私立中高進学通信
2019年特別号
注目のNEWS and TOPICS
鷗友学園女子中学校
クラスもクラブ活動も異なる5人が
広告の中に潜む"女性差別"と向き合った
女子高生だけの熊本サミット参戦記

『女子高生サミットin KUMAMOTO』の開会式。
2019年11月16日、全国から5つの女子校が集結して開催された『女子高生サミットin KUMAMOTO』(以下、熊本サミット)。サブタイトルは「ガールズパワーがこの世界を変えていく。」です。熊本県内の高校生や一般の参加者が約350名集まったこのイベントには、発起人である熊本信愛女学院(熊本県熊本市)をはじめ、賢明女子学院(兵庫県姫路市)、セントヨゼフ女子学園(三重県津市)、南山女子部(愛知県名古屋市)、そして、東京都から鷗友学園女子が参加しました。
「積極性の連鎖」の中で最初の一歩を踏み出した生徒たち

2018年に社会問題となった、いわゆる"医学部入試の女子受験生差別問題"をきっかけに、熊本信愛女学院の生徒たちが企画したプロジェクトが熊本サミットでした。「なぜ男子と女子の扱いに差があるのか」。このような疑問を抱いた同校の生徒たちが、全国の女子高生たちにサミットへの参加を呼び掛けたところ、鷗友学園女子からは35名の高1の生徒たちが手を挙げました。
広報部の若井由佳先生は次のように話します。
「2019年度の高1の学年テーマは『積極性は連鎖する』で、これは海外の研修旅行に参加した生徒が発した言葉です。またある生徒は『まだ誰も踏み出したことがない世界に挑戦するには勇気が必要。私はその最初の一歩を踏み出せる人になりたい』と話します。
今回、熊本信愛女学院からの呼びかけに35名もの生徒が応じたのも、このような学年特有のポジティブな雰囲気の中から生まれた必然であったのかもしれません。教師たちの気持ちとしては、手を挙げた生徒全員を熊本サミットに送り出したいという思いは当然ありましたが、そこはぐっと堪えて選考することに。まずはくじ引きで5人ずつのグループをつくるところから始めました。最終的に校内コンペを開催し、7つのチームが高1全員の前でプレゼンを行った後、生徒間投票により選ばれたメンバー5人が今回の熊本サミットへ参加しました。熊本サミットに参加した人も、参加に至らなかった人も、それぞれが積極性の連鎖の中で最初の一歩を踏み出したことを、私たちは高く評価したいと思っています」
通学途中に目をする広告から感じた「これって女性差別?」

鷗友学園女子の代表となった5人が着目した題材は「広告」でした。テレビやネット上の広告をはじめ、雑誌や新聞に掲載された広告、毎日の通学の際に目にするバスや電車内の車内広告、さらには、駅のホームなどから自然に目に飛び込んでくる看板広告などに描かれた"女性の描写"に、どことなく違和感を持ったからでした。そのポイントについて、A・Iさんが代表して解説してくれました。
「例えば、世の中には『イクメン』という言葉が浸透していますが、そもそもこの言葉は女性が育児をすることが前提で使われているように思います。育児をして夫だけが褒められるという内容の広告は、ちょっとおかしいのではないかと感じました」
広告が与える影響力の強さについて懸念した5人は、積極的に時間をつくって打ち合わせの場を設け、議論を重ねてテーマ設定に至りました。それが今回、鷗友学園女子が取り組んだ『広告から見る女性差別』です。
5人はクラスも違えば、クラブ活動も異なるため、あまり話をしたことがない間柄でした。それだけに5人が1つのテーマを共有しながら、自分事として掘り下げていったところに興味深いものがあります。
「自分の夢や将来を考えるきっかけになればと思い、今回の募集に手を挙げました。自ら進んで議論をするタイプではないので、自分にとっては大きな挑戦でした。チームで話し合いを重ね、試行錯誤して形にするのは大変でしたが、とても楽しかったです」(М・Nさん)
女性誌やCMが押し付けるステレオタイプの女性観にも言及
参加校の生徒たちは熊本サミットの当日までWeb会議を通して意見交換を続け、どうしたら男子高校生や大人たちに自分たちの思いが伝えられるかを模索し続けました。
参加校の中で唯一「高1のみのチーム」であった鷗友学園女子では、来場者の関心を引き付けるため、『女子高生たちの朝のひとコマ』と題した寸劇からスタートすることに決めました。
寸劇では、朝起きてから学校に行くまでの日常の中に、どのようなステレオタイプの女性観があるかを表現しました。普段何気ない友達との会話の中にも、ジェンダーの問題が潜んでいることがわかります。
いざ本番。鷗友学園女子の研究発表は、おむつの広告を題材に、育児への既成概念やワンオペ育児の問題点を見せ、女性誌の特集やCМが押し付けるステレオタイプの女性観にも言及する多角的な視点に立つものでした。加えて、表現の自由にも触れながら、多様性を認め合い、社会の問題と向き合うことの必要性を強調したところにも独自性がありました。生徒たちは研究発表の最後に、「おかしいのではないかと声を上げ、まちがった常識を変えていきたい」と宣言。来場者から大きな拍手が送られました。
「今度は男子高生の意見も聞いてみたい」という感想も

