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私立中高進学通信

2024年4月号

キャリア教育の現場から

和洋国府台女子中学校

“株式会社”を設立して商品販売
起業体験で企業活動を理解

学園祭でのりんご飴の販売ブース。どの会社もさまざまなトラブルを乗り越え、当日はお客様で大盛況。商品も完売しました。

学園祭でのりんご飴の販売ブース。
どの会社もさまざまなトラブルを乗り越え、当日はお客様で大盛況。
商品も完売しました。

「女性の自立」を建学の理念とする同校。中3生の「起業体験プログラム」は生徒たちが主体となって会社を設立し、社会の仕組みを実践的に学ぶことで、実社会で必要な多様な能力を育むとともに、将来のキャリア形成につなげています。

大きく成長する責任感と
コミュニケーション能力
社会科/瀬尾知行先生社会科/瀬尾知行先生

「凛として生きる」自立した女性を育成することをスクール・ミッションに掲げる同校。中高6年間を通して、卒業して何ができるようになるかを重視したスクール・ポリシーに則した教育を実践しています。

 大学や企業と連携したさまざまな体験型プログラムが用意されています。その一つが約10年前から始まった中3生を対象とする「JPX起業体験プログラム」です。4~11月まで公民の授業の一環として、日本取引所グループ(JPX)の東京証券取引所の協力を仰ぎ、生徒自らが、9月に開催される学園祭で商品を販売するための模擬株式会社を設立。企業理念の策定、ビジネスプランの立案から投資家へのプレゼンテーション、株式発行、そして最終的には決算書類を作成、株主総会を開催して利益分配まで行う実社会の企業経営さながらの本格的な内容です。

 担当の瀬尾知行先生(社会科)は、明確な進路が定まる前の中学年代だから、起業のプロセスを体験することに大きな意味があると話します。

「高校の3年間では具体的に進路を見定め、受験準備にも入っていきます。その前の中学段階で、社会にはどのような職種があって、人々がどのように働いているのか、そして会社がどのような仕組みで事業を推進しているかを肌で知ることで、将来就きたい職業や大学での学部・学科の選択など、生徒が自分のキャリア形成を考える入り口にしたいと考えています。株式会社を立ち上げ、経済や金融の流れを学ぶことで、実社会への興味・関心が広がることにつながってくるのです」

 同校の中3はA~Cの3クラス。1クラス最大2社を起業できます。2023年度はスイーツなど飲食を提供する会社が3社、アクセサリーの物販会社1社の計4社が事業を展開しました。生徒は社長、製造、営業、広報、監査など、一人ひとりが担当する部署・役職に就き、社員全員が協力して会社を運営していきます。元手となる資本金は学年費のほか生徒自身や保護者からも出資を募ります。その事業が本当に成立するか細かい点まで東京証券取引所の担当者からも厳しい精査を受け、事業計画を何度も見直し、商品の仕入れ先、店舗で使う什器類を扱う業者も生徒たちがリサーチして探し出し、ビジネスとして交渉にあたります。

「事業は生徒たちが主体となって話し合いながら進めていきます。例えば商品の仕入れ数の見込みや搬出入の輸送の問題など、学園祭が終了するまで生徒たちは何度もシビアな課題に直面しますが、それを解決するためには当然社員として自ら動かなくてはいけません。自然に協働の意識と個の責任感が生まれていくのを感じます。会社として決算で金額が合わないことがあってはいけませんので、このプログラムを通じて、管理責任もしっかり学んでいけると考えています」

 一般企業と商取引する実体験が、生徒たちのさまざまな能力を伸長させていくと瀬尾先生は話します。

「学校生活のなかでは、まだ子どもらしさを残した生徒が、仕入れ先会社の担当者の方と話す時は、ていねいにしっかり交渉を進めるなど、普段の授業では見られないような生徒たちの隠れた一面が引き出されます。事業を円滑に進めるためには、社内の部署間での綿密な連携も必要です。どのように説明すれば共通理解を図れるかを考えることで、個々のコミュニケーション能力が明らかに向上していきます」

 また、同年代との関係だけでは得られない、実社会に目を向けた幅広い視野も培われていきます。

「中学年代で社会的な責任をもつ機会はほぼありませんが、このプログラムでは、出入金などお金の管理、商品管理、飲食の場合は衛生管理に至るまで、担当する業務に応じた多くの責任が生まれ、取り組んでいる期間は『これでよいのか?』という問いの連続を解決していくことになります。また、日常生活ではお客様側にいる生徒たちですが、逆にお客様に商品やサービスを提供することで、売る側の視点を身につけられます。起業体験は生徒たちにとって社会との関わりの始まりともいえます。自分も社会を構成する一員だと意識することは、将来のキャリア形成への重要なステップなのです」

株主総会。2023年度の4社全てが黒字決算。利益は各社の企業理念にのっとり、フードバンクや難民を助ける会などへ寄付されました。株主総会。2023年度の4社全てが黒字決算。利益は各社の企業理念にのっとり、フードバンクや難民を助ける会などへ寄付されました。
株主総会に向けて東京証券取引所の担当者から総評をいただきました。株主総会に向けて東京証券取引所の担当者から総評をいただきました。
保護者対象の説明会。「起業体験プログラム」は、「普段の学び―実体験―将来」のトライアングルを体現する取り組みであるため、保護者からも高い評価を得ています。保護者対象の説明会。「起業体験プログラム」は、「普段の学び―実体験―将来」のトライアングルを体現する取り組みであるため、保護者からも高い評価を得ています。
事業計画の発表会。各社の事業内容について学年全員で話し合う雰囲気が生まれます。事業計画の発表会。各社の事業内容について学年全員で話し合う雰囲気が生まれます。
起業体験プログラムで得たものは?
小林優里花 さん(中3)アイスクリーム販売 社長
小林優里花 さん(中3)

 私たちのクラスは、学園祭に来場する小学生の女の子たちを顧客に想定して、アイスクリーム販売の会社を立ち上げました。レンタルした冷凍庫を延長しなければならなくなったり、前日納品の予定だった商品が届かなかったりと、当日までトラブルの連続でしたが、自分たちがこうしたいと考えていたプランが、さまざまな部署の人たちが助け合うことで一つひとつ実現していく面白さがありました。

 社員同士が話し合うことで人に伝える力が自分でも成長したと感じています。将来は医療系の道に進むことを視野に入れていますが、どんな形でも人を支えていけるような仕事に就きたいです。また、起業体験をしたことで、大きな目標を立て、小さなステップを一つずつ踏んでいく計画立案が大事だと感じ、日々の学習面にも取り入れていこうと思っています。


小坂莉子 さん(中3)スイーツ販売 監査
小坂莉子 さん(中3)

 私たちのクラスは、マカロンなどのスイーツを販売する会社を設立しました。商品の仕入れ先を探したのですが、最初にあたった数社からすべて断られてしまい、最終的に松戸にあるスイーツショップに協力いただけることになりました。事業計画もショーケースが消費する電力のワット数まで厳しく指摘され、商売の難しさについて身をもって学びました。学園祭当日は、人手が足りなくなり、監査の私も急遽対面販売に入りましたが、「ありがとうございます」という言葉に笑顔で応えてくださるお客様と触れ合うことで、知らない方とも話す力を高められたと感じています。今回の起業体験で興味がわき、大学のオープンキャンパスでマーケティングの模擬授業も受講し、将来は食品の商品開発の仕事をしてみたいと考えるようになりました。

進学通信 2024年4月号
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