1学年約600名の生徒が在籍する国学院高等学校では、一人ひとりの興味・関心に応えるために、訪問先やテーマから選べる宿泊型イベント『国内研修』を実施しています。教科の枠を越え、歴史的遺産や雄大な自然、独自の文化に触れるなどの貴重な体験を通して、自ら問いを立てながら、生涯を通じて学び続けることの大切さに気づくことが目的です。訪問先は「出雲」「京都」「東北」「沖縄」の4コース。対象は高1の希望者で、12月に実施されます。そこで2023年度の研修に生徒を引率した先生方にお話を伺いました。
1学年約600名の生徒が在籍する国学院高等学校では、一人ひとりの興味・関心に応えるために、訪問先やテーマから選べる宿泊型イベント『国内研修』を実施しています。教科の枠を越え、歴史的遺産や雄大な自然、独自の文化に触れるなどの貴重な体験を通して、自ら問いを立てながら、生涯を通じて学び続けることの大切さに気づくことが目的です。訪問先は「出雲」「京都」「東北」「沖縄」の4コース。対象は高1の希望者で、12月に実施されます。そこで2023年度の研修に生徒を引率した先生方にお話を伺いました。
小川先生出雲研修は『神話と日本文化』がテーマです。出雲大社や荒神谷遺跡など、歴史の舞台である出雲の史跡を巡ります。2023年度は2泊3日で行われ、15名が参加しました。
この研修の大きな特色は、出雲大社権宮司の千家和比古先生が同行し、解説をしてくださる点です。千家先生の家系である「千家氏」は、古代出雲国造家を代々継承してきました。千家先生は、本校で歴史の教員を務めていらっしゃいました。その関係から、千家先生や千家先生の知り合いである郷土史家の方がガイドを務めてくださったのです。
1日目は「出雲大社」を訪れ、その歴史などを千家先生に案内していただきます。その後、出雲大社の近くにある「県立古代出雲歴史博物館」を見学。博物館には出雲大社の境内遺跡から発掘された巨大な柱が展示されており、柱は鎌倉時代前半に造営された本殿を支えていた柱である可能性が極めて高いとされています。解説をしてくださったのは、この柱を発見した学芸員の方です。生徒たちは目を輝かせて話に聴き入っていました。宿泊先は、建物が登録有形文化財に指定されている老舗旅館『日の出館』です。出雲大社の近くにあり、夜はそこでミーティングを行い、感想や意見を共有しました。
2日目は弥生時代の「田和山遺跡」「八重垣神社」、日本で初めて「前方後方墳」という名称がつけられた「山城二子塚」、重要文化財で見返りの鹿埴輪などが展示された「島根県立八雲立つ風土記の丘」などを見学。歴史好きな生徒は目を輝かせて解説に聴き入り、展示品を眺めていました。
3日目は「荒神谷遺跡」や「加茂岩倉遺跡」を見学。どちらも数多くの銅剣や銅鐸などが出土して話題となった遺跡です。「日御碕神社」も見学しました。
観光気分でこの出雲研修に参加した生徒も、出雲の歴史の重みを実感するとともに、自分の好きな研究に励む学芸員の熱心な説明を聴き、その真剣さに触れて刺激を受けていました。参加した生徒たちの今後の成長が楽しみです。
竹田先生京都は多くの歴史や文学作品の舞台となっていることから、京都研修では歴史や文学をテーマに名所を巡ります。2023年度は2泊3日の参加者43名で行われました。
1日目は全員で嵐山を散策し、2日目は「歴史コース」と「文学コース」に分かれて史跡を見学。どちらのコースを選ぶかは、生徒が申し込む際に決めます。「文学コース」は『源氏物語』の作者である紫式部ゆかりの地を散策。まず、京都御所を見学した後、御所の近くにある廬山寺を訪れます。廬山寺は紫式部の邸宅跡として知られるお寺です。その後『源氏物語』の『宇治十帖』の舞台となった宇治まで足を延ばし、世界遺産の平等院を見学します。
「歴史コース」で巡るのは、平清盛ゆかりの地です。清盛が後白河法皇のために建てた「三十三間堂」、平清盛坐像や空也上人像のある「六波羅蜜寺」を訪れます。
3日目は班に分かれて行動します。伏見稲荷大社を訪れた班もあれば、金閣寺や銀閣寺を訪れた班や、清水寺を訪れた班もありました。この時期の京都はまだ紅葉が残っており、美しい風景のなかを生徒は心弾ませて散策している様子が見て取れました。班別行動では自分たちでコースを考え、時間配分を視野に入れて見学をするので、自主性も養われたのではないでしょうか。また、文学や歴史に関して興味・関心がさらに深まったと思います。
笠原先生東北研修のテーマは『歴史・文化・防災』です。2023年度は1泊2日で実施され、36名が参加しました。
1日目は岩手県の中尊寺や岩手県立世界遺産平泉ガイダンスセンターを見学し、東北地方で栄華を誇った奥州藤原三代の歴史に思いを馳せます。その後は津波の被害を受けた南三陸へ移動し、東日本大震災伝承施設の『南三陸311メモリアル』を訪ねました。ここは被災した方々のインタビュー映像をもとに「実際に震災が起きたらどうするか?」といった意見を交換し合うための施設です。
