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進学通信

2024年3月

教育問答
協働し、集団のなかで学ぼう
人間関係を築ける場であることが学校の価値となる

公開日2024/4/15
滝川中学校・高等学校
校長 下川 清一 先生

1956年生まれ、大阪府出身。公立校での校長職などを経て、2020年4月より現職。コロナ禍真っ只中での着任という逆風を跳ね返し、共学化などの改革を精力的に推進した。
趣味はローカル鉄道の旅で、一番のお気に入りは「ひたちなか海浜鉄道」。

インターネットがあれば、いつでもどこでも学べる現代、学校の存在意義が問われています。滝川中学校・高等学校の下川清一校長は、それを「集団生活のなかで揉まれ、成長する場」だと語ります。伝統ある男子校として知られる同校ですが、2024年度からは共学化が決定。これから目指す滝川の姿について、お話をうかがいました。

学校の存在意義は「人と関われる場」であること

現代の子どもたちや中等教育全般を俯瞰して感じられること、また、それらを踏まえて学校に求められるものは何だと思われますか?

 語弊のある言い方かもしれませんが「弱い子」が増えたように感じます。具体的には人と人との関係づくり、コミュニケーション力に欠ける子が増えていると思いますね。

 近年、教科学力のように数値化ができない、〝非認知能力〟の重要性が語られるようになりました。コミュニケーション力もその一つです。そのためか、学校は、教科学習以外の学びにも力を入れるようになりました。すなわち、さまざまな「経験」をさせるのです。皆で一緒に同じ目標を持って物事に取り組むという経験をすることで、コミュニケーション力が磨かれていくと思いますね。さらに学校行事や探究学習で、仲間と協力したり、ぶつかったりしながら、壁を乗り越えて共に成長していくのです。「おとなしい子だな」と思っていた生徒でも、行事や探究学習で何かをさせてみると、積極的に取り組んでいる姿をよく見かけますね。しかし、ここ数年はコロナ禍のため、それらの多くは自粛や中止に追い込まれてしまい、何もできなくなってしまった時期がありました。

 そのような状況下で、教育の基盤となるのは家庭だと思うのですが、家庭の教育力には差があります。だからこそ、学校が果たすべき役割は本当に大切だなと実感しています。
 学びのデジタル化やAI化が進み、勉強はいつでもどこでもできるようになりました。極論すれば、学校に行かなくても学べるのです。ではそのような時代において、学校の価値や存在意義は何なのか。それこそ、コミュニケーション力が涵養される場であることと、それを支える集団活動ではないでしょうか。

 地域コミュニティも希薄化する昨今、日常生活において、集団のなかで人と交流し、何かをすることは少なくなってしまいました。人間関係で言えば、縦も横もさまざまな角度から関わり、交わり合う経験です。子どもたちが現代の都市生活においてこうした経験を積むのは、おそらく学校でないと無理だと思うのです。

 本校は、学校行事が非常に多く、コロナ禍でも規模縮小はほとんど行いませんでしたので、それはよかったなと感じています。

実際に、子どもたちのどのような面にコミュニケーション力の弱さを感じますか?

 人との衝突や干渉を極端に避けるというか…。できるだけ他者と関わらないようにやり過ごしているという印象です。ケンカを推奨するわけではありませんが、幼児期での体同士のぶつかり合いや意見の対立から学ぶこともあると思うのです。特にこのコロナ禍で、それが浮き彫りになったように感じます。「(ぶつかり合いながらでも)人と一緒に何かをする」という経験の多寡が、学びの質にも大きな違いを生み出していました。

 たとえばオンライン授業で学べる子と、そうでない子が分かれる傾向がありました。それまでの学校生活や家庭において、さまざまな経験を積んでいる子のほうが、オンラインでも上手く学べていたと感じます。ただ、その子たちがコミュニケーション上手かというと、それはまた別の話になるのですが…。

