私立中高進学通信
2019年特別号
私学中等教育の魅力
江戸川学園取手中学校
「道徳教育」を軸に深化と挑戦を続ける
心豊かなリーダーを育成

江戸川学園取手中・高等学校 竹澤 賢司 校長先生
開校以来、『心豊かなリーダーの育成』を教育理念に掲げてきた“江戸取”。その教育の特色を示すものに「道徳教育」があります。“規律が人をつくる”との強い信念のもと、学校を挙げて取り組んできた伝統の道徳は、「深化と挑戦」という名の新たなタームに入っても輝き続けています。
規律を大切にする江戸取がこだわった
開校時からの道徳
――今春、併設小学校からの入学者が初めて加わり、新たな歴史の幕を開けました。開校から42年、第2タームに入って2年目となる今年度、その準備段階から携わってきた竹澤先生に、当時の思いについてうかがいます。
母体である「学校法人江戸川学園」のルーツは、1931(昭和6)年4月、創立者の松岡キン先生が、東京・小岩のご自宅に『城東高等家政女学校』を開校したところから始まります。この女学校が現在の『江戸川女子中学校・高等学校』(東京都江戸川区)です。大学を卒業した私は同校の国語科教員となりました。
その学園の50周年記念事業として計画されたのが、共学の進学校を作るプロジェクトでした。これが1978(昭和53)年に、茨城県取手市に開校した『江戸川学園取手高等学校』です。中学校はそれから9年後、1987(昭和62)年に開校しています。私は開校前年からこの壮大なプロジェクトに参画する機会を得て、休日や長期休暇などを利用しては当地に足を運び、「学校を作る」という教員としてはこの上ない喜びを全身で感じながら心地良い汗を流しました。当時の私はまだ20代の青年だったこともあり、本校に対する思い入れは、今でも誰にも負けないものがあると自負しています。
――開校以来、貴校は教育理念『心豊かなリーダーの育成』とともに、教育方針『規律ある進学校』を掲げて現在に至ります。その狙いについてお聞かせください。
ひと言でいえば「規律が人をつくる」という強い確信のもとにスタートした学校だからです。具体的には、「心力」「学力」「体力」のバランスのとれた三位一体の教育をめざして邁進しています。時おり“規律でしばる学校では?”と心配される方がいらっしゃいますが、そのような方には、「本校は“規律でしばる学校”ではなく、“規律を大切にする学校”です」とていねいにお伝えしています。
一方、心豊かなリーダーになるためには、本校が教育の礎としている「道徳教育」は欠かせません。道徳の授業、校長講話、ロングホームルームでの教員の講話などを“心の教育”と総称して、本校では力を入れています。
大人である教員をはじめ、中1から高3までの多様な人々が同じ時を過ごす学校はまさに社会の縮図です。生徒も教員も、道徳的価値観や人間としての生き方を模索し、良き行いはすぐに実践していく姿勢を、本校では大切にしています。新学習指導要領では、道徳の授業を「特別の教科道徳」として教科化され、今年度から実施することになっています。本校では「道徳」の授業を、42年前の学校創設時から教育の土台とし、とくに中等部開設に合わせて心の教育の柱として実践しているところに大きな特色があります。
“6人の偉人”から生き方・思想を学ぶ
世界型人材の卵たち

「世の中は、知恵があっても学があっても、至誠と実行がなければ、事は成らない」~二宮尊徳の言葉
――一連の「道徳教育」の大きな柱の一つが、竹澤先生が講師を担当する中1の「校長講話」です。本日のテーマは『対人関係力……二宮尊徳に学ぶ』というものでした。校長講話は年6回あり、今回の二宮尊徳のほか、野口英世、エイブラハム・リンカーン、孔子、マザー・テレサ、福澤諭吉と、計6人の偉人たちの名がテーマと共に並んでいます。
ご存知のように二宮尊徳は、内村鑑三が自著『代表的日本人』を通して、英文で世界に知らしめた偉人の一人です。生涯で620もの町村の財政再建を成功させ、数多くの農民たちを救済し、尊い69年の生涯を終えました。その功績で興味深いのは、尊徳が再建事業に取り組む際、まず初めにそこに住む人々に、人の道を教え諭すことから始めた点です。つまり、農民たちの心に道徳の種をまき、心を耕すことを通じて財政再建を果たしたのです。「道徳なくして改革ならず」。その教えに古さも新しさもないと私は思っています。
――心身ともに成長著しい中学時代だからこそ、偉人たちの言葉を通して、自分の中に一本、筋の通った型を作る必要があるのですね。
