私立中高進学通信
2020年11月号
実践!未来の学び「総合探究」
東京純心女子中学校
宗教倫理の授業で探究する
いのちの「尊厳」
図書館で探究学習を進める生徒たち。
ソーシャルディスタンスを保ちながら、集中して取り組んでいます。
技術革新がもたらした
課題を掘り下げる
『叡智・真心・貢献』の3つを教育の柱に、キリスト教精神に基づく教育を実践している同校。自ら学び、ともに考え、未来を切り拓く次世代型グローバルリーダーの育成に力を注いでいます。
複雑化し、簡単には答えを見い出せない課題が多い現代社会では、物事をさまざまな角度から検討し、状況を把握し、思考を巡らせ、最善の解を見い出す力が求められます。とくに、生命技術の飛躍的な発展により、新たなテクノロジーが人々に利便性をもたらす一方、人の尊厳や哲学・倫理観をゆさぶるような問題も広がっています。高2生はそのような「生命倫理」をテーマに、1年間をかけて情報活用能力や思考力、判断力を身につける探究学習に挑戦しています。
指導にあたるのは、宗教科の松下須美子先生と高校司書教諭の北嶋正子先生です。生命倫理に関する諸問題の理解を深めるには、さまざまな資料に触れることが必要です。時には他分野の書籍や、文学作品にまで検討する範囲を広げることもあるため、探究学習の授業は図書館で実施しています。
コロナ禍でも可能な
個人ベースの探究学習
例年、グループで探究を進めますが、今年度は4月から休校となり、学校での探究ができませんした。学校再開後も、グループで議論しながらの学習は難しそうです。
そこで、松下先生と北嶋先生は自宅で、個人でも探究を進める方法はないかと議論を重ね、基本文献を抜粋したオリジナルの『基本テキスト』を作成し、学校から生徒一人ひとりに郵送しました。生徒はこのテキストを読んで、疑問を書き出し、質問リストを作成。教員にメールで提出することを課題としました。この対応のおかげで、6月に学校が再開した後も、スムーズに個人探究を続けることができました。秋には、中間報告のポスターセッションに向け、資料をまとめて、プレゼンテーションを行います。そして、今年12月には2000字のレポートにまとめる予定です。
約1年間をかけて、真摯に「生命倫理」に取り組む生徒たちの探究は、コロナ禍の現在だからこそ「命」に対する意識が高まり、深みを増していきそうです。
個人テーマに合わせて
専門性の高い文献へ
探究学習「生命倫理」の大テーマ
- 出生前診断と障がい
- ヒト胚の操作
- 終末期医療
- 脳死と臓器移植
- 生殖補助技術(代理出産など)
生命倫理の探究では、松下先生が設定した5つの大テーマ(右表参照)の枠の中で個人テーマを立てます。コロナ禍での休校中の4月・5月は、5つの大テーマに関する基本文献を抜粋し再構成した『基本テキスト』5冊と、個人テーマを作るまでの道筋を示した『自宅学習マニュアル』を生徒の自宅に送りました。
自宅課題は基本テキストを読んで問いを作ることです。課題ができた生徒は教員とメールのやりとりをしながら個人のテーマを決めていきます。休校中に図書館では、より専門性の高い文献を一人ひとりのテーマに合わせて用意しました。
中間報告に向けて
結論の根拠を固める
学校再開後、個人テーマに即した文献を読み解きながら結論を予測し、結論を裏付ける根拠を探していきます。「生命倫理」の大テーマは、正しい解や結論があるような課題ではありません。自分なりの結論を、どのような根拠を持って裏付けるかを模索することが学びになります。自分で論理的な道筋で考える、改めて資料をていねいに読み込む、反対の見解を示している文献に当たるなど、結論を模索する方法はさまざまです。
教員はファシリテーターとなって、生徒の疑問を受け止めたり、新たな文献を紹介したりします。
秋からは結論と結論を下支えする根拠をまとめ、中間報告のポスターセッションを行います。
先生からの一言
学校だからこそ真剣に向き合える「命を大切にする」とは
探究学習の要はテーマ設定です。生徒たちは高1の段階で、テーマの作り方について時間をかけて学んできました。そのため、休校中でも自宅学習で個人テーマを立てることが可能になりました。高1で探究のサイクルを一通り体験しているからこそ、生命倫理に挑戦できます。
カトリックの教えに「すべての命を大切にする」ことがあります。しかし、具体的に命を大切にするとはどのようなことか、考える機会は少ないのが現状です。現代の命にかかわる諸問題を取り上げ、自分たちの人生にどのような意味があるかを考える機会を提供したいと取り組んでいます。
(この記事は『私立中高進学通信2020年11月号』に掲載しました。)
東京純心女子中学校
〒192-0011 東京都八王子市滝山町2-600
TEL:042-691-1345
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