私立中高進学通信
2017年10月号
The Voice 新理事長インタビュー
自由学園(男子部・女子部)中等科
「いのち」と「自由」を使い切り
自分だけの道を歩む伝統の教育

村山 順吉 (むらやま・じゅんきち)
1954年生まれ。自由学園で15年間を過ごした経験から、聖学院大学で学生の指導にあたった際は自然素材から楽器を作り、
自然の中で五感を研ぎ澄ませて演奏する授業などを行った。2017年4月から第9代自由学園理事長に就任。
およそ半世紀を経て、常に自らの学びの基になってきた自由学園に戻ってきたことに、心から喜びを感じている。
音楽と教職に携わり半世紀を経て母校へ

私は自由学園で幼児生活団(幼稚園)、初等部(小学校)、男子部(中等科・高等科)と15年間にわたって学んだ後、国立音楽大学の音楽学部器楽学科でピアノ専攻に進みました。音楽教諭だった母の影響もあり、音楽を通して人と人とが結ばれていく素晴らしさに触れていた私は音楽教育の道を志し、東京学芸大学大学院で教育学を修了しました。
以来、音楽と教職に携わるなかで、聖学院の理事、聖学院小学校の校長、聖学院大学児童学科教授・学科長、子育て支援センター長などを経験してきました。幅広い年齢層の生徒を指導するにあたり、その基となったものは子ども時代に自由学園で培われた力や精神です。2017年4月、約半世紀を経て母校に戻り、理事長に就任しました。
中等部入学直後に学んだ『自労自治』とものづくり
自由学園が受け継ぐ3つの伝統
- 日々の生活の中から学ぶ『生活即教育』
- 神さまに守られ、導かれていると信じるキリスト教精神
- いのちと自由を使って自分らしく主体的に生き抜くこと
自由学園の中等科・高等科には、男子部と女子部があり、男女別学で学びます。男子部は入学後の1年間、全員で寮生活をする決まりがあり、自分のことは自分で、また全体の生活も助け合って分担する『自労自治』の生活を送ります。これは寮生活を大きな教育機会と考えているためで、私自身も先輩たちから教えてもらい、たくましくなりました。入寮直後は戸惑うこともありましたが、洗濯や身支度などの身の回りのことを自分でするうちに、生活力や生活の工夫・知恵が身についたように思います。寮生活を通して、自分も次のステップにいけるのだと信じて、がんばれる環境でした。
また男子部では入学したら、自分たちが使う机と椅子を2人でペアになって作る伝統があります。身近にあるものでも、自分で作るとなれば構造などをよく観察しなければいけません。ものの本質をみる力が養われると同時に、ていねいな製作によって、ものに人の心が宿っていく過程を体感しました。友と協力し合って作り上げた達成感も、とても印象に残っています。
「食から学ぶ教育」で知るものの大切さや人との関わり
聖学院大学の児童学科長として聖学院小学校での校舎建て替えの指揮を執った際には、自由学園初等部のエッセンスを取り入れました。
自由学園は「食から学ぶ」に重きを置き、食事を全員で共にする時間を大事にしています。男子部では近隣の保護者の方々が給食を作ってくださり、生徒たちは食後の食器を洗います。ここまでするのは難しいとしても、聖学院でも食事の時間を教育につなげたいと考えました。
そこで、これまで全日お弁当持参であった昼食を、隔日でスクールランチ(給食)の日にできるよう、ホールと厨房を備えました。生徒たちは縦割りのグループでテーブルを囲み、上級生が食事のマナーを指導したり、会話をリードしたりします。また、陶器の食器を使って、ものをていねいに扱うことを学び、準備、配膳、片づけまでを自分たちの責任で担うのも、自分のことは自分で、という自由学園の精神を参考にしたものです。
自由学園と聖学院は、キリスト教という共通のバックグラウンドを持っています。これからは逆に、聖学院での経験を生かして自由学園を活性化していければ良いと考えています。聖学院の教育の良いところを自由学園に取り入れることで、より良い学園にしていきたいと思います。
自分にしかできない道を探し生き切ることの大切さ
日々の生活のなかから学ぶことが、生徒の「生きる力」になると考え、自由学園では『生活即教育』の精神を大切にしています。また、創立者の羽仁もと子・吉一が『先生はただ一人、イエス・キリストです』と述べたキリスト教精神、また、羽仁もと子が『子ども読本』の中で説いた『先生はどこにでも』といった言葉の数々を、これからも後世に心を込めて受け継いでいく所存です。
混沌とした世の中ですが、たとえこれまで築いてきたすべてを失うような状況に置かれても、生かされた「いのち」には必ず意味があることを、しっかり伝えていくのが私の使命だと考えています。
「いのち」を大切にするのは当然ですが、ただ「いのち」を貯め込むのではなく、目いっぱいまで使い込み、生き切ってほしいのです。そしてほかの誰かと一緒に力を出し合うことによって、今までとは違う自分自身を知り、生きていて良かった、出会えて良かったという体験を積み重ねてほしいと思います。人が生きた証しは、このようにして次の世代へ継承されていくはずです。
『自労自治』を重んじ、『生活即教育』を実践するなかで、経験を自信につなげた生徒たちは、社会人になってどのような仕事に就いても、自分にしか生きられない道を見つけられることでしょう。たとえそれが困難な道であっても、迷わずに一歩を踏み出していく――。与えられた「いのち」と「自由」を使って、次の世界を担う人を育てていきたいです。

[沿革]
1921年、ジャーナリストの羽仁もと子・吉一夫妻によって目白(現在の豊島区西池袋)に創立。もと子は日本最初の婦人記者で、吉一とともに『家庭之友』(後に『婦人之友』と改称)を創刊したことで知られる。1934年にフランク・ロイド・ライトの弟子が設計した校舎が完成し、南沢キャンパス(東久留米市)に移転。10万㎡の広大な敷地で、幼児生活団(幼稚園)から最高学部(大学部)までの一貫教育を展開している。
(この記事は『私立中高進学通信2017年10月号』に掲載しました。)
自由学園(男子部・女子部)中等科
〒203-8521 東京都東久留米市学園町1-8-15
TEL:042-422-1079(女子部)/042-428-3636(男子部)
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