私立中高進学通信
2020年11月号
実践!未来の学び「STEAM教育」
聖徳学園中学校
“Art”にこだわったSTEAM教育で
一生学び続ける力を鍛える
STEAM教育では課題解決に向けて、生徒たちには教科横断的な知識やアイデアが求められます。
「ペーパータワー」が
STEAM教育のヒントに
2017年から積極的に“STEAM教育”に取り組んでいる同校。STEAMとは「科学」「技術」「工学」「芸術」「数学」の英単語の頭文字をとった言葉で、世界が注目する教育法です。
「STEAMに取り組み始めた頃は、まったくの手探り状態でした。海外の学校では1年かけて作品を作り上げたり、ロボットを作ったりしているところもあるのですが、とにかくSTEAM教育が提唱する教科横断的な取り組みを、当時の環境でできることから始めてみようと仲間の先生方と話し合いながら進めていったのです」
そう話すのは、同校の学校改革本部長・品田健先生です。品田先生が“生徒と教員の創造性を高める”という方針のもとで行った最初のSTEAM教育のプロジェクトが「ペーパータワー」でした。ペーパータワーは、8〜10枚の紙を用意してタワーを作り、複数のチームで高さを競うプロジェクトです。このペーパータワー作りは、教室の都合で中1と高1が同じ教室で行いました。そこで品田先生はあることに気が付きます。
「高1生は理屈で考えて組み立てていくのに対して、中1生は理屈で考える前に組み始めて、ある程度のところで『これはダメだ』と判断するとすぐにバラして組み直すのです。結果的には中学生のほうがうまくいったりするのです」
そんな中1のやり方を見て高1は感心し、中1生は高1生を見て『ああすると安定するんだ』と参考にして、お互いに刺激を与え合っていたそうです。STEAM教育を考えるヒントをもらった品田先生は、それ以降、毎年中1と高1の1学期に、ペーパータワーに取り組んでいると言います。
“作品”を作ることで
“伝える力”を鍛え上げる
「どんどん新しい考え方を出していくのもSTEAM教育がめざす方向性の一つだと思うので、生徒の柔軟な考え方を伸ばしてあげたいと思っています。本校はSTEAMの中でも、Art(芸術)の部分にこだわっています。せっかく良いアイデアがあっても、デザインが悪いと相手に伝わらない。それは社会に出てからも起こり得ることですから、今から“伝える力”を磨くことは大切だと考えています。授業で動画を作る課題を出した時は、必ずクラスでシェアしてお互いの作品を見られるようにしています。友達が見ることがわかっているせいか、生徒たちは見せ方にこだわって動画を作ります。生徒は“課題”ではなく“作品(Art)”を作っているのです」
伝える力に加えて、同校が重視しているのが “自分で学ぶ力”です。
「STEAM教育では、課題に取り組むきっかけは与えますが、あとは生徒が自分で調べて考えます。そうした経験は、生徒たちが社会に出て問題に直面した時に、必ず役に立つはずです。自分で調べて考える力があれば、一生学び続けていけますし、未知の状況にも対応できる。そんな人物に育ってくれるようなSTEAM教育を推進していきたいと考えています」
新しい教育法
「STEM」と「STEAM」の違いとは
STEAM教育の前身である「STEM教育」は2000年代にアメリカで始まった教育法です。スマートフォンやAIなどが生活に浸透する時代に対応した人材育成をめざすもので、オバマ前大統領の演説で注目されました。
この理数系科目ばかりのSTEM教育に「創造性・芸術性」を加えて生まれたのがSTEAM教育です。科学的な基礎を育成し、技術や工学を応用して、実社会の問題に創造的にアプローチする人材を育成することが、STEAM教育の基本理念だと言われています。
日本で約100人しか認定されていない
「Apple Distinguished Educator」(ADE)とは?
