単語のスペルに使われているアルファベットで動物を描く提案をしたチーム。
英単語を覚えるためのゲームのポイントは、いかにそれっぽい意味を考えるか。
チームで考えてきたことをプレゼンテーション。
芝浦工業大学デザイン工学部の先生による講義で授業はスタート。
この日取材した「Arts and Tech」の講義の冒頭では、芝浦工業大学で行うグローバルPBLへの参加の呼びかけもありました。
覚えるためにあらかじめ準備してきた英単語カード。
スーパーグローバル大学(※)に採択されている理工系の単科大学として人気が高まる芝浦工業大学。その附属校である芝浦工業大学附属高等学校は2017年、大学のメインキャンパスのある豊洲に移転し、新しいキャンパスで併設大学の強みを最大限に活かした授業を展開しています。
その一つが、大学教授の指導のもとに行われる「Arts and Tech」です。これは高1から高3まで週2時間ずつ、芝浦工業大学の教授・大学生・大学院生の協力を得て行われる授業。技術者になるための実質的なスキルを身につけるだけではなく、技術者としてどう社会に貢献するかというマインドまでを育てるプログラムが、各学年で段階的に組まれています。
※スーパーグローバル大学……海外大学との連携など、国際化を進めて世界レベルの教育・研究を行う大学を支援するために文部科学省が対象とする大学。
高校3年生まで高校から入学した生徒だけでクラス編成。1年生では男女別の各1クラス、2年生から男女混合の共学クラスとなります。
取材したのは、芝浦工業大学デザイン工学部の教授陣を迎えて展開する、高校2年生の「Arts and Tech」(GⅡ)。この日は
1時限目は「将来の夢の探し方」についての講義が行われました。時代とともになくなった職業や新しく生まれた職業、そして、そもそも職業とは何か、お金とは何かといった内容で授業は展開。「世の中が変われば職業は変わります。これからの時代、君たちには夢をアップデートしながら生きていってほしい。だからこそ世の中を知ることが大切。そのためには常に目の前にあることに疑問を持ってください」というメッセージが送られました。働くとは、お金を得るとは、"誰かの役に立つこと"。これはデザイン思考においても核となる部分です。
続く2限目は、6つのグループに分かれて行う実習の授業で、テーマは「休み時間に英語の勉強をしたくなるゲームをデザインする」。各チームが考えてきたゲームをプレゼンテーションし、これをほかのチームに実践してもらい、お互いのアイデアを評価し合うという内容です。
あるチームが考えたのは、単語のスペルに使われているアルファベットを用いて、その単語(動物など)を絵にするもの。そのほかにも各チームがさまざまなアイデアを提案しました。"コト"づくりを体感できる取り組みです。
本校ではScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5科目を活用し、社会的課題を解決する力や新しいものを創造する力を育むSTEAM教育を実践しています。
「Arts and Tech」の3年間の取り組みのなかで、とくに高2でデザイン工学部の先生をお招きしている理由の一つに、学部への理解を深め、そこからSTEAM発想を習得する狙いがあります。
デザイン工学部では"モノづくり"と"コトづくり"を踏まえた上で活動をしています。これまでの「とにかく良いものを作れば売れる」という時代はコモディティ化により終わり、これからはスマートフォンに代表されるような新しい生活スタイルや新しい物事の作り方、その思考方法が求められる時代です。そのための力を育てるのがデザイン工学部の目標です。それをよく理解してもらい、本当にそれを学びたいというモチベーションの高い学生を受け入れたいという思いが大学側にはあります。
もちろんそれは他学部についても言えることで、本校では学部・学科説明会や理系講座も実施していますが、時代の要請に応えて誕生したデザイン工学部ならではの新しい発想に基づく教育方針については、学部の垣根を越えての生徒にとっても知っておくべきことになります。
デザイン工学部以外の学部を志す生徒にとっても、社会の変化を第一線で感じているデザイン工学部の教員に直接指導を受けることで、早くから将来に具体的なイメージを持ち、キャリア形成していけることは大きなメリットです。私は、STEAM教育とは、それを行うことが目的ではなく、あくまで手段と捉えています。
今回ご紹介した以外にも、技術科と美術科で作品製作をコラボレーション、学年のキャリアや道徳学習のまとめを美術の授業で作った作品に書き込むこと、グループでコンペティションへの応募などを行っています。これらを通して生徒には、決められた枠の中だけで何かを取り組むのではなく、教科や分野といった既存の枠を超えて、モノゴトを繋げていくことを当たり前にしてほしいです。これからの「新しい」を創造する時、SDGsなどの今世界が抱える課題を乗り越える時、STEAM教育から培った発想がなくてはならないでしょう。
「Arts and Tech」の授業は、将来を考えるきっかけになっています。例えば、今日の講義では、将来の目標を達成するためにはいろいろなアプローチがあり、そのための職業も一つだけではないということがわかり、視点を広く持てるようになったと感じています。
これまでの授業でとくに印象に残っているのは、ユニバーサルデザインの授業です。そこで高齢者体験をしてからは、街を歩いていてさまざまな工夫に気がつくようになりました。そんなふうに世の中を見る視点が得られたことも、この授業のいいところです。
私は将来“フードロス”の問題に取り組みたいと考えています。そのために大学も芝浦工大に進んで学んでいきたいと思います。
「Arts and Tech」は実践的で、大学の先取り授業のような内容になっているので、「大学ではこんなことをやるんだ」「将来はこんなことができるのではないか」というイメージが持てるようになります。
僕は、脳波でモノをコントロールする技術に興味を持っています。そのためにどんな道に進めばいいのか、これからどんなことを学んでいけばいいのかを、「Arts and Tech」を通して、自分のやりたいことや学んでいることと社会がつながっていき、進む道が明確になってきました。
この学校の掲載記事をピックアップしました。