“探究”が注目される以前から、探究学習や対話に力を入れ、自ら考え行動する生徒を育ててきた上野学園高等学校。そうした学びの延長として、2023年より新たにスタートした取り組みが放課後学習スペース「ALCO(アフタースクールラーニングコモンズ)」です。学習コーチによる伴走の下、主体的に自学自習に向かえる仕掛けが散りばめられた、新しい自習スペースの全貌をリポートします。
“探究”が注目される以前から、探究学習や対話に力を入れ、自ら考え行動する生徒を育ててきた上野学園高等学校。そうした学びの延長として、2023年より新たにスタートした取り組みが放課後学習スペース「ALCO(アフタースクールラーニングコモンズ)」です。学習コーチによる伴走の下、主体的に自学自習に向かえる仕掛けが散りばめられた、新しい自習スペースの全貌をリポートします。
“教室を越境する学習スペース”をコンセプトに2023年より始動した「ALCO」。このネーミングには、この場と環境を用いてどんどん自分で“歩いていこう”という意味も込められています。これまでの自習スペースの在り方と大きく異なる点は、個人スペース・集団スペース・協働学習スペースという3種類の学習環境が用意されていること、そしてそこに外部の専門コーチを迎え入れ、コーチングによる自走支援体制を構築している点です。
「これまで自習スペースといえば、生徒が個別に学習し、わからない点をチューターに質問するというものが一般的でした。本校の生徒は大学と連携するなどして探究学習を深く行うなかで対話をし、自ら考え行動する力を伸ばしています。そうした生徒たちの特性をより高めていける学習環境を提供したいと考えたのです」と、藤井先生はその狙いを話します。
そのためALCOは、考える支援・学ぶプロセスの支援をベースに展開。学びの情報資源を集結し、学内で重視している対話(面談)をベースに、コーチングで自学・自習を深める手法をとっています。
3つの学習環境を用意したのは、宿題・課題、定期考査対策、受験、資格試験など、生徒が必要とする状況に合わせて、自らの学習スタイルを主体的に選択できるようにするため。そして、学年に関係なく中1から高3までの“学びの多様性”が集まる場となっているので、各学年で必要とされる学習習慣をそれぞれの生徒が感じ取り、“本質的な学び”を確立できる場となるようにデザインされています。
「その3つの環境で展開されるのが、自習・学び合い・キャリア相談をメインに、検定対策や学年ごとの強化月間の設定といった、学習コーチによる多角的なサポートです。個人スペースでは、生徒が個人で自習を進め、適宜学習コーチに質問をするという従来のスタイルをとっています。集団スペースでは、学習コーチが生徒とコミュニケーションを図りながら、テーマを与えたり、教科的な視点で問題を出したりといった、対話型の学習が行われます。
そしてキャリア相談では、学習コーチが学年教員からの情報をベースにしながら生徒に個別のコーチングを行います。「キャリア相談は主に、成績の変動が激しい生徒、あるいは伸び悩んでいる生徒など、担任教員が気になる生徒を対象に行います。専門のトレーニングを積んだ第三者である学習コーチが生徒と対話し、課題や改善方法などを明らかにしてくれることで、我々教員側も冷静かつ客観的な指導をすることができます」(小川先生)。
また、英検道場などの資格取得支援や基礎的学習支援(e-Learningによる到達度確認と段階におけるコーチング面談)、生徒の利用を促進する「学年強化月間」など、スポット的にさまざまな学びの機会を用意しているほか、定期テスト前には学習コーチの人数と使用する教室数を増やすなど、生徒のニーズに合わせたフレキシブルな運用もALCOの特徴です。
さらにALCOでの学習は、学内だけにとどまりません。火曜と金曜の21時~23時にはオンライン自習室を開講しており、在宅中でも学習コーチに質問ができるのです。
「部活動や、『チャレンジ講座』(本物の体験をコンセプトに各界のプロを招いて行う同校の放課後教育)で学内のALCOに参加できない生徒はもちろん、あえてオンラインでつながった状態で自習をする生徒もいます。ライバルや仲間とつながりながらの自習は、生徒にとって切磋琢磨できるまたとない環境になっているようです。さらに専用メールフォームでわからない点を学習コーチに質問すれば、24時間以内にレスポンスが返ってきます」(藤井先生)
ALCOの導入から4カ月弱、藤井先生は早くも生徒の変化・成長を感じているといいます。
「我々が思う以上に生徒は放課後忙しく、『部活動と勉強の両立が大変』といった声も聞かれていましたが、ALCOを導入し、学習コーチという伴走者ができたことで、放課後の時間配分がうまくなっているようです。生活習慣のアンケートをとると、自学・自習を習慣化させている生徒が増えてきました。本校ではオリジナルの手帳を配布しているのですが、1週間のスケジューリングをする生徒が増え、その記入の質も格段に上がりましたね。PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを自覚し、自走する生徒が増えてきたように感じているので、今後は授業にもそういった力が還元されてくるのではと期待しています。
また、教え合いやコーチング面談を通して、生徒たちは自らの考えを表現することに意欲的になってきたようにも感じます。その結果、授業・行事においても積極的に挑戦する姿が見られるようになりました」
今後は、全校生徒一人ひとりの生活に溶け込むように環境デザインをしていきたい、そして教員も生徒とともに勉強ができるような空間にしていきたいと展望を語る藤井先生。
「AIが発展していく世の中で、“AIを用いて創意工夫する人間の価値”が問われ、自主的な学びのなかで知識を創出することの価値が高まっていると感じます。そうした現代社会においてALCOで大切にしているのは、個人で学習に努めること、同じように学びに取り組む仲間を周囲に感じること、そこから協働して学びを深めていくこと。そのような学びの場として、日々変容させていく空間にしていきたいと考えています。そしてALCOを含め、本校の学習環境を最大限に活用して、のびのびと学びを深めていってほしいと考えています」
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