「高校生が起業する」と聞いて、皆さんはどう思いますか? 日本の教育のなかで、これまでほとんど重視されてこなかった起業というテーマについて、真剣に考えているのが佼成学園高等学校のグローバルコースです。同コースにおいて主要な教育の柱の一つである、アントレプレナーシップ教育にフォーカスしました。
「高校生が起業する」と聞いて、皆さんはどう思いますか? 日本の教育のなかで、これまでほとんど重視されてこなかった起業というテーマについて、真剣に考えているのが佼成学園高等学校のグローバルコースです。同コースにおいて主要な教育の柱の一つである、アントレプレナーシップ教育にフォーカスしました。
2021年度に誕生した佼成学園高等学校の『グローバルコース』。起業家精神(=アントレプレナーシップ)を学ぶアントレプレナーシップ教育は、同コースの“肝”となる重要なプログラムです。
「本校のアントレプレナーシップ教育は、予測困難な時代を力強く、なおかつ主体的に生きていくためのリーダーシップ育成プログラム『Project:LEAP』(以下、LEAP)をベースに実施しています。いよいよ2024年3月には、LEAPを受講した第1期生が卒業を迎えます。グローバルコースで学んだ生徒一人ひとりの夢、大きな未来が今、始まろうとしています」
そう話すのは、グローバルコースプログラムディレクターで英語科の北野尚之先生です。北野先生は同コースの立ち上げから参画した一人として、日々たくましく成長する生徒とともに先々を見つめています。
アントレプレナーシップ教育の主要な柱の一つが、高1の『アントレ講座(基礎編)』と、高2の『アントレ講座(実践編)』です。どちらも2週間に1度、2コマ連続で実施しています。
「基礎編・実践編ともに、社会課題の解決に向けて、商品やサービスの開発、マーケティング分析、プレゼンテーションなどを軸に展開していきます。ただし、社会課題といっても初めから壮大なスケールのものを考える必要はありません。大事なことは、日常生活のなかで感じることがある目の前の課題、身近にある“困りごと”に絞り込むことです。
最近では、仕事中にどうして昼寝をしてはいけないかと考えたある生徒が、昼寝用の枕を開発しました。またある生徒は、街中でなくしてしまった落し物をすぐに見つけるためのアプリを開発しました。猟師さんと一緒に千葉の山に入り、ジビエ(狩猟などで得た野生鳥獣の食肉)の流通を真剣に考えた生徒もいました。ビジネスとして成功するか否か、その答えはすぐには見つかりませんが、まずは自分自身の気になる出来事から始めてもらっています」
高1の基礎編では、例えば商品やサービスを提供する際、主にどのような顧客に向けたものであるのかというような、起業にあたり押さえておきたいポイントを一つひとつていねいに学んでいきます。高2の実践編では、基礎編で用意したプロトタイプ(試作品)を完成品へと昇華させながら、それを“売る”ための方法を学んでいきます。
「こうしてより具体的になった製品(アプリやプロトタイプなど)は、高2の中間発表や文化祭の場を通して、これまでの探究の成果として発信し、さらにはグループに分かれて各種一般大会へのエントリーへと告知の場を広げていきます」
一般大会へのエントリーは原則として任意ですが、グループ間で競い合うように挑戦する光景は、まさに男子校ならではの活気にあふれたもののようです。
「自分から行動を起こすことによって、世の中を変えていきたいと、そんなふうに考える生徒がグローバルコースには多く在籍しています。とことんアクティブな生徒たちがお互いに醸し出すポジティブな雰囲気が、起業家精神の育成を図るアントレプレナーシッププログラムとマッチしているのです。
そうしたなかで、昨年は一般大会へのエントリーを機に、高2の後半に起業したチームが注目のボードゲームを開発しました。商品名は『金融すごろく』です。日本の小・中学校の教育課程のなかで、なぜ金融教育が施されていないのかと疑問をもった一人の生徒が発案者でした」
幼い頃から「金融」に興味をもっていたその生徒は小学校時代、さすがに浮いていた存在だったと言います。そんな彼が高校からグローバルコースに入ると、金融教育を施された経験のある帰国生たちに刺激され、改めて金融教育の必要性を実感したというわけです。
「欧米諸国やシンガポールからの帰国生たちとの学校生活を通して、金融に関する知識のギャップに愕然とした彼は、一念発起して小学生向けのボードゲーム『金融すごろく』を製品化することを思いつき、その販売を通して社会貢献につなげたいと考えたのです。会社(社名はエンターファイナンス)を立ち上げたのは高2の11月のことで、2023年春には、東京ビッグサイトで開催された『ゲームマーケット2023春』に出展し、実質的に『金融すごろく』の販売がスタートしました」
彼らの活躍ぶりに、高校生のアントレプレナーシップ教育の拡大に力を注ぐ文部科学省も着目し、産業界・自治体などとも連携した催し『EDGE-PRIME Initiative』のキックオフイベントに“高校生起業家”として招待されました。エンターファイナンスのメンバーは、堂々と『金融すごろく』のプレゼンテーションで会場をわかせたそうです。
「実際に参加されていた某県の教育委員会の方々の目にも留まり、彼らは某県まで営業に出向き、結果、採択をしてもらうような形で今、話が進んでいるようです。また、エンターファイナンスの活動は、日本政策金融公庫などが主催する『高校生ビジネスプラングランプリ』でもベスト100に選出されるなど、その活躍ぶりにさらなる注目が集まっています。いずれにしても本校のアントレプレナーシッププログラムは、単なるアイデア出しで終わることなく、実践まで踏み込むところに大きな特徴があります」
一連のアントレプレナーシップ教育の集大成となるのが、高2春の『春季ボストン研修』です。年度によってはコロナ禍で見送られたこともありましたが、現在では1年次の『夏季ベトナム研修』と合わせて、グローバルコース独自の海外プログラムとなっています。
「ボストン研修では現地の投資家に向けて、自分たちが考案したビジネスの内容を英語でプレゼンテーションします。もちろん質疑応答もオールイングリッシュで行われますが、生徒たちに投げかけられる質問はある意味、想定内のものばかりですので、彼らは実に頼もしく対応しています。
ビジネスとして成功するためには、文化的なギャップも越えなくてはなりませんが、そういった対応が堂々とできるのも、やはり国内の各種コンテストでたたかれた経験があるからです。彼らの起業にかける情熱は、すでに海外の凄腕のビジネスマンと比べても、遜色ないものになっていると高く評価しています」
そんなグローバルコースで学ぶ生徒たちの英語力を鍛えているのが、英語の熟練度を測る英語検定の一つ『IELTS』(アイエルツ)です。グローバルコースでは高2の12月に全員がIELTSを受験し、高3の7月にも全員が受験する機会を設けています。
「数ある英語資格試験のなかでも、グローバル基準に則った英語力として評価されているのがIELTSです。とりわけ海外大学受験や国内大学の総合型選抜で強みを発揮するので、グローバルコースに在籍する1期生36名のうち、すでに15名が海外大学への進学を志望しています。
進学結果が出るのはもうしばらく先になりますが、起業家精神(=アントレプレナーシップ)を学んだグローバル・アントレプレナーとして、また、平和を希求してやまないピースメーカーとして、世界で通用する英語力を駆使しながら、国内外で活躍するたくましい一人ひとりに成長していってほしいと願っています」
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