『自ら考え判断し行動することのできる若者を育てる』を教育理念に掲げる獨協埼玉高等学校。学習面で高い進学実績を誇る一方、約9割の生徒がクラブ活動を行うなど、同校の放課後は活気に満ちています。今回は陸上競技部と野球部の活動にフォーカスします。
『自ら考え判断し行動することのできる若者を育てる』を教育理念に掲げる獨協埼玉高等学校。学習面で高い進学実績を誇る一方、約9割の生徒がクラブ活動を行うなど、同校の放課後は活気に満ちています。今回は陸上競技部と野球部の活動にフォーカスします。
「取り組む姿勢さえしっかりしていれば、競技部分は後から伸びてきます」(須藤先生/保健体育科)
個人競技と思われがちな陸上ですが、練習をともにする仲間たちとの絆は団体競技以上です。
陸上競技部は同校でも数少ない、中1から高3までが一緒に活動している部の一つ。
常に“声出し”を意識して練習に取り組みます。
限られた時間内で、集中してトレーニングに励みます。
練習メニューはあくまでも“根幹”。そこから肉付けし、努力を足すのは部員たちです。
敷地内に専用競技場を有する同部の目標は「関東大会出場」と「心を鍛え、人としての成長を大切にすること」です。この2つの目標に向けた練習は、まず体幹作りのための「補強トレーニング」に始まり、股関節の可動域や柔軟性、バランス感覚を養う「ハードルドリル」、そして筋力アップや心肺機能の向上などに効果的な「ヒルトレーニング」を行います。
「短距離、長距離、投てき、跳躍など多種にわたるそれぞれの競技は、例えるなら野球とサッカーくらいの違いがあります」(須藤剛先生/保健体育科)
そんな競技性を踏まえたうえで基礎・土台を作り上げるのが、前述した3つのトレーニングなのです。加えて種目ごとに月単位でメニューを作成、部員一人ひとりの目標と“今やるべきこと”を可視化することで、意識と意欲を高めます。
とはいえ、これらのメニューは最低限のもの。大切なのは、そこからのプラスアルファであり、部員一人ひとりの“気持ちの部分”だと須藤先生は強調します。
「今よりも“うまくなりたい”。そのためには例えば家に帰ってジョギングや腕立て伏せといった地道な努力を、一生懸命にコツコツと積み重ねる力をつけてもらいたいと思っています」
同時に、「人のためにも力を使ってもらいたい」と願いを口にします。
「中1から高3までの6学年が合同で活動していますので、高1から入ってきた部員も“後輩”の面倒を見ることになります。そのなかで後輩が困っていれば年上として接していく。人のために力を使うというのは、そういうことも含まれるのです」
また、「人として成長するため」に徹底されていることの一つに『挨拶・返事・履物』(気持ちの良い挨拶、さわやかな返事、履物を揃えること)があります。「読書」と称された部員一人ひとりが目を通すファイルには、“この3つをしっかりできることがとても大事。人生で役立つことは陸上の成績ではなく、テストの成績でもない。挨拶・返事・履物の意識を「凡事徹底」していこう”とあります。
そしてもう一つの徹底事項が「真剣にやること」です。クラブ活動は18時までと潤沢な練習時間とは言えないなか、今年も関東大会出場を果たすなど結果を残している同部の、練習に向けた当たり前の姿勢が“真剣さ”なのです。
「限られた時間内に全力でやるか、やらないか。1伸びる部員と10伸びる部員の違いは、そこに集約されます。そして、その取り組み姿勢と結果はほぼ一致します。クラブ活動の成績が伸びる部員は、勉強も伸びます。やる時はやるという一生懸命な力。それは何にでも通用するものなのです」
練習開始にあたって道具の準備などを最上級生が行うのも部の流儀です。
「1年生には絶対にやらせません。先輩たちがまず自分たちで動く。そうした姿を見た後輩たちがそれを引き継いでいく。その流れはできています」
各自が意識を高くもち、自分を磨き、周囲に対する心配りを大切にする。そのうえで人としての成長を促すためのクラブ活動は、このように実践されているのです。
クラブ活動では競技に関することだけではなく、例えば何のために声を出すのかといった部分の考え方なども学ぶことができています。声出しは、みんなで頑張るため、チームのため。それを学べたことは私自身の成長にもつながりました。部の自慢は先輩・後輩に関係なく、フラットな関係性で仲良くなれていることです。中学生と一緒に活動しているので彼らに教える機会もあるのですが、その際の中学生の反応で、自分自身の理解度を知ることができるのもメリットだと感じています。