なぜ子どもたちのコミュニケーション力は弱くなってしまったのでしょう。

 先ほど「家庭の教育力の差が大きい」というお話をしましたが、家族間でもコミュニケーションが希薄になり、経験や体験を積む場が減っているのかもしれません。コロナ禍で一斉休校になったときに、子どもが家庭内で何らかの経験が積める工夫をしていたのか、ただダラダラと過ごしてきたのかで、大きく違ってきます。

 核家族化が進み、親も含めた周りの大人が、子どもたちに気を使いすぎている面もあると思います。子どもがちやほやされているとでもいいましょうか。人間関係で揉まれていないのです。社会のデジタル化もあって、本当の友だちを一人つくるのも大変です。SNS上に何百人もの「友だち」がいても、心から自分をさらけ出せる相手はいないという子も多いようです。表面上のつながりではなく、「濃い人間関係」を築ける人になってほしいですね。

「学校は勉強だけを教える場所」という概念が変わりつつあるのかもしれません。

 もちろん、教科学習は大切です。ただ、先ほどのコミュニケーション力のことを一つ取っても、学校が子どもの人生に与える影
響力は昔より大きくなっているのかもしれませんね。
 実は、私自身の人生を振り返ってみると、学校への思い入れってほとんどなかったんですよ。自分のなかで重要度が低いというか、「学校」という存在に重きを置いていなかったのでしょう。卒業後に母校を訪ねたことなんて一度もありませんしね(笑)。

 時代は変わり、今の子どもたちには、濃い人間関係を構築する場を、学校がもっと用意する必要があるのだと感じています。それがないと、おそらく子どもたちは社会に出たときに(特に人間関係で)しんどい思いをすることになるでしょう。
 それはある意味で、学校が親以上の役割を果たしている面もあるのかもしれません。親はどうしてもわが子が可愛いので甘くなってしまうこともあるでしょうが、学校はもっと客観的な立場からのアプローチができます。ですから、やはり学校は必要なのです。

 その点、私学は特に良いですよね。中高一貫校であれば6年間という長期で目を配ることができますし、教員の顔ぶれも基本的に変わりません。その人間関係のなかで「社会の縮図」を学んでほしいですね。

独自の探究学習や学校行事のなかで、教養や思考力を磨き、未知なる課題に挑戦する次代を切り拓くリーダーを目指す。

行事を通して育むリーダーシップ

生徒たちにそうしたコミュニケーション力を身につけてもらうために、学校として取り組んでいることは何ですか?

 一つひとつの取り組みに、明確に目的を設定することです。たとえば行事をやっていると、生徒はもとより教員自身も惰性になって、深く考えなくなります。「なぜその行事をするのか」を忘れてしまうのです。

 新年度が始まって、4~5月頃には遠足に行くのが定番ですよね。しかし、改めて「なぜ遠足に行くのか」と問われれば「親睦を深めるため」という答えにとどまりがちです。それだけではなく、「遠足を通してどのような力を身につけてほしいのか」という目標設定を大切にしたいです。それがきちんとできれば、「なぜ4~5月に遠足を行うのか」ということなども、ロジカルに考えることができるようになるはずです。

具体的に、行事でどのような力を伸ばしたいですか?

 細かな部分は行事によって異なりますが、一貫して変わらないのは、校祖・瀧川辨三が掲げた3つの校訓「至誠一貫(誠実に)」「質実剛健(たくましく)」「雄大寛厚(おおらかに)」に、常に立ち返ることです。そして、この校訓を根底に「社会のリーダーを育てたい」という理念があります。さまざまな取り組みを通して、生徒のリーダーシップを鍛えたいですね。
 では何をもってリーダーシップを磨くのかと問われたら「すべての取り組み」ということになるのですが、私が校長に着任してもうすぐ丸4年、ようやく体系的にまとまってきたと感じますね。

