私立中高進学通信
2020年11月号
実践!未来の学び「言語技術」
麗澤中学校
他者と議論し、分析的思考力を
高める言語技術教育
1冊の本をクラス全員で読み合い、解釈し、議論していく『言語技術』の授業では、
1人1台所有するChromebookが、意見の共有や論拠のまとめに活用されています。
『言語技術』は
すべての学習の基盤
「こころ」の伴った知識や技術を、他者や社会に活かす『知徳一体』を教育理念に掲げ、国際社会で活躍する人の育成に努めてきた同校。自信を持って自分の考えを発信するため、すべての学習の基盤として「ことば」の教育を重視しています。
その中心を担うのが『言語技術』の授業です。同校独自の科目で、中1から高1まで、週1時間学びます。『言語技術』とは、欧米の国語教育の中心となっているLanguage Arts(言語技術)教育とLiterature(文学)教育を、日本の学校で実施できるようにと、同校が17年前から始めた教育手法です。
言語技術教育を国内に広めた「つくば言語技術教育研究所」の全面協力を受け、同校の教員が実践・研究を深め、2004年度から6年間、研究開発校として文部科学省の指定を受け、生徒の言語力向上をめざすカリキュラムを確立しました。近年、言語技術教育を導入する私立中高一貫校が増えていますが、同校はその先駆けなのです。
自ら問いを立て
答えを導くスキル
『言語技術』の授業は、いわゆる「国語」の授業とは、まったく異なります。『言語技術』は、意見を交わし、議論することが授業の中心となり、発表したり、説明文や論証文を書いたり、アウトプットを重視するのが特徴です。
自分と違う意見を持つ人と議論ができるようになるためには、まず、自分の「意見」と、それを支える事実やデータなどの「根拠」、そして「論拠」による裏づけが必要です。『言語後術』の授業では、その力を段階的に学んでいくのです。
中1の導入段階では、教員とゲーム的な問答をしながら、議論の土台を作ります。教員が読む物語を聞いてメモを取り、原稿用紙に自分なりに再現して書く『再話』、絵をじっくりと見て、込められたメッセージについて議論しながら読み解いていく『絵の分析』などの取り組みを行います。
こうしたトレーニングを続けることで、「聴く・読む・書く・話す」の運用能力が鍛えられ、最終的には洗練された論文を書く力や説得力のあるプレゼンテーションをする力、根拠に基づいた深い議論をする力が身についていきます。
『言語技術』を通して身につけさせたいのは、未来で活きる課題設定力や論理的思考力・判断力・表現力です。同校の卒業生からは「大学や社会に出てから、『言語技術』の授業によって、社会で必要とされる力が身についていると実感した」と、その成果を高く評価する声が多く寄せられています。
独自の授業!
1冊の小説を深く読み分析する『ソクラティック・セミナー』
高1の『言語技術』の授業では、ブラジルの作家パウロ・コエーリョの小説『アルケミスト』を約2カ月かけて分析します。生徒たちが読んで感じた疑問を挙げ、それについて解釈を出し合い、ディスカッション形式で授業を進めます。これは、アメリカで実践されている、生徒主体の議論『ソクラティック・セミナー』と呼ばれるものです。
この日は、作中で主人公の少年が一緒に旅をするアルケミスト=錬金術師が意味するもの、そして作者が伝えたい作品の主題について議論しました。
教室の座席は三重の円形になっていて、グループごとに座ります。円の中心にいる生徒がスピーカー役になり、その後方、外の円にいる複数の生徒が、スピーカー役の発言をサポートします。
作品の解釈は思いつきや好き嫌いでは説得力がありません。なぜそのように考えるのかという根拠を、登場人物の台詞や文脈、情景描写などから組み立て、説明して「論証」する必要があります。
教員は、生徒の議論を促すファシリテーター役に徹します。羊・パン屋・クリスタル商人・錬金術・金など、作中で描かれるものが何を象徴するのか、生徒自身が見つけられるよう、ヒントを出していきます。
グループでの相談と発表を2回繰り返すと、グループごとの主張に共通点が見出せそうでした。分析は次の授業でも引き続き行います。
キーワードとなる表現や考えたことをメモし、Google Meet(※)のチャットに投稿し、瞬時に共有します。
※Google Meet…Googleアカウントを利用して使えるWeb会議サービス。Googleの授業支援ツール「Google Classroom」と連携して使用します。
先生からの一言
コロナ禍の今だからこそ
主体的に考える力が求められる
北岡 希久朗 先生
本校の卒業生は「言語技術は大学に進学してからの学びや実社会での仕事に役立つ」と言ってくれます。分析を通して具体と抽象の概念を理解し、時間をかけて深く議論した経験をすると、物事の本質を掴む力が身につくからではないでしょうか。また、「論拠」に対する意識付けができていることも、彼らの強みです。他者と根拠が同じでも、文化的背景や経験など、コンテクストの違いから解釈が異なることがあります。ですから、相手には、理由付けである「論拠」を伝えなければなりません。これは社会に出ても、国際社会でも必要な大切な力です。
『言語技術』の授業で
他者を尊重できる心の力を育む
廣中 富士子 先生
新型コロナの影響からか、論理に基づいた議論を避け、互いにわかり合わないまま、物事が進んでいく風潮が世界的にも強まっているように思います。そこから生まれる根拠の偏った恐怖心は、時に人間から大切な判断力を奪い取ります。
しかし、受験を控えた本校の高3生は落ち着いています。それは、『言語技術』の授業で、自分とは異なる他者の立場や考え方の違いを知り尊重することを学んだからこそ、信頼し合い、安心して、自分が次代のために今すべきことに集中できているのだと思います。
(この記事は『私立中高進学通信2020年11月号』に掲載しました。)
麗澤中学校
〒277-8686 千葉県柏市光ヶ丘2-1-1
TEL:04-7173-3700
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