
探究学習・教科授業・学校行事・校外活動――。学校で実施される教育活動を一過性のもので終わらせるのではなく、相互につながりをもたせてその意義と効果を向上できないか。そう願う常翔啓光学園が創設したのが『教育探求部』です。
各自が独立しがちな学校分掌を横断的に結びつけることで、学びの一貫性と深化を目指す、同校ならではの存在です。

同校の教育環境向上を推進する部署として新設された『教育探求部』の部長として、探究学習の整備や、連携体制構築にまい進中。

MIEE(マイクロソフト認定教育イノベーター)ほか、さまざまな教育系エキスパートの認定資格を持ち、その知見を教育探求部に還元。
学校には、分掌と呼ばれる校務分担の仕組みがあり、先生方は授業や担任、部活動顧問以外にもそれぞれの担当を持ちます。なじみ深いのは進路指導部、生徒指導部などです。最近は、ICT(DX)や探究、地域連携などの分掌を置く学校も目立つようになりました。
しかし、学校という集団において、しばしば課題として指摘されるのがその組織構造。各分掌の独立性が強く、いわゆる縦割型になりがちで、連携が不十分になることがあるのです。たとえば生徒指導部では「厳しく管理する生活指導」を行う一方で、教務部では「主体性を重視する学習」を推進していたり、各課外活動や校外学習などの予定が合わせにくかったり、似た内容の行事が複数あったり。これでは、せっかく一つひとつの取り組みは素晴らしくても、中途半端になったり無駄を生んだりしてしまいます。先生方の業務生産性は非効率的になり、生徒たちにも混乱を与えることがあります。
そこで常翔啓光学園が設置したのが『教育探求部』。主に校内の探究的な教育活動の推進を担いながら、各分掌との連携を図り、統括する部署です。部長の清水弘和先生は「各分掌に横串を刺す仕事です」と話しますが、全国的にもめずらしい、ありそうでなかった意欲的な試みだと言えるでしょう。

大阪工業大学の教員から学ぶ、Pepper君を動かすプログラミングの授業。ソフトバンクロボティクスのPepperを活用し、常翔啓光学園が独自に実施しています。
※「Pepper」はソフトバンクロボティクスの登録商標です。
教育探求部が、ひときわ強く存在感を発揮しているのが探究学習の推進です。必修の『総合的な探究の時間』以外にも、さまざまな場面で“探究的な学び”の要素をふんだんに盛り込んでいます。
たとえば地域のお祭りへの出店、企業の協力のもと行う新商品開発、大学との連携、地元の小学生に向けたワークショップ開催など、そのいずれも、生徒が試行錯誤を重ねながら自分たちなりの解決策をひも解いていく探究要素がベースにあります。
しかし、もしこれらの活動がバラバラに運営されていたら、先述のような方針上の矛盾や重複が起こるかもしれません。そこで、教育探求部が各分掌の意見を聞きながら活動を企画し、各活動を無駄なく、もれなく動かしていくのです。
同校では、必修化以前から探究に注力しており、学びの軸となっていました。清水先生と共に教育探求部の中心メンバーとして汗を流す外村真也先生は、従来より探究を重視してきた理由を「主体的な進路発見」と「学びに向かう姿勢を育てる」ことが目的だと指摘します。
進路選択の傾向の一つとして、偏差値や知名度だけで大学を選んでしまうことがありますが、その結果、大学進学後に学ぶ目的を見失う学生も少なくありません。このような現実をふまえ、清水先生・外村先生はこう口を揃えます。
「自分の“好きなこと”を自覚しないまま大学に進学する生徒を一人でも減らしたいです。一人ひとりの興味・関心の発火点は、誰がどこに持っているかわかりませんから、学校としてはその発見の機会として探究を位置付けています」
「学びに向かう姿勢」については、探究やそのテーマをステップに知的好奇心を喚起させ、教科学習や学ぶことそのものへの意欲につなげたいという思いがあります。 一般的に言われる探究学習の目的の一つが、思考力やコミュニケーション力、問題発見・解決能力などの“非認知能力”の向上です。もちろん同校でもそれは意識していますが、何より探究を通して進路や人生を切り開いてほしいという思いが強いのです。つまり、生き方そのものを探究していると言えるでしょう。
だからこそ、さまざまな学習活動の中に探究要素が散りばめられており、教育探求部のような統括するポジションが欠かせないのです。

地元の老舗みそ店と協働して、麹を使ったシェイク(しぇしぇしぇいく)を開発。パッケージも生徒がデザインし、完成した商品は文化祭で販売。
そのような同校の姿勢の根底には、学びの目的を、大学受験や就業といった現物主義的な成果だけで見るのではなく「生徒が自らの人生をよりよく生きるためのもの」と捉える発想があります。
それを示す同校のスローガンが「すべての学びにリベラルアーツを」です。リベラルアーツは“一般教養”と訳されることが多いですが、語源はラテン語の“人を自由たらしめるもの”のことを指し、同校でもその解釈でリベラルアーツを捉えています。つまり、学問によって人生の幅や深みを広げ「生徒が自由で豊かに生きる人になり、ひいては社会をよりよくするためのもの」として学校の学びを位置付けているのです。
また、以前から同校では、摂南大学など系列大学への推薦入学を前提とした『学園内大学進学クラス』が、先行して探究プログラムにおける実践の場となっていました。学内推薦進学で受験勉強に多くの時間を割かなくてよいぶん、探究に力を入れることができるからです。
しかし、生徒たちのやりたいことが系列大学にあるとは限りません。そこで、クラス名を『探究クラス』に改称し、 学内推薦という制度上のメリットは残しつつ、「生徒が望む、あらゆる進路の選択肢を示す」という姿勢をより強く打ち出しました。
そうした動きにも、同校が目指すリベラルアーツや探究の精神が垣間見えます。
教育探求部は、今年で設立3年目。設立時の1期生にあたる生徒たちが高校を卒業しましたが、先生方も確かな手応えを感じているそうです。探究活動での経験を活かしてやりたいことを見つけ、総合型選抜で国公立大学に進学する生徒も増えました。もちろんそれは、単なる進学実績としてだけではなく、主体的進路発見と学びへの意欲としての成果です。
「この3年間の蓄積で学校外のネットワークも豊富になり、できることも多様になってきました。一方で、外部に頼らずに教員たちで作れる学びも増えています。時代や社会の要請も鑑みつつ、今後は理系コンテンツも増やしていきたいですね」(清水先生)
グローバルも、イノベーションも、サイエンスも、壁を作ることなくそれぞれが結びつきながら相乗効果を発揮していく学び。その媒介となるのが探究であり、教育探求部なのです。