本校の生徒は登校時、校門で一礼をしてから各教室へと向かいます。これは強制的に行わせているわけではありません。“心の型”が備わったことで自ずとそうなったのです。ちなみに本校の朝は早く、多くの中学生は8時までには席に着き、朝読書をする習慣が身についています。朝の早い生徒にだらしのない生徒はいないというのが私の持論であり、確信です。
興味深い二宮尊徳の教えの一つに「道徳のない経済は犯罪である」という言葉があります。極端な表現ではありますが、経済活動における道徳の必要性を説いたその言葉は、渋沢栄一、安田善次郎、松下幸之助、豊田佐吉といった世界的リーダーたちの生き方に影響を与えました。まだ幼さが残る中等部1年生を相手とする校長講話ですが、大学進学からその先のステージで、心豊かなリーダーとして活躍するからには、「世の中は、知恵があっても学があっても、至誠と実行がなければ、事は成らない」との尊徳の言葉を、身をもって体現していってほしいと願っています。
――約1時間に及ぶ講話でしたが、その間、一人も私語を発することなく、全員が竹澤先生の話に耳を傾け、とくに集中してメモを取る姿が印象的でした。

今年度は総勢303名が入学しましたが、そのうち63名が併設小学校からの入学者です。彼らは小2で転入してから5年間、学園の教育理念である『心豊かなリーダーの育成』に関するカリキュラムを、幼いながらも実践してきています。一方、前年度に比べて狭き門となった分、中学からの入学者も相当な覚悟で学校生活に臨んでいます。両者は特別なライバル関係にあるわけではありませんが、互いに触発し合う雰囲気は、本校の新たな特徴になったと言ってもいいでしょう。そんな生徒たちの輝かしい未来のために、本校では「ニュー江戸取」として建学の精神に基づいた『世界型人材の育成』を掲げました。
――世界型人材の育成とは、まさに6人の偉人たちの生き方、功績とも重なって興味深いものがあります。
実は“世界”というキーワードは、創立時から建学の精神を表現した「世界を築く礎」として、校歌の歌詞に詠われています。一番の歌詞は、「はるかに富士を望み見て 大利根川の水に聞け 世界を築く礎の おのれの道を究めつつ 競い集わん いまいまここに集わん ああ学び舎 われらの学園」とつづられています。すでに世界は遠い存在ではありません。それを教えてくれるのが6人の偉大な先人たちなのです。彼らの生き方や教えを通して、世界型人材としての使命と責任を果たすことに努力してほしい。その先にこそ、一人ひとりの輝く世界が待っていると思っています。
よりグローバルにアカデミックに
新型の海外研修も登場
――先日、オーストラリアから21名の生徒と引率教員3名が来校し、両国の文化交流が行われたとうかがっています。中等部、高等部ともに、国際交流や海外研修が盛んに行われている現在の状況について教えてください。
オーストラリアの現地校との交流はすでに30年以上になります。今回は在校生の家庭で4日間のホームステイを体験してもらうなど、これまで以上に親密で内容の濃い国際交流になりました。合唱部の生徒たちは歓迎セレモニーでオーストラリアの国歌を歌い、童謡の『朧(おぼろ)月夜』も披露していましたね。両国の生徒の中には普段からSNSを通してつながっており、共に学び合う良き仲間同士でもあります。
学校設立から42年を経た今、海外プログラムも発展的に深化しています。その一つが、ニュージーランドの『オークランド短期留学』であり、アメリカの『アメリカ・メディカル・ツアー』です。前者は、オーストラリア短期留学の定員超過が毎年続いているために発展的に新設したものです。後者は、本校の『医科コース』で学ぶ生徒に特化した専門性の高い海外研修です。
――『アメリカ・メディカル・ツアー』は、他校にもあまり例のない“江戸取”のまったく新しい顔ですね。
研修先は、世界大学ランキングでも上位に位置するカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)です。現地では4人のドクターが研修を担当してくれることになっていますが、そのうちの一人は本校の卒業生です。当初はまったく気がつかなかったのですが、実は世界型人材がここにもいたのです(笑)。UCSDはノーベル賞受賞教授も多数在籍している大学で、世界最先端医学の研究に触れることができます。また、同大学生とのキャンパスツアーやパネルディスカッション、日本人研究員によるプレゼンテーションも行われます。開校から42年を経て第2タームに入り、医療分野における世界型人材の育成も本格的に始まっているというわけです。
――貴校にはグローバルな視野の獲得を狙いとする、ユニークな『アメリカ・アカデミック・ツアー』もあります。
