私立中高進学通信
2016年9月号
The Voice 新校長インタビュー
自由学園(男子部・女子部)中等科
「生活即教育」の揺るがぬ理念が
理想論ではない本物の人間力を育成

高橋 和也 (たかはし・かずや)学園長
1961年生まれ。自由学園男子部を経て、同最高学部を卒業後、早稲田大学第二文学部に進み、早稲田大学大学院の教育学研究科を修了。1986年に自由学園男子部本務教員となり国語科を担当し、男子部長、副学園長を経て、2016年4月、6代目学園長に就任。共著に尾木直樹編著『子どもが自立する学校~奇跡を生んだ実践の秘密』がある。
生徒の自主・自治と学習を密着して実践

1921年に創立した自由学園は、2011年に創立90周年を迎えました。本学園は、男女別学の中等科・高等科を中軸として、共学の幼児生活団(幼稚園)、初等部(小学校)、最高学部(大学部)までを網羅する一貫教育を長きにわたり続けてきました。
私自身も1974年に男子部中等科に入学以来、最高学部までを本学園で学び、早稲田大学と同大学院で教師になるべく専門的な知識を身につけました。その、内外からの視点と経験を経て今、学園長となって改めて感じることがあります。それは、本学園が『思想しつつ 生活しつつ 祈りつつ』というキリスト教精神にのっとった『生活即教育』の理念を、机上の空論でも理想論でもなく、実践してきたことへの自負です。
少人数制ならではの利点を活かし、生徒の自主・自治をもって毎日の生活と教育を地続きで密着させています。じっくりと時間をかけ、生徒一人ひとりの個性を大切にしながら、生徒自身が主体的に、よく生き、よりよい未来を創り出す力を育む教育は、一朝一夕に実現できるものではありません。それを90年以上のオリジナリティあふれるカリキュラムを通じて実践し続けている本学園は、希有な存在ではないかと思います。
課題を思考し解決する真の力を育む独自性
近年、特に中高教育の現場では2020年の大学入試改革を見据えて、自ら課題を発見し、考えを深めながらグループワークで問題解決に取り組むアクティブラーニングや、科目の枠にとらわれず総合的な視点から問題に取り組む学習、異なる立場の生徒たちがコミュニケーションを取りながら社会性を身につける実体験、生活から教育を見直す食育などが大変注目されています。それらは私ども自由学園が当たり前に実践してきたことでした。
例えば毎年、残雪期に2〜3000メートル級の山に全員で登る登山は、宿泊、交通、装備等の手配を含め、生徒自身の手で準備、運営されます。地理や自然の事前レクチャーをするのも生徒たちです。隔年で2学期に行う「学業報告会」ではさまざまな教科が連携し、女子部は学年ごと、男子部は中高の6学年がグループごとに、一つのテーマに計画的に取り組み、実践からまとめのスピーチまでを一貫して行います。協働することで自分たちを高め合う学習を自然に行えるプログラムを組んでいるのです。
また学園の敷地内には農作地を設けて、堆肥作りから栽培・育成、収穫までを生徒たちが自ら管理します。その食材を使って男子部では週1日、女子部では毎日の昼食の調理も生徒が行い、食を通じた総合学習により、共同作業のマネージメント力、環境保護や感謝の心が育まれます。
自主的な学習のみならず、『生活即教育』を実践する学校生活の自治運営も本学園の特色です。中高男子部、女子部ともに数十日の任期で各学年から委員を選出し、学園内の生活すべてをそれぞれが責任を持って管理します。自分たちの問題意識を持って解決することで、行動力と思いやりの心が育まれています。その思いは生徒有志が始めた東北復興支援活動が、この5年間熱心に継続されていることにも表れています。私たち教師が良きサポート役に徹することで、生徒たちが自ら、「よく生きるとは? よりよい未来とは? 真の自由とは?」を考え、将来と社会生活に役立つ人間力の本質を身につけていくのです。
確かな成長を感じた生徒たち自身の言葉
自由学園で中高時代に学んでほしいこと
- 自分を好きになり人と比べないこと
- 仲間を信頼し助け合うこと
- 困難を乗り越える強さとしなやかさ
本学園はすべての場面で「自分のことは自分で、自分たちのことは自分たちでする」主体的・協働的学びをめざしています。それは中1の新入生にとって、上級生の熱心な手助けこそあるものの、正しい規律と責任感が求められる新たな挑戦になります。
私は今年度の最初、新入生の生活指導にあたる女子部高等科3年生の読書の授業で、「もし新入生が”自由学園なのに自由がない”と不満を述べたら、本学園の”自由”をどう説明しますか?」と問いました。すると「共同生活は約束を守るからこそ、自由を得ることができる。約束を守る生活のなかで、自分なりの自由を探すことに意味がある」や「自由学園の自由は”よりよい生活”をするために選択する自由。そこには責任がついてくる」といったたくさんの答えが返ってきました。
さらに「自由学園は大人や業者が決めることも、生徒の自治に任せている。なぜ自治を大切にしているのか?」という問いには、「自分の行動に責任を持つのが自治。個人の自治が集まって団体ができ、社会を作る一員としての自覚が生まれて良い変化を起こせるのだと思う。一人ひとりがそうなれるように、学園では自治を大切にしている」という答えがあり、クラスのみんなが深く頷いていました。かつては中1だった生徒たちが、本学園で学ぶことで広い視野を持ち、心豊かに成長してくれている実感がありました。
実体験に根ざした本学園の本質的学びは、自己実現、自己肯定力・相互信頼を促します。社会と世界の枠組みが揺らぎ、自分自身が将来を切り拓かねばならない今こそ、この学びを一層進化させたいと思います。

[沿革]
雑誌『婦人之友』創刊者であるジャーナリスト・羽仁吉一、もと子夫妻により、1921年創立。幼児生活団(幼稚園)から最高学部(大学部)までの一貫教育を実践。広い敷地内にある同校の5棟の建物が「東京都選定歴史的建造物」に指定されている。
(この記事は『私立中高進学通信2016年9月号』に掲載しました。)
自由学園(男子部・女子部)中等科
〒203-8521 東京都東久留米市学園町1-8-15
TEL:042-422-1079(女子部)/042-428-3636(男子部)
進学通信掲載情報

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