参加した1年生は東日本大震災が起きた当時は幼稚園児や保育園児であり、震災の記憶はほとんどありません。そのため骨組みだけが残った防災庁舎や、津波がこの高さまできたという痕跡を見て、言葉を失っていました。
その後は松島へ移動して宿泊し、2日目は朝から「松島復興クルーズ」を体験。島々を巡る船の中では語り部の方が被災した時の状況から今日に至るまでの復興の歩みなどを話してくださいました。そして船で塩釜に着いた後は班別行動に移り、「鹽竈神社」や「仲卸市場」、芭蕉の歌碑を見学しました。
その後訪れたのは仙台市にある「青葉城」です。生徒は伊達政宗公騎馬像がある仙台城跡から、政宗が見渡したであろう仙台平野を眺め、青葉城資料展示館も見学しました。
研修後の生徒たちが記した感想文には「塩釜で出会った人たちがみな優しかった」「東北にもう一度行きたい」という声が多く見られました。訪れた各所で地元の方々に家族のように受け入れられ、生徒もそれを実感して心が満たされている様子が表情から見て取れました。
奥田先生沖縄研修は国内研修の中でも最も新しく、2022年度よりスタートしました。2回目となる2023年度の沖縄研修のテーマは『伝統文化・歴史』と『自然・環境』です。日程は2泊3日で60名が参加しました。
1日目は「ひめゆりの塔」を見学しました。太平洋戦争末期の沖縄戦で命を落とした多くの女子生徒や先生のための慰霊碑です。ここではガイドの方から話を聴き、慰霊碑に手を合わせました。その後は近くにある沖縄料理の店に行きゴーヤチャンプルなどを味わい、沖縄の食文化を体験しました。
続いて訪問したのは「おきなわワールド」です。ここでは鍾乳洞の玉泉洞を見学したり、沖縄伝統芸能のエイサーショーやハブとマングースのショーを楽しんだりしました。窓から海が見えるホテルに宿泊し、2日目はジンベイザメのいる『美ら海水族館』を見学。その後、慶佐次川でカヌーに乗ってマングローブを観察しました。
3日目は「首里城」の見学に続いて国際通りで昼食を食べたり、お土産を買ったりした後、帰路に就きました。
生徒の感想として「また沖縄に行きたい」「これまで見たことがないマングローブに感動した」「東京ではできない貴重な体験だった」といった声が寄せられました。火災にあって修復中の首里城の「完成後が見たい」という声も多かったですね。
小川先生今回「荒神谷博物館」を案内してくださった学芸員の方は、研修のガイドを務めてくださった郷土史家の川島芙美子先生が高校で教員をしていた時の教え子だった方です。その方は、川島先生の歴史にかける熱意に心を打たれて学芸員の道をめざしたと語っていました。
冒頭で述べたように、この研修は出雲の歴史を研究する方々の熱意が肌で感じられる3日間となりました。生徒の感想を読むと、その本気度が十分に伝わったことがわかります。
高2になると、本校の生徒は文系・理系のコース選択をします。そこでこの研修が生徒のキャリア形成にもつながればと考えています。そして自分の興味・関心のある分野を研究したり職業にしたりすることを将来の選択肢として、勉強に励んでほしいと思っています。
竹田先生嵐山では臨済宗の「天龍寺」を訪れ、精進料理をいただきました。観光地のお店で出されているものとは違い、お坊さんが普段食べている本格的な精進料理です。料理がのったお盆を畳の上に直接置いて正座していただきます。もちろん肉や野菜は使われていません。見た目は美しく、トマトのように見えたものが柿で作ったデザートでした。本物の精進料理を味わうのは生徒たちだけでなく、私たち教員にとっても初めてで、これまで知らなかった日本の食文化に触れ、貴重な体験になったと思います。
笠原先生参加メンバーの多くが防災や被災地に対してとても強い関心を持っていることに驚きました。東北研修で南三陸や塩釜などを訪れたのが12月上旬で、その翌月の元日に能登半島地震が起きました。研修に参加した生徒たちは津波の痕跡が残る被災地を実際に見て、被害にあわれた方々の声を聞いただけに胸を痛めていました。東北研修での体験を糧にして、生徒たちには被災者の方々に何ができるかを考えてほしいと思います。
奥田先生2023年度の沖縄研修に参加した人数は国内研修のなかで最も多い56名でした。元気いっぱいな生徒ばかりで、「沖縄の自然や海を楽しみたい!」という気持ちで参加したようです。
初日は笑顔ではしゃいでいる生徒の姿が目立ちましたが、「ひめゆりの塔」で手を合わせたりガイドの方から自然を守ることの大切さを聴いたりしているうちに、その表情は真剣になっていったのです。最終日には生徒たちの印象は大きく変わっていました。楽しさを味わっただけでなく、多くのことを学んだ満足感が表情に表れたのだと思います。
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