごとに、午前中はアマモ場や干潟の調査を行い、午後はサンプルの処理や顕微鏡での検査を行いました。その後は、翌日のプレゼンテーションの準備です。なお、アマモとは海草の一種で、アマモ場は魚など多様な生き物の生息場所になっています。
4日目に行われたのは、生徒によるプレゼンテーションや、生物産業学部の説明会、オホーツクキャンパスの見学会です。最終日はオホーツク流氷館と網走監獄を見学し、網走の自然と歴史を学びました。
当初の予定では、生徒が大学1・2年生レベルの探究活動に携わることができればと考えていたのですが、大学側がそれ以上に専門的な機材や発表の場を用意してくださり、想定よりも高度な内容を体験することができました。大学で行われている研究の入り口に触れることで、参加した生徒たちの学習意欲はますます高まっています。
『理数探究課程』を私が志望したのは、中学生の頃から理科や実験、生物が好きだったからです。そして今年、北海道でフィールドワークや研究ができると聞いて、この『オホーツク海洋研修』に参加しました。私を含め5人のD班が研究のテーマにしたのは、「岸壁と沖合のプランクトンの種類や量の違い」です。まず私たちは、「能取湖の岸壁よりも沖合のほうがプランクトンの種類が多い」という仮説を立てました。沖合は生物が多く、生態系が豊富だと考えたからです。
私たちは船に乗って、岸壁のプランクトンを昼と夜、沖合のプランクトンを日中に1回、また表層と低層に分けて採集しました。植物プランクトンはクロロフィルaという光合成色素をもっており、この量を測定すれば植物プランクトンの量がわかります。そして種類を知るために、顕微鏡で観察もしました。その結果、夜間に水深10mの地点で採集したプランクトンの量は、岸壁よりも沖合のほうが多いことがわかりました。
また、昼間には岸壁の表層に多く生息していたプランクトンの量が夜間になると半分に減り、低層で増えていることもわかりました。これに関する私たちの考察は、昼間は植物プランクトンが日光にあたって光合成をするために表層へ行き、夜間は底に沈んだ生物の死骸から発生する二酸化炭素を取りに低層へ行くのではないかということです。
さらに顕微鏡を使って、昼間に岸壁と沖合で採集したプランクトンの種類と数の割合も調べました。プランクトンには、植物性と動物性があります。観察した結果、植物プランクトンの場合はキートセロスという珪藻の量が岸壁に多く、動物プランクトンの場合はミジンコの量が沖合に多いというデータが得られました。
私たちはキートセロスが岸壁に多かったのは、岸壁と比較して沖合にはたくさんの貝類が生息しているからではないかと考察しました。キートセロスは貝類のえさになるため、沖合のほうがキートセロスの量が減るのではと考えたのです。
4日目にオホーツクキャンパスで行われた発表会では、プレゼンテーションをした後、大学の先生方や大学生の方々からたくさんの質問やアドバイスをいただきました。また、測定など実験室の作業でも優しく指導してくださいました。こうして『オホーツク海洋研修』では、普段の学校生活ではできない貴重な体験を積み重ねることができたのです。
『理数探究課程』では、一人ひとりが大学と連携した研究に励みます。私が今取り組んでいるのは、植物性乳酸菌の研究です。オホーツクでの体験を糧にして、この研究や発表に力を注いでいきたいと思っています。
私も理科や生き物が大好きで、この学校の見学会に参加して『理数探究課程』を知り、本格的な研究に携わりたいと思い受験しました。『オホーツク海洋研修』に参加したのは、めったに訪れることのないオホーツクという場所に行き、海洋に関する研究ができると聞いたからです。
私たちB班の4人は「沿岸と沖における植物プランクトンの違い」を研究テーマにしました。オホーツク海は漁業資源が豊富で、宗谷海流の暖かい水によって多くのプランクトンが生息しています。そして、能取湖は河川の流入が少なく、オホーツク海の海水が湖水のほとんどを占めています。私たちの研究や調査の目的は、その沿岸に比べて沖のほうに魚が多く生息している理由と、植物プランクトンの組成の違いを知ることです。
そこで私たちは長島さんの班と同じく船に乗り込み、2種類の採水器を使って能取湖の沿岸と沖の表層・低層から海水を採取しました。その後、採取した水をろ過し、蛍光光度計を使って植物プランクトンのクロロフィルa濃度を調べました。
植物プランクトンには珪藻類や渦鞭毛藻類といった種類があり、珪藻類は中心目と羽状目に分かれています。その分布の違いを沿岸と沖合で比較してみました。その結果、沿岸より沖のほうが植物プランクトンが多いというデータが得られたのです。私たちは、沖のほうが植物プランクトンを食べる魚が多いために食物連鎖が活発に進み、植物プランクトンも多いのではないかと考察しました。さらに私はこの調査から、場所によって植物プランクトンの種類が少しずつ違うことがわかったので、同じように動物プランクトンにも違いがあるのではないかと考えました。
3日目に向かったのは、アマモ場の調査です。水に入っても濡れないようにウェーダーという胸まである防水ウェアを着用してアマモを採集します。沖まで行くと意外に深くて歩くのが大変でした。干潟にはスナモグリというエビに似た生き物やハゼがいました。ハゼのかわいさに感動したことを覚えています。
4日目は班ごとにプレゼンテーションを行い、最終日の5日目にはオホーツク流氷館と網走監獄を訪れました。
この『オホーツク海洋研修』に参加したことで、これまで知らなかったことを学ぶ経験ができ、調査や実験にますます興味をもつようになりました。私の夢は動物に関わる仕事に就くことで、その実現にも大きく役立つ有意義な5日間になったと思います。これから大学と連携した研究活動が始まります。どの研究にするかはまだ決めていませんが、『オホーツク海洋研修』での体験を活かしていこうと今から楽しみです。
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