品田先生も認定を受けているADEは、iPadなどアップルの製品やサービスを使って先進的な取り組みを行っている教員を認定する制度です。認定者を対象とする研修会が毎年行われており、世界中から集まった先生とさまざまな意見交換ができます。
「世界中の先生方と意見交換できるのは、非常に刺激的です。そこで出会った方々とのつながりは、有益でありがたいものですね」(品田先生)
聖徳学園のSTEAM教育プロジェクト紹介
「ペーパータワー」を皮切りに、同校ではSTEAM教育への取り組みとしてさまざまなプロジェクトを行っています。いずれも先生方による創意工夫と試行錯誤の末に生まれたものです。“STEAM教育”を考えるうえでのヒントが詰まったプロジェクトです。
⃝クレイアニメーション制作
中1で取り組む映像制作プロジェクト。シナリオ作成には国語、クレイ(粘土)造形には美術、BGMをつけるなら音楽など、教科横断型の学びが必要とされるSTEAM教育の第一歩にふさわしい課題。
⃝Mars Game
映画『オデッセイ』(2015年・アメリカ リドリー・スコット監督、マット・デイモン主演)をヒントに、火星に取り残された宇宙飛行士を助けるか、助けないのかをグループで話し合い、声明文を作成するプロジェクト。
⃝コンビニ経営シミュレーション
コンビニのある商品の発注数をさまざまな条件から推測し、利益の最大化を考えるプロジェクト。求めるのは「利益」なので、仕入れ値や在庫などの収支も考える必要があります。コンビニの立地や季節、曜日なども考えて表とグラフを作成します。
⃝授業のワンポイントレッスン動画
解説する自分と背景の画像を合成して、授業の30秒のワンポイントレッスン動画を作成します。題材となる教科は生徒が自由に選びますが、動画作成には内容の理解が求められるので、生徒にとってはその教科の復習にもなるプロジェクトです。30秒の時間制限があるため、撮影者やタイムキーパーなどを担当する協力者が必要となります。
⃝動画で外国語学習
動画を撮影しながら言葉を話すと、自動的に字幕がつくアプリを使って、外国語の教材を作るプロジェクト。題材となる外国語は自由に選び、まず生徒がGoogleの翻訳機能などを使って外国語の発音を練習します。正しく発音しないと字幕が表示されないので、生徒は正しい発音を意識するようになります。
⃝グアテマラへの講義動画
中米グアテマラの教育水準の改善をめざして生徒たちが作る英語の講義動画。一見するとハードルが高いと思われますが、板書作成や画像合成、字幕作成など、それまで使用してきたアプリを総動員することで、プロジェクトをクリアする道筋が見えてきます。
(この記事は『私立中高進学通信2020年11月号』に掲載しました。)
聖徳学園中学校
〒180-8601 東京都武蔵野市境南町2-11-8
TEL:0422-31-5121
進学通信掲載情報
PICK UP!!
紹介する学校
- 「志」を育む教育で将来を切り拓く力を引き出す足立学園中学校
- 中1から主体的な授業を実践個性が光るプレゼンテーション京華中学校
- 多彩なテーマの少人数ゼミと企業探究ゼミが本格始動佼成学園女子中学校
- STEM教育の第一歩楽しく学ぶプログラミング駒込中学校
- 自ら課題を見つけ解決する新たな探究教育「未来デザイン」実践女子学園中学校
- SSH実績を探究学習へICTによる協働でさらに進化芝浦工業大学柏中学校
- 未来を切り拓く創造力を養う2つの探究型授業芝浦工業大学附属中学校
- 企業とのコラボレーションでSDGsを学ぶ探究学習十文字中学校
- “Art”にこだわったSTEAM教育で一生学び続ける力を鍛える聖徳学園中学校
- IB×SDGsで培われる生涯にわたり学び続ける力昌平中学校
- YouTubeで公開した理科の実験動画生徒に驚きと感動を届ける城北中学校
- 違いを認め合うことから始まる自己表現力の育成女子聖学院中学校
- 最大の行事『女子美祭』で創造力と個性を磨く女子美術大学付属中学校
- 伝統ある学校だからできる人間力を育む多彩な教育成城中学校
- 「生徒ファースト」で創り上げてきた西武台式アクティブラーニング西武台新座中学校
- ICT活用で生徒と教員が情報共有問題点をリアルタイムで解決聖望学園中学校
- Artを重視したSTEAM教育課題解決力を伸ばす玉川学園中学部
- 感性を刺激する授業で培われる主体性と数学的思考力田園調布学園中等部
- 宗教倫理の授業で探究するいのちの「尊厳」東京純心女子中学校
- 大学付属校だからできる中高大連携授業の深い学び東邦大学付属東邦中学校
- 探究学習『思考と表現』論理的思考力と表現力を修得トキワ松学園中学校
- 自分で選ぶから面白い生徒主体の教育で育む学ぶ力ドルトン東京学園中等部
- 本を手掛かりに、思考の幅を広げる高2生の『探究型読書』富士見中学校
- ICTを積極的に活用し世界規模の問題に取り組む富士見丘中学校
- 唯一無二のチームで挑む国際的なロボット競技会普連土学園中学校
- AI教材を導入した数学PBLを展開する「未来の教室」武蔵野大学中学校
- 中学3年間の探究で大きく成長翠陵グローバルプロジェクト横浜翠陵中学校
- 2020年2学期より新校舎での新しい学びがスタート!横浜創英中学校
- 他者と議論し、分析的思考力を高める言語技術教育麗澤中学校