私立中高一貫校
●学校の数だけある多様な教育像
かつては中学受験をさせるご家庭の中には「公立中学には行かせたくないから」という理由だけで私立を選ぶケースが多くありました。しかし、今は熱心な保護者が増加し、情報も多くなり「私立学校ならどこでもいい」というわけではありません。「入学させる価値のある学校へ」と意識が変わっていることは言うまでもありません。実際に、志願者が集まっている学校と伸び悩んでいる学校との二極化が進んでいます。それは、難関校や有名校には志願者が集まり、それ以外が伸び悩んでいるという単純な図式でもないようです。
では、どのような学校が受験生から支持されているのでしょうか?
学校選びの大きな基準となっているのは、大学合格実績です。事実、大学合格実績が伸びた学校が翌年志願者を伸ばすという傾向はあります。ただ、近年はそれが絶対的なものではなくなっているようです。「大学合格実績が伸びました」だけでは受験生の気持ちを動かすことはできません。学年集団の偏差値や学力、個性には毎年違いがあるものです。大学受験への具体的な対応が示されなければなりません。どういう方針で、どのような指導を行っているのか、フォロー体制はどうか、これまでの成果と今後の目標はどうなのかなどをきちんと伝えている学校に志願者が集まる傾向があります。
さらに、人格形成面での指導のあり方や、どのような人材を育てていくのかという将来へのビジョンや熱意が問われているとも言えます。これはまさに、私学本来のあるべき姿といってもよいでしょう。
中高6年間は子どもから大人へと成長する大切な時期。いろいろな方法で子どもを成長させるのが私学教育のあり方です。それを一元的に見てしまうと、“多様さ”という私学の魅力を見落としてしまう可能性があります。私学のいろいろな教育のあり方、教育スタイルを見て、子どもにふさわしい学校、受けさせたい教育を考えましょう。
●独自のカリキュラム
学習指導要領の枠からはずれない教育を第一とする公立校とは違い、私学はそれを尊重しながらも自校の教育内容について、常に独自の改革と工夫をし続け、各校それぞれのカリキュラムに反映しています。
たとえば中高一貫校の場合は、高校受験がないので、そのための受験演習は必要ありません。そこから生み出された時間的なゆとりを利用して、高校の内容を先取りした学習を実施したり、学校行事や体験学習、クラブ活動の充実や、探究学習などの新しい学びを実践することができます。
どの私学も、中高6年間を通して効率のよいカリキュラムを採用しています。また、習熟度別、少人数制といった授業を早くから取り入れたり、教員による手づくりプリントを教材として使用する学校もあります。
●学力に偏らない教育
私学は“ 勉強一辺倒” というイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、実際には知育・徳育・体育のバランスのとれた教育を実践しています。そして、円満な人格形成を図るために、多くの私学では生徒にクラブ活動への参加を積極的に奨励しています。
また、学校行事も同様です。生徒が主体となって、文化祭や体育祭、修学旅行などを運営している学校がたくさんあります。クラブ活動の指導者や施設に恵まれているところも多く、全国大会の常連校が数多くあります。
このように、実践の方法はさまざまですが、学校行事やクラブ活動を充実させ、社会性や心の豊かさを育んでいます。こういった中身の濃い学校生活は、私立中高一貫校ならではのゆとりある環境に支えられていると言えるでしょう。
●面倒見のよい環境
私学はよく「わかるまで指導する」と、教育の熱心さをうたっています。実際その通りで、補習や補講はもちろん、習熟度別授業などできめ細かい指導をしています。小規模校では、生徒一人ひとりに目が行き届きやすく、授業に遅れがちな生徒の面倒をこまめに見てくれるでしょう。小規模校でなくても、少人数制のクラス編成にしたり、分割授業を行うなど、生徒全員にしっかり目の行き届く教育を実践しているところもあります。
また、精神面もしっかりサポートするために、専門のカウンセラーを常駐させている学校もあります。
私立中高一貫校の大きな特色の一つは、「生徒一人ひとりを大切にしてくれる」ことではないでしょうか。「大切にする」とは、手取り足取り面倒を見ることではありません。“個性”を認めることです。そのことこそが、子どもたちの未来が開けていくための礎となっているのです。
国立大学附属中学校
●最先端教育の実験校
国立大学附属中学校は、地域の国立大学に附属した中学校です。その役割は三つあり、一つは、大学が新しい教育方法を研究・開発する場と地域のモデル的な学校となること、二つ目は大学の教育実習生の受け入れ先となること、三つ目はいじめや不登校など、現代的な教育課題に対応する教員養成の在り方に関しての研究に協力することです。
大学附属校ではありますが、その大学に内部進学できるわけではありません。併設の高校から大学に特別な推薦枠がある学校もありますが、枠は小さく、内部進学することが原則や多数派になっている私立の附属校とは全く異なります。
近年、研究が進んでいる新しい教育方法の例としては、アクティブラーニングや世界標準に準拠した教育課程などがあります。授業だけではなく、学級運営や行事などでも、多様な取り組みが試行されています。新しい教育方法が研究・実践されていること、教育実習生がよく来ることは一長一短ですが、入学時点から学力レベルが高い生徒が多いので、変化に対応して鍛えられる面はあるかもしれません。
また、教員の構成では、このような「地域のモデル的な学校」としての役割から、公立中学校との間で定期的に異動している学校も多く、異動が少ないため長く勤務し、その学校の特色や教育方針を体現している名物先生がいる私立とはかなり違っています。
中学では入学金が不要で授業料もかからず、家庭で負担する生徒会費や教材費などは、年間10〜 20万円が一般的です。
高校進学については、2つのタイプがあります。1つは、高校にエスカレータ式に進学できる私学同様の「中高一貫型」。もう1つは併設高校がなかったり、あっても高校入試を受けなくてはならない「要受験型」です。また、中学校の卒業生全員をそのまま受け入れるだけの定員数がない併設高校もありますので、注意が必要です。公立高校を受験する際は、同じ学力を持つ公立中学出身者と比較して、内申点で多少不利になることは避けられません。なぜなら、どの国立大学附属中学校も、成績上位の生徒が集まっているので、レベルの高い集団の中での自分の立ち位置が、そのまま内申点となってしまうためです。
公立中高一貫校
●中高一貫教育の公立版
公立中高一貫校は地域のニーズや実情に合わせて、大きく3種類に分かれています。それぞれ「中等教育校型」「併設型」「連携型」に分類されています。
公立中高一貫校は入学者選抜があるため、優秀な生徒が集まる中で勉強ができます。さらに中高一貫なので6年間を通して、大学受験にも対応しやすいような、効率的で特色ある学びが実施されています。このような学びの環境が整っているにも関わらず、学費がかからないというのは非常に魅力的だと言えます。一方で、難易度の高い「適性検査」への対策が必要であり、かつ倍率がとても高いという点がデメリットと言えます。
それでは近年では人気が定着し、中学受験の対象として重みを増してきた公立中高一貫校の「適性検査」対策はどのような指針で進めればいいのでしょうか。
「適性検査」という名称は、「学力検査ではない」という意味で、従来の私立入試とは一線を画す公立中高一貫校の教育理念を体現しています。内容は、探究などの調べ学習やコミュニケーションスキル、学際的判断力等を中心とするものとなっています。しかし、どの公立中高一貫校も優秀な大学実績を強く期待されており、それを目標とする学力重視の運営が行われているので、しっかりついてくることが出来る学力の高い生徒を入学させたいという本音があることは否めません。ただし、私立中学受験のように、高度なレベルが求められるわけではなく、必要なのはあくまで基礎学力なので、弱点のない学力を身につけるようにしましょう。