『飛び込め、正解のない世界へ』。このキャッチフレーズのもと、『探究フェスティバル』が2022年2月16日、約2時間にわたって開催されました。これは“探究版の文化祭”。実施は今年が初めです。この行事の特色は、企画や運営が生徒の手によってなされたこと。探究活動を統括する中山諒一郎先生(社会科)にお話を聞きました。
『飛び込め、正解のない世界へ』。このキャッチフレーズのもと、『探究フェスティバル』が2022年2月16日、約2時間にわたって開催されました。これは“探究版の文化祭”。実施は今年が初めです。この行事の特色は、企画や運営が生徒の手によってなされたこと。探究活動を統括する中山諒一郎先生(社会科)にお話を聞きました。
「ほとんどの高校では、探究活動のゴールが2つに絞られています。PowerPointを使ったプレゼンテーションと論文執筆です。もちろん、この2つは間違っているわけではありません。しかし、探究学習とは本来、正解のない問いに取り組むことであり、ゴールが2つの形式に定まっていることに私は疑問を抱いていました。ゴールの部分、すなわちアウトプットの部分がもっと自由でよいのではないかと思うのです。
そこで生徒が探究活動の成果を自由に発表できる場として、この『探究フェスティバル』を立ち上げました。さらに、これを単なる発表の場としてだけでなく、学びの楽しさをさまざまな人へ伝える場にしたいと考えたのです」
そのために中山先生は当初、近隣の人たちや併設小学校の生徒、大学生などを招く予定でした。ところが、千葉県にまん延防止等重点措置が実施されていることもあり、外部の人たちにはオンラインで参加してもらうことにしたのです。
開催にあたり中山先生はまず、実行委員を募集。その結果30人ほどのメンバーが集まりました。実行委員はチラシやポスター、ウェブページ、動画の制作から、SNSの運用までを行い、校内外に『探究フェスティバル』をピーアール。さらにフェスティバル全体の企画を考えました。実行委員のメンバーは、開催前日までオンラインミーティングを重ねたのです。
実行委員のリーダーシップのもと、生徒はチームやクラス、学年ごとに、これまで探究の授業で学んできたこと、培ってきた力を発揮し、この行事を実りあるものにしていきました。
たとえばあるチームが行ったのは、「フェアトレード・チョコレートの販売」です。フェアトレードとは「公平・公正な貿易」のこと。発展途上国の原料や製品を適正な価格で購入することで、立場の弱い生産者や労働者の生活改善と自立をめざします。生徒たちは、このフェアトレードによってフィリピンで作られたチョコレートを、校内でほかの生徒や先生方に販売したのです。チョコレートは1時間で完売しました。
「生徒たちは取り扱っている店舗にフェアトレード・チョコレートを買いに行き、店員の方と話したり説明を受けたりして、フェアトレードのしくみをより深く理解していきました」
不要な本や絵葉書などを、自分たちがそれぞれ共感できる活動をしている団体に寄付したチームもありました。そして、校内でほかの生徒たちに寄付した団体を紹介しながら、「皆さんも寄付をしませんか?」と呼びかけたのです。
また、大学生とともに動画を制作するワークショップに参加したチームも。同校はiU (情報経営イノベーション専門職大学)と連携協定を結び、産官学連携を推進しています。産官学連携とは、「産(企業)」 「官(行政)」「学(大学)」の三者が連携して共同研究などを行うもの。この大学生たちと同校の紹介動画をつくりました。
学年では、高2生が企業の経営課題を分析して発表するコンベンションを開催。同校は英会話学校などを運営するQQ Englishという企業とパートナーシップを組み、高2生を対象とする『アントレプレナーシップ(企業家精神)プログラム』を展開しています。このプログラムでは、生徒が「QQ EnglishをSNSでバズらせよう」「キッズ向けのオンライン英会話の商品を開発しよう」といった課題に取り組んできました。こうした活動によって昨年、同校は経済産業省主催の起業家教育強化校に選出されたのです。
「QQ Englishの社員の方から、本校の生徒にカスタマージャーニーに関する課題をいただいていました。カスタマージャーニーとはマーケティング用語で、顧客の行動や思考を“見える化"したものです。生徒はQQ Englishの認知度や購買層、リピート率などを分析し、プレゼンピッチという短いプレゼンテーションの手法によって発表し合いました」
また、進学先が決まった高3生は、自分がこれから大学で学ぶ分野について調べ、めざすキャリアと連動させてプレゼンテーションを行いました。
「生徒たちは心の底から『探究フェスティバル』を楽しんでくれました。コロナの影響で多くの行事が中止になっていたこともあり、一から行事の企画や運営に携わった実行委員のメンバーは、『こんなにもワクワクしたのは、昭和学院に入学してから初めての経験でした』と振り返っていました」
実行委員の一人であるHさん(高1・女子)に話を聞いてみました。
「実行委員に立候補したのは、『探究フェスティバル』は今回が初めての行事だと聞いたので、興味をもったからです。私は運営係で、当日に来校者の受け付けをする予定でした。でも、コロナで外部の方たちはオンラインで参加することになったため、パンフレットの制作を担当しました。こんな経験は初めてで、とても新鮮でした。
私のクラスでは、自分が関心のある分野について調べたことを一人ひとり発表しました。私は心理学や哲学、教育学に興味があったので、『未成年の自殺』をテーマに選びました。どうすれば未成年者の自殺を減らせるかを考えたのです。
SNSを使ってほかの人たちに悩みを打ち明ける方法もありますが、トラブルに巻き込まれるケースもあります。そこでAIに話しかけることで、心の負担を少しでもなくせるような身近なアプリが必要なのではないかという考えを発表しました。この活動を通して、他者の意見に耳を傾けることで、それが発想や創造力を広げてくれることに気づきました。
実行委員の仕事を通して学んだことは、ひとつの行事をみんなで完成させることの大変さや尊さです。また、仕事を効率的にこなしている先輩たちの姿を見て大いに刺激を受けまし た。来年は、みんなの心がさらにひとつになるような『探究フェスティバル』にしたいと思っています」
今後の『探究フェスティバル』に向けたビジョンを中山先生は次のように話します。
「Hさんが話してくれたように、多くの実行委員が『こんな経験は初めて』だと口にしていました。そこでこれからは、『探究フェスティバル』の内容をさらに充実させていくことはもちろん、ほかの行事にもこれまで以上に生徒の力を借りていきたいと思っています。
また、生徒だけが勉強する場所だけでなく、生徒や教員が保護者や地域の方々、企業や大学の方々にご協力いただきながら、ともに学び合える共同体に本校を変えていけたらと考えています」
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