テンポ良く解説をする鈴木信吾先生。
この日は全経の簿記検定に向けたトレーニングの授業。
重要な用語の意味を聴き取りながら内容を理解していきます。
授業に集中しながらも、先生のユニークな解説に笑みがこぼれる場面も。
首都圏唯一の私立・共学の商業高校として充実した教育を展開している京華商業高等学校。実践的な学びを中核に据え、多くの生徒を四年制大学に現役で進学させている注目校です。
カリキュラムの特徴は、普通科の高校にはない「商業科目」を設置していることです。実社会に進出後、ビジネス界で求められる知識やスキルを伝授してくれる商業科目。京華商業では3年間にわたり関連科目10数種を学ぶシステムとなっており、そのうち高1に設置されているのが「簿記」「情報処理」「ビジネス基礎」の3科目です。
「商業科目は高校で初めて出会う学習内容であり、慣れるまでにある程度の時間を要します。そして、そのすべてのベースとなるのが高1で学ぶこの3科目なのです」
と話すのは、簿記担当で情報処理の指導経験もある鈴木信吾先生です。まずは3科目の内容を紹介しましょう。
企業の財産や取引の記帳技術、個人企業の決算や株式会社の初歩的な会計を学ぶ。
コンピュータの基礎的な仕組み、Word(文書作成ソフト)やExcel(表計算ソフト)の技能を身につける。
ビジネスの役割と発展、マーケティングの基礎的な内容、ビジネスに対する心構えなどについて学ぶ。
3科目とも、授業は関連の検定資格取得を最大のテーマとして進行。高2以降は名称が変わるものの、さらにハイレベルな授業が展開され、より高度な資格取得をめざすという流れとなります。また、検定試験の直前には放課後講習を実施。これは検定別、級別に分けた手厚い少人数制で行われます。
このように、京華商業では資格取得に向けた指導体制を非常に強化しています。それは検定資格が大学進学におけるアドバンテージとなるからです。
「有名私立大学の学部も含め、多くの商学部・経済学部・経営学部が資格取得を評価しており、資格を活かした入試形態をとっています。また『全商(全国商業高等学校協会)』の上級資格に数多く合格していれば、全商の特別推薦者として大学入試にチャレンジすることもできます」
京華商業の高い大学合格実績には、こうした背景があったのです。
「生徒たちは初めて見る用語に戸惑いを感じるようですが、意欲的に学んでいます。数学や英語と違い、彼らにとって商業科目は文字通り"ファーストコンタクト"で、全員が一斉にスタートする科目です。そのため興味・関心が高まり、またやる気もわいてくるようです」
高1で学ぶ商業科目のうち、簿記(担当=鈴木先生)と情報処理の授業(担当=渡部俊祐先生)を見学しました。
「簿記は間もなく行われる全経(全国経理教育協会)の検定試験『全経簿記能力検定』に向けた授業です。一方、情報処理はエクセルを使った授業のほうがイメージは伝わりやすいと思いますが、今回は"早打ち"の技量を試される、全商の『ビジネス文書実務検定』に向けたトレーニングの授業となります」(鈴木先生)
「ハイ、この問題の配点は32点分もあるので絶対に落とさないように。ほかの問題ができても、この問題で得点できなければ不合格になってしまうからね」
フレンドリーかつテンポの良い口調で解説をする鈴木先生と、それを理解しようと真剣に耳を傾ける生徒たち。それぞれの机上にはテキストとともに電卓が置かれています。配布されているプリントは、全経簿記能力検定の過去問です。その紙面を見ると「借方」「貸方」をはじめ「売掛金」「貸倒引当金」……など難解な専門用語が並んでいます。
「期末商品棚卸高、1~3はこれまでにやってきたことです。わかりますか?」
鈴木先生は知識の定着度を確認しながら、重要な用語に関してはその意味を解説。「この後はどんな操作をするんだっけ?」「かける? そうそう!」と個々の生徒とやりとりを繰り返しながらていねいに授業を進めていきます。検定が間近に迫っているためか、生徒たちの授業への集中度には目を見張るものがありました。
パソコン操作をきめ細かくチェックするため、情報処理の授業はティーム・ティーチングで行われています。
提示された文章を10分間で入力。タイピングに悪戦苦闘しながらも真剣な表情で取り組む生徒たち。
マイクを手にWordの活用法を解説する渡部先生。
スマートフォンやタブレット端末に慣れている生徒たち。マウス操作やタイピングには不慣れながらも集中力の高さを見せてくれました。
京華商業には約50台のパソコンを設置した特別教室が2カ所あり、情報処理の授業はそのうちの1室を使って行われました。
それぞれのパソコンとテキストに真剣な表情で見入る生徒たち。担当の渡部先生はマイクを片手に解説を進めていきます。そして生徒たちの背後にはもう一人、先生の姿が。生徒個々のパソコン操作をきめ細かくチェックするため、この授業はティーム・ティーチングで行われています。
教卓には3台のディスプレイが設置されており、渡部先生によると、「1台は教員用、もう1台は生徒個々のパソコン管理用、さらに1台はさまざまな教材などを送り込むためのもの」なのだそう。指導体制はまさに万全です。
「まずは、ここをクリックして」「書式を直すときは基本的にここを使います」「ここをダブルクリックすると、ヘッダーというところに文字を打ち込むことができます」と、ワードの活用法をわかりやすく解説していく渡部先生。その内容から、生徒たちのほとんどが初心者であることがわかります。"デジタルネイティブ"世代の生徒たちですが、日頃活用するのはスマートフォンやタブレット端末。マウス操作やタイピングには不慣れなようです。
「では実際にやってみましょう。この文章を制限時間の10分間で打ってみてください。では、始め!」
先生の号令で、生徒たちが一斉に作業をスタートさせました。パソコンと手元を交互に見つめながら、たどたどしい手つきでタイピングに悪戦苦闘する生徒たち。慣れないながらもひた向きに取り組む姿が印象的な授業でした。
経理・会計分野の"伝統の技"を伝授する簿記の授業と、時代の最先端をいくIT分野のスキルを培う情報処理の授業。まったく違う内容の2つの授業ですが、共通していたのは生徒たちの授業に向き合う真剣味でした。
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