 たとえば『スポーツフェスティバル(体育祭)』では、中1から高3までが合同で4つの縦割りチームに分かれて競技します。中1と高3という6学年の差は大きいですよね。先輩は後輩を導き、後輩は先輩に学び、自分たちが上級生になったときにその伝統を脈々と引き継いでいきます。こうしてリーダーシップを育てていくのです。以前は私も「行事は生徒が楽しめればそれでいいじゃないか」と考えていたのですが、そこから脱却しなければいけません。高3はスポーツフェスティバルのプログラムも自分たちで考えて作りますが、「ここが君たちの集大成だ! これができなければ、滝川の生徒とはいえないぞ!」と鼓舞しています。最近では、『ミライ探究一貫コース』の中2が自然学校の体験活動に赴き、その経験をもとに中1に指導するという取り組みも始めました。「コミュニケーション力を鍛える」「リーダーシップを育む」と、きちんと目標を定めて実施していきたいですね。

中1から高3まで合同で行う『スポーツフェスティバル』などのさまざまな学校行事を通じて、仲間たちと切磋琢磨しながら豊かな人間性が育まれてゆく。

2024年度より共学化
質の高い学びを地域の女子にも

男子校として伝統のある貴校ですが、2024年度からの共学化が大きな話題となっています。共学化に踏み切った理由などをお聞かせください。

 共学化と聞けば、そのぶん入学希望者が増えるからと、経営的なメリットをイメージされる方も多いでしょう。しかし、ハード面を考えると多くの費用が必要になります。トイレの改装、更衣室の新設など、経営的なことだけをいえばむしろ、わざわざ共学化しないほうが合理的とさえ言えるかもしれません。
 ではなぜ踏み切ったかと言えば、やはりコミュニケーションのなかで、男女がそれぞれお互いに刺激を受け合い、共に伸びていく環境をつくりたいと思ったからです。
 女子は、コツコツと物事に取り組む子が多く、男子は瞬発力に強みを持つ傾向があります。これらをお互いから学ぶことができれば、と考えたのです。

共学化の構想から実現までは、ご苦労も多かったのではないですか?

 共学化については、前校長も推進の意思があり、私がそれを引き継いだ形となります。とはいえ、本校は100年以上の伝統を持つ男子校です。さらに、同法人に「滝川第二」という共学校がすでにありますから、なぜわざわざ本校を共学化する必要があるのかという疑問も当然湧いてくるでしょう。
 
そこで私は、先述した共学化の目的やメリットをていねいに伝え、周囲の理解を得ることに努めました。保護者や地元中学校の先生方にもヒヤリングを重ね、共学化のニーズが高いことに手応えを得ました。
 また、生徒募集という観点から見たとき、男子校としての出願者数が減っているのであれば、世間からは「生徒数が確保できなくなったから共学化するのだろう」と見られてしまうかもしれません。そうではなく、地域からの確固たる支持があるから共学化することが大事だったのです。

地域からの共学化のニーズとは、どのようなところにありましたか?

 とりわけ反響が大きかったのは、『Science Global 一貫コース』のニュージーランド留学で、3カ月という長期にわたって現地で暮らし、学べるという魅力があります。これを女子にも提供してほしいという希望が非常に多くありました。
 また、医学の道を目指したい女子にとっても近隣に適切な学校がなかったようで、本校の共学化により「『医進選抜コース』で学べる!」という期待の声が多数寄せられました。
 
 共学化の構想から決定までは非常に長い準備期間を要しましたが、いざやるとなれば予想以上の反響で、私自身も驚いています。

最後に、今後は「こんな学校にしていきたい!」という意気込みをお聞かせください。

 「この地域で医学の道を目指すなら滝川へ!」と言ってもらえるような“看板”が欲しいですね。やると決めた以上、言い訳しないで本気でそこを目指す覚悟です。これまでの伝統をさらに確固たるものにし、本校らしいリーダーシップ教育を女子にも広げ、「兵庫に滝川あり」と評してもらえるように、存在感を高めていきたいですね。

『Science Global一貫コース』の『ニュージーランドターム留学』(中3/3カ月)は、自然豊かで治安の良いニュージーランドで、これまでに身につけた英語力をより実践的なものにする留学制度。