ハード面の整備を完了させ、いよいよ学習コンテンツの充実へ!
DXハイスクール事業とは、デジタル技術を活用した先進的な学びを推進する高校に、国が補助金を支援するプロジェクトのことで、同校は、採択されて3年目。初年度はモニターや3Dプリンタなどハード面の整備に軸足を置きましたが、2年目からは具体的な教育コンテンツの充実にも着手。
『3DCAD』『動画制作』『デザイン&プログラミング』を中心に据え、学園内大学の大阪工業大学とも連携しながら放課後講座などを開催してきました。
さらに今夏は、『北海道DX研修』を実施予定。スマート農業・ロケット開発・半導体事業における最先端の現場を訪問します。清水先生は「ITが実際にどう使われているのか、DX化が社会に何を起こすのかを、わくわくした気持ちで学んでほしい」と力を込めます。
『北海道DX研修』は、最先端テクノロジーに触れる学びの旅。3日間の行程で、北海道内の先進的な現場を歴訪し、ICTが社会を変えていくダイナミズムを身をもって経験します。
1日目★公立千歳科学技術大学で講義受講 ラピダス『千歳美々ワールド』見学
ラピダスは、世界最先端の超微細ロジック半導体量産に挑むオールジャパンの企業連合。日本の半導体産業を変える存在として期待を集め、国も莫大な規模の投資を行っています。『千歳美々ワールド』は公立千歳科学技術大学のキャンパスであり、ラピダスを含む産官学の巨大研究拠点でもあります。
2日目★民間ロケット開発の現場に感動!
“宇宙のまち”と呼ばれる大樹町で、民間宇宙開発の最前線に触れます。官民一体でロケット開発を進める大樹町で、実験施設やロケット発射場を見学する計画です。宇宙開発も生徒の進路選択肢に入る時代を見据えたこの学び、いつか同校から宇宙飛行士や宇宙ロケット技術者が生まれるかもしれません。
3日目★『スマート農業』の現場で次代の「農」の最前線を体感せよ!
“農業”と聞くと、重労働で、大変な仕事というイメージがあるかもしれません。しかし“儲かる農業”で知られるのが北海道更別村。その秘訣となっているのが、農業の法人化とAIや、ロボティクス、科学的分析を駆使した『スマート農業』です。徹底した効率化で大きな利益を生み出しています。ITが社会でどう実装され、世界を変えていくのか、そのリアルを体感します。

同校では、必修授業として実施される『総合的な探究の時間』だけにとどまらず、放課後活動や課外学習と組み合わせる形で、多様な探究学習に取り組んでいることが大きな特徴です。それを可能にしているのが、教育探求部によるコーディネートなのは間違いありません。
探究のテーマになっているのは「地域」「防災」「観光」。年度によって内容等は臨機応変に改善を重ねていますが、これまでに、地域の学習イベント出展(地域)、地元の小学校へ出向いての児童への防災レクチャー(防災)、地元の魅力発信活動(観光)などに取り組んできました。
新たな探究テーマ「循環社会」が登場
“小さな貢献”が生徒を変える
「地域」「防災」「観光」に加えて新たな探究テーマとして加わったのが「循環社会」です。「大量生産・消費・廃棄」を見直し、資源を繰り返し利用する社会の構築を考えます。
生徒たちは、学食とコラボして食用廃油をSAF(再利用型航空燃料)に転換する取り組みや、廃油を使った石鹸作り、およびその啓蒙活動に取り組みました。さらに、気泡緩衝材(プチプチ)や衣料品の再利用活動として、地元の枚方市のイベントに参加して運営を手伝いました。
「循環社会」という大きなテーマを前に、最初は実感や興味が薄いように見えた生徒たちも、実際に“小さな貢献”を体験することで関心や行動に変化が表れるそうです。それが社会の一員としての自覚や、進路選択のきっかけにもつながっていきます。
地元の茶問屋事業者とコラボし、新規メニューを開発・販売
テーマ「地域」の一環として、以前から地元企業や商店との商品開発に熱心だった同校。これまでも、若者らしい独自の感性を活かして、オリジナルのスパイスカレーやシェイクなどの新メニューを考案してきました。
2025年度は、枚方市の老舗茶問屋と共同で、お茶を使った新商品の開発に挑戦。企画から試作まで、試行錯誤の末に完成したのが抹茶やほうじ茶のパウダーをまぶしたチュロスです。
完成した新メニューは、文化祭での販売を経て地元のお祭りにもブースを出して出店。大好評を得ました。