アメリカ東海岸の3都市(ワシントンD.C.・ボストン・ニューヨーク)を巡るアメリカ・アカデミック・ツアーは、本校の国際教育の集大成と位置づけています。2020(令和2)年3月の開催で早くも7回目となります。中1~高2の希望者が対象ですが、年々その数が増えており、この機会を利用して世界的視野を身につけようという生徒たちの志の強さを感じています。ハーバード大学で博士研究員として活躍している本校の卒業生の話をはじめ、マサチューセッツ工科大学のキャンパス見学やミュージアム研修、さらには、国際連合本部での研修など、他に類のない充実したアカデミックな内容が自慢です。
――貴校では、2016(平成28)年から、『東大コース』『医科コース』『難関大コース』に進むことを前提とした“ジュニアコース”による3コース制がスタートしています。生徒一人ひとりが初志貫徹の志も高く、6年間、目標を持って学べる環境が整っている点にも注目しています。
目標を持って学べるからこそ、自分と世界とのつながりを学校外で楽しむ生徒たちが増えているのでしょう。その象徴的なものが、文部科学省が推奨する『トビタテ! 留学JAPAN』です。今年度は7名の生徒が応募し、そのうち3名が選考を通過しました。8月から、それぞれが長短期の海外留学に出発します。
また、一般社団法人日米協会が主催する『第2回 アメリカボウル大会』にチャレンジする生徒も出てきました。日本人高校生を対象に、英語で進行するゲームを通して、アメリカの歴史・文化、あるいは、日米関係についての基礎知識を学んでいくものです。このような学校外の取り組みがあることを学校側が積極的にアナウンスすれば、生徒たちは関心を持って挑んでいくものです。やはり学校という場所は、時代に関係なく常に学びのプラットフォームでなくてはならないと思っています。
主体的に外に出て学ぶ
一人ひとりに価値のあるアフタースクールも定着

大切なことは、道徳を基盤とした行動が教える側にも伴っていること。
師弟同行の姿を生徒たちに見せること。
――学校から一歩外に出て、学びのフィールドを広げるというプラス思考の取り組みは、生徒一人ひとりのモチベーションアップに直結するものだけに、竹澤先生が常に強調する「第2タームは生徒たちの自主性、主体性を育成する」との言葉にもつながります。
一昨年から本校は、教職員の働き方改革に取り組むとともに、それに見合った教育改革にも着手してきました。その一つの好事例が、50分授業から45分授業への移行です。当初は反対する教員もいましたが、移行してみたところ実に効果的な授業になることが実感でき、各教科でこれまで以上にアクティブな双方向型の授業が定着しています。また、今年度の新入生から全員にタブレット端末を持たせていますので、ICT教育の効果によって学びの質は今後もさらにレベルアップすることは間違いありません。
このような革新的な流れが明確にあるのも本校の特徴であり、まったく新しい学習プログラムも生まれています。それが、授業時間の短縮を受け、新たに導入した『アフタースクール』(自由選択講座)です。1日当たり約1時間、自由に使える枠が増えたことによる主体的な学びの場で、その導入目的は、これからの社会で活躍できる力、自ら課題を発見し、他者と協働し、答えを作り出す力を持つアクティブラーナーの育成にあります。
――『アフタースクール』には、どのような自由選択講座があるのでしょうか?
大きく分けると、学習系・英語4技能系・実験系・合教科系・芸術系・アクティビティ系・イベント系・フィールドワーク系・インターンシップ系の9系統です。今年度は全部で157の講座があります。オンラインスピーキングで世界中の若者とコミュニケーションをとる生徒もいれば、模擬国連や模擬裁判の選手権に嬉々として出場する生徒もいます。一方、高大連携による高度な実験や、企業、医療機関とのコラボレーションを通して、社会との接点を積極的に広げる生徒もいます。授業以外の学びの場を充実させることは、生徒が主体的に学び、伸びようとする芽を存分に伸ばすことに直結するものなのです。
――日々生徒たちのために全力を傾ける先生方にとっても、良い影響をもたらすのではないでしょうか。
むしろそこが大事なのです。教員たちが疲弊してしまうと、生徒たちに大きな迷惑が掛かりますからね。ちなみに、毎週水曜日はノー残業デーとし、私を含め教職員全員が早帰りをします。生徒たちは特別なケース以外は17時下校となります。外部の研修に出かけていく教員もいれば、多忙で読むことができなかった本を改めて手に取る教員もいます。また、自身の専門分野の研究に取り組む教員もいるでしょう。このような“江戸取流”の働き方改革はすべて、「生徒の夢は学校の目標」と明言する私たちからの、生徒たちへの誓いの裏づけでもあります。
