私立中高進学通信
2022年特別号
校長先生インタビュー
工学院大学附属中学校
「勉強」は未知の扉を開く鍵
ワクワクしながら学ぼう

明るい吹き抜けの校舎。休み時間には生徒たちの元気な声が響きます。
工学院大学附属中学校に入学した生徒たちは、靴磨きをする校長先生の姿に目を丸くします。「玄関で、ただおはようと言うだけじゃつまらない」という中野由章校長先生。2021年に着任するまでの道のりをうかがうだけでワクワクします。「面白いと思って勉強しなきゃもったいない」と語る中野校長先生がその理由を語ります。
校長室の扉はいつも
開いています

私が校長に就任してから1年間、常に校長室のドアは開いています。やってくる生徒たちと話す内容は、飼っているペットの話から高尾山強歩大会のこと、よろず相談やスクールバスの時間待ちまでいろいろです。行事については、「こうしたらもっと良くなると思う」と、生徒から提案してくれることがたくさんあります。私が校長室の扉を開けているのは、この学校のことをはじめ、いろんなことを生徒目線で教えてもらうためです。大切なコミュニケーション手段ですね。
私はよく新入生のオリエンテーションで「勉強は好き?」と尋ねます。「好きじゃない」という答えが返ってきたときにはいつも、「本当は勉強ってすごくワクワクする楽しいことなんだよ」と話します。新入生は「そんなこと言われてもよくわからない。受験勉強は辛かった」と思うかもしれません。勉強が「やらされるもの」だとしたら、それはさぞかし辛いことでしょう。
でも勉強が「辛い」と思いながら過ごす中学高校生活なんて、とてももったいないと思いませんか?
教員はファシリテーターであり
授業のコーディネーターであるべき
本校の授業は、教員が話す時間が少ないのが特徴です。生徒同士がディスカッションする時間や学んだことをアウトプットする時間のほうが、教員が説明する時間よりも重要だと思うのです。
教員は生徒の伴走者であるべきです。たとえば視覚障害を持つランナーの伴走者は、ランナーの体調や望むことを感じ取りながら、先の道がどうなっているかを知らせます。「こっちだよ!」とランナーを引っ張っていくのではなく、あくまでもランナーの意思を感じ取って支援します。授業でいえば、ファシリテーションし、コーディネートして、授業内容の面白さを伝えるのが教員の役割です。授業の面白さが伝わったら、「勉強しなさい」と言われなくてもやる気になるでしょう?
中学時代の勉強は基礎・基本を身につける上で重要です。それは人生という家を建てるための基礎工事のようなものです。もしも基礎がしっかりとしていなかったら、どんなにいい家を建てても傾いてしまいます。基礎をしっかりと身につけるためにも、中学時代は学ぶことの面白さを知ってほしいと思います。高校生は基礎の上に、自分の好きなことを積み重ねる時期に入ります。それが大学の学部選びや、将来目指すことにつながるはずです。
役に立たないけど面白いことが
人生を豊かにする
生徒から「学校の勉強って、将来何かの役に立つの?」と聞かれることがあります。私の答えは「そんなこと今はわからない。だからこそ面白い」です。
私は大学院修了後、日本IBMの社員を経て三重県立高校の教員になりました。その後、大学の教員として9年勤めました。2013年に神戸市の公立高校の教員になり、2021年4月に本校の校長に着任するのですが、自分の強い意志で道を選択したのは、大学の教員になるときと、神戸市の高校教員に戻るときの2回だけです。それ以外は、そのときどきの出会いや周囲の状況が影響した転向でした。
一方でなぜ、「情報」を専門としたのか?と問われると、単純に面白かったからとしか言いようがありません。通学路にあった電気屋さんでパソコンに触れたとき、「プログラムを自分で書いて動かしてみたい」と思ったことが今の仕事につながっています。今でも世の中の役に立つようなプログラムを書くことはできないけれど、プログラムを書くのは大好きです。
自分の好きなことに没頭する理由を問われて、「社会の役に立つから」と言える人は決して多くはないと思います。むしろ「役に立たないけれど面白い」と思うことこそ、人生を豊かにするのではないでしょうか。
たとえば教員になるつもりがないのに大学で教職科目を履修して何の意味があるのかと思うかも知れませんが、発達科学や心理学などの観点から自分の子育てや自治会活動などで非常に役に立つということがあったりします。勉強したことが、人生において意外なところで役立つことはいくらでもあるのです。
10年後に自分がなりたい
ロールモデルを見つけよう
私は中高時代の教育にはリベラルアーツこそ必要だと思っています。それは「教養」と言い換えることもできます。私は今まで20カ国近くの国際学会で発表をしてきました。英語で論文を書いてきたわけですが、英語は得意ではありません。もっと英語ができたら、海外の人ともっと深いコミュニケーションができるでしょう。片言の英語しか話せないと、その程度の教養と見られることもあります。だからこそ、中高時代には語学はもちろん、幅広い教養を身につける必要があるのです。
ではどうしたら、勉強をするモチベーションを保つことができるのでしょうか? 私の答えは「卒業した10年後のロールモデルとなる人を見つけなさい」です。「こうなりたい」というモデルが見つかったら、大学卒業するまでに勉強すべきことが見えてきますし、中高時代に何をすべきかもわかります。
ロールモデルが見つからない時点では、無数にある未知の扉は閉まっています。そのとき考えられる「将来の道」は、自分の知っている世界に限られていることでしょう。でもロールモデルが見つかったとき、未知の扉はどんどん開いていきます。ワクワクしながら勉強する途中では、目標を変更し、軌道修正したくなることもあるでしょう。軌道修正は大いに結構です。大切なのは、真摯な気持ちで、今、目の前にあることに取り組むことです。その先にはもっとたくさんの未知の扉があり、魅力的な世界も見えてくるはずです。



三重県伊勢市に生まれる。芝浦工業大学工学部で学び1990年、芝浦工業大学大学院 工学研究科修了。日本IBM(株)大和研究所を経て、三重県立名張西高等学校情報科の教員として着任する。「自分の授業を客観的に見て研鑽したい」と思い、2004年に千里金蘭大学へ転身し、その後、大阪電気通信大学へ移籍。2013年に神戸市立科学技術高等学校へ着任。2021年4月から現職。工学院大学教育開発センター特任教授も併任。
工学院大学附属中学校
〒192-8622 東京都八王子市中野町2647-2
TEL:042-628-4914
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