陸上の魅力は、自分の記録という絶対の基準で目的が明確になり、数字で成長がわかりやすい部分です。記録が伸びた時はやっぱり楽しいですし、続けてきて良かったと思えるのもそんな時です。文武両道は大変ですが、試験後に大会のあるケースが少なくないので、試験期間中は体力が落ちないように少しでも時間を作って練習するようにしています。部の自慢は、練習への取り組みなどに関して後輩が先輩を見習う流れができていること。先輩を見て育ってくれていると実感できるところが良い部分だと思っています。
「勉強、野球、プライベート、その全てを充実させてほしい」(木暮先生/保健体育科)
練習は週6日(月曜休)。校内の専用グラウンドが活動の場です。
夏の快進撃により学内での注目度がアップ。そのことで部員たちに新たな自覚が芽生えてきました。
正面のボールは“絶対堅守”。中継プレーも大切にしています。
恵まれた環境にあるため、打撃練習と守備練習を同時に行えるメリットが。
部員たちの励ましの声、鼓舞する声、叱咤する声がグラウンドに響きわたります。
2023年夏、埼玉県大会で創部以来初のベスト16に進出した野球部。高校野球界において埼玉県は激戦区の一つであり、この夏も145校が参加したなか、同部の活躍は強いインパクトを残しました。
「野球に力を入れているほかの私学や、実績のある公立校などがたくさんベスト16に名を連ねている。そのうちの1校になれたというのは現役の選手たちもそうですし、OBや学校関係者、在校生にとって励みになる結果だったのではないかと思います」と顧問の木暮大樹先生(保健体育科)は話します。
とはいえ、今年のチームが突然勝ち進んだわけではなく、ここ数年は春・秋ともに県大会に出場するなど、着実に成長を遂げてきた実績と新たな試みが背景にあります。
「今年で3年目になるのですが、練習内容はキャプテンを中心に部員たちが組み立てています」と木暮先生。与えられた時間を有為なものとするために工夫を凝らした練習メニューを部員自らが考え、実践しているのです。
「やらされる練習ではなく、自分たちでやる練習と言うのでしょうか。自分たちに必要だと考えるものをやっていくスタイルが、部員たちには合っていると思います」
同校の教育理念は『自ら考え判断し行動することのできる若者を育てる』こと。もともと木暮先生が培った、あるいは過去に同部が積み重ねてきたベースの上に選手たちが“自分たちの代はどういうところで勝負ができるのか”を考えて行動に移し、それが結果に結びつく好循環が生まれています。
そんなクラブ活動のなかで部員たちに身につけさせたいもの。それは「“自分からやってみよう”とか “もう少し頑張ろう”といった自分から前に踏み出す力」だと木暮先生は言います。それはなぜなのでしょうか。
「社会でも必ず役立つからです。指示待ち人間だけは絶対につくりません。必要だと思ったら自分から動き出せる人物こそ社会で必要とされていることを部員たちに伝えています」
そのために徹底させていることの一つが、ミスを受け入れること。
「野球はミスをするのが当たり前の競技です。特に打撃では半分以上が失敗をするわけで、その失敗を引きずっていては強くなれません。ミスを受け入れ、その後にどうするかが大事なのです」
今夏のベスト16進出という結果は、その成果とも言えます。
「今年の3年生は、強い相手に対しても“自分たちが勝つんだ”という前向きな気持ちで試合に臨んでいました。5回戦の川越東戦では1-2で負けましたが、相手は130名くらい部員のいる学校でスタンドの応援もいっぱい。一方本校は、選手(部員)としてはスタンドに10人くらいしかいないなか、部員たちは物怖じもせず立ち向かいました。今後、関わっていく生徒たちにずっと語り継げる、私のなかでのベストゲームです」
木暮先生は「選手たちと一緒に試合をするのが楽しい」とも話します。
「練習では一歩引いて見守っていますが、次の試合で誰を起用するかを考えながら選手の様子を見ています。そして選手がその起用や作戦に応えてくれることを強く感じているのが近年の状況です」
顧問と選手が、それぞれの立場から同じ方向を見据えて突き進む獨協埼玉野球部。本当の快進撃は、これからなのかもしれません。
練習メニューはキャプテン・副キャプテンで考えるのですが、部員にはその練習の意味を最初から説明するのではなく、“まずは自分たちで考えて取り組むように”と伝えています。チームとして心がけていることは練習でも試合でも、まずは“一つひとつ、できることからやっていこう!”です。攻守交代を早くすることもその一つ。練習でも基礎的なことを大切にプレーしています。先生は自分たちを信頼して任せてくださっているので、自分たちに思考力がつき、それが後輩たちにも受け継がれていると思っています。自慢は楽しく野球をしていること。目標は秋季大会でベスト8、夏はベスト4です。
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