師弟同行の姿で生徒と共に歩み続ける
「深化と挑戦」の江戸取
――学校創設時から携わってこられた竹澤先生として、今後の学校運営をどのように考えているのでしょうか。
生徒は入学から卒業という期間で入れ替わりますが、教員たちは生徒よりもはるかに長い時間を、江戸取という環境の中で過ごします。だからこそ教員は、これから先も生徒と一緒に心を磨いていく必要があるのです。大切なことは、教える側にも道徳を基盤とした行動が伴っていることです。もっと言えば、師弟同行の姿を生徒たちに見せることだと私は思っています。それがなければ、「規律ある進学校」としての理念を、第2タームでも貫き通すことはできません。
――未来を大切にする一方で、原点もまた大切にするというお考えは、本日の『校長講話』で取り上げた二宮尊徳の生き方そのものですね。
そのとおりです。二宮尊徳の教えの中に「積小為大」(小さな努力の積み重ねが、やがて大きな収穫や発展に結びつく)という言葉があります。「塵も積もれば山となる」「千里の道も一歩から」などのことわざとも趣旨が重なりますが、同じ意味でも二宮尊徳の言葉だと説得力が違うのは、そこに自ら実践するという姿勢を貫いた事実があるからです。まさに教育は、教員が生徒に示す動作にあると言えるでしょう。
――貴校にはこれからも、生徒と思いを共有する師がいるというわけですね。
要は、教員には生徒と共に歩み続ける覚悟が必要なのです。これは家庭でも同じことが言えると思います。親がきちんと背中を見せているか否かで、子どもたちの真剣さも変わってくるからです。
私は今日の校長講話を通して、「食後の食器洗いでも、部屋の掃除でもいいので、家族が喜ぶことをやりなさい」と、生徒たちに伝えました。二宮尊徳が表した「以徳報徳」(受けた善意に善意で応じる)の心を理解してもらいたかったからです。中学入試はゴールではなく、むしろ社会性を確立する第2の誕生期に入るのですから、甘やかしてばかりではいけません。これは本校の学校生活においてもまったく同じです。
――学校選びの際のポイントにもなりそうなお話です。
学校に切磋琢磨する雰囲気があれば、子どもたちは勉強したくなります。であるからこそ、学校と家庭は気持ちを一つにする必要があるのです。それを保護者に訴え続けてきた42年間でした。しかし、すでにそれをこと細かく説明する必要はなくなりました。なぜなら、生徒たちの学力も上がり、東大にのべ334名が合格し、医学部にものべ1466名が合格、堂々たる進学校になったからです。ならばもう江戸取は変わらないのかと思う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。本校は「深化と挑戦」を掲げ世界型人材の育成をめざして、これからも不易流行の精神で第2タームを歩んでまいります。

1976年、國學院大學文学部文学科卒業。同年4月、江戸川女子高等学校の教壇へ。1978年、江戸川学園取手高等学校開校に伴い移動。2006年、副校長。2010年、校長代行。2014年より現職。趣味は、芸術鑑賞、スポーツ観戦、読書。座右の銘は「継続は力なり」「克己復礼」。
江戸川学園取手中・高等学校(茨城県取手市・共学校)

設立:1978(昭和53)年に『心豊かなリーダーの育成』(教育理念)を掲げて設立。『規律ある進学校』(教育方針)として、心力・学力・体力の三位一体の教育を推進。2014年には江戸川学園取手小学校が開校し、茨城県内初の小中高12ヵ年一貫教育校に。2016年度からは、東大ジュニアコース・医科ジュニアコース・難関大ジュニアコースの3コース制を導入。2019年4月、併設小学校から初の一貫生が入学し12ヵ年一貫の教育体制が整った。
アクセス:JR常磐線・東京メトロ「取手」駅西口より徒歩25分(または、バス「江戸川学園・中央タウン行き」5分)
江戸川学園取手の教育の中核にあるものが「道徳」の実践による心の教育です。竹澤校長先生は、「学校教育の本筋は人づくり。心の教育を通して、自分はどう生きるべきか、どうやって社会に貢献していくべきかを考えて行動できる、正しい道徳性を自分の中に築いてもらいたい」と語ります。中1の「道徳」は、17回の道徳授業と、校長講話6回、および道徳のまとめと発表で合計25回あります。
江戸川学園取手中学校
〒302-0025 茨城県取手市西1-37-1
TEL:0297-74-0111
進学通信掲載情報
年度別アーカイブ
- 2022年度
- 2021年度
- 2020年度
- 2019年度
- 2018年度
- 2017年度
- 2016年度
- 2015年度
- 2014年度