研究発表テーマは『広告から見る女性差別』。ジェンダーの意識は、地方と東京でも違いがあることがわかりました。
今回の熊本サミットに参加した5人のメンバーから感想を聞きました。
「熊本信愛女学院の方々から、『ここまで大きな大会にできるとは思わなかった』という喜びの声を聞き、自ら主体的に動くことでたくさんの人を巻き込む力が生まれることを実感しました。私も"鷗友学園発"で何か始めたいと思いました」(M・Aさん)
「ネットの反響を見ると、私たちのプレゼンを高く評価しているコメントもある一方で、ちょっと論点が違うのではとの意見もありました。発信者としての責任を感じると同時に、自分の意見をしっかりと持つことの大切さを改めて教えてもらった気がしています」(A・Iさん)
「今回の熊本サミットを体験してみて、今度は男子高校生の意見も聞いてみたくなりました。女子高生だけのサミットから発展した形の、新たなサミットを企画できたらおもしろいと思っています」(S・Aさん)
「鷗友学園女子以外の学校はすべて高2の先輩たちばかりでしたが、サミットに参加したことで、これまでにない全国規模のネットワークが生まれました。これからは日本の高校生だけじゃなく、海外の高校生も交えたサミットができるといいなと思っています」(M・Nさん)
「参加する前と後では、広告を見る目が大きく変わりました。他校の発表を聞く中で、新たな視点と言いますか、今後につながる気付きや発見もたくさんありました。参加して良かったです」(H・Tさん)
活発な“ヨコの関係”から生まれる「鷗友発」新たなイノベーション

熊本サミットでは、各校の生徒とのパネルディスカッションも行われました。
さまざまな地域に住む女子高生の意見から、大きな刺激を得られます。
最後に、生徒の感想をうなずきながら聞いていた若井先生に、総括していただきました。
「熊本サミットに参加した5人だけでなく、校内コンペに参加したどのチームのメンバーも、お互いにあまり話をしたことがない生徒同士の集まりでした。関わったことのないメンバーが集まると、さまざまな視点から新たな発想が生まれることを、私も改めて実感することができました。これからも本校に入ってきた生徒には、いろんなことに挑戦してもらいたいと思っていますし、多様な価値観と出合うためにも、どんどん外に出かけて行ってほしいですね。今回の熊本サミット参加は、熊本信愛女学院さんからの声掛けによるものでしたが、だからといって単なる"お呼ばれ"ではなく、鷗友学園女子らしい活動になったと思って高く評価しています」
中学で実施している「3日に1回の席替え」など、女子ならではの成長段階を見極めた独自の教育にも力を入れている鷗友学園女子。クラスやクラブ活動が一緒でなくても、活発な"ヨコの関係"から生み出される新たなイノベーションは、今回の熊本サミットのような「他流試合」でも強みを発揮したようです。
熊本サミット当日の各校の発表テーマ
- 熊本信愛女学院『ジェンダー形成と教育』
- 賢明女子学院『誰もが能力を活かせる社会づくり』
- セントヨゼフ女子学園『世界の女性の働き方について』
- 南山女子部『働く女性と家庭』
- 鷗友学園女子『広告から見る女性差別』
鷗友学園女子中学校
〒156-8551 東京都世田谷区宮坂1-5-30
TEL:03-3420-0136
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