山伏峠から箱根の中央火口丘群が。カルデラの中にある様子についての解説を聞く生徒たち。
大涌谷のジオパークで写真解説や映像などを通して"その土地"の歴史とストーリーに触れました。
長尾峠で地層を確認。「巡検で地理・地学的なものの見方を学ぶと、旅行が何倍も楽しめるようになるよと生徒に話しています」(高木先生)
この日は天候に恵まれ、地形はくっきりと浮かび上がってくるようによく観察できました。富士山もよく見られる素晴らしい眺めです。
模型を使って実際の景観と比較。「最初から最後まで頭を働かせる行事とも言えます」(長谷川先生)
通常の教室での授業に加えて、野外で"実物"を観察する「フィールドワーク」。その学びのスタイルは近年、多方面から注目を集めていますが、駒澤大学高等学校では今から50年も前にそのスタイルを取り入れています。
「現在、高校の地理で野外調査を行っている学校はかなり少なくなっているように思います。指導できる教員の不足や、野外での活動に慎重な傾向もあることがその理由でしょうが、そういった意味で本校は、実施可能な体制が整っているため恵まれた状況と言えるかもしれません」(地理歴史科/高木佑也先生)
今年で51回目を迎える伝統行事の「箱根巡検(フィールドワーク)」は、地理(社会)・地学(理科)という2教科横断型で実施しているのも特徴です。
「もともと地理と地学は学ぶ内容が重複している部分もあります。地学ではメカニズムとして"どうしてこのような地形になっているのか"を学び、地理では"その地形を活かして人はどのように生活しているか"を学ぶので、リンクさせることでより深い学びになると思いました」(理科/長谷川宏一先生)
「高1を対象に実施される『箱根巡検』に向けた事前学習は、実際に箱根を訪れる11月まで地理・地学の両教科で連携をとりながら断続的に学びを進めていきます。巡検当日は学校からバスで現地に向かいますが、巡検は正門を出た瞬間から始まります」(高木先生)
「例えば学校から環状八号線まで下っていく坂は河岸段丘になっているんですね。バスで走り、それを見ながら解説を加えることで"だからこんな道路になっているんだ""こんな景色なんだ"と実感することができます。そうすることで、普段は意識していなかった風景が、いつもと違ったものに見えてくるのです」(長谷川先生)
事前学習と実物の観察によって生徒の知的好奇心を呼び覚まし、箱根に到着した後はスケッチによる観察や箱根の地形図、または巡検のために製作した箱根の3D模型も用いて現地の状況と照合します。さらには長い年月を経て作り上げられた地層などを目の前に先生から解説を受けたり、ジオミュージアムを訪れて最新の箱根の状況を映像で確認したりと、地球上で起こる現象とその仕組みをさまざまな形で確かめていきます。
「箱根巡検」の中身は盛りだくさんで、学び応えのある内容です。数ある学校行事のなかでも一番印象に残った行事として、この行事を挙げる生徒も少なくないそうです。このように充実した内容の「箱根巡検」ですが、それでも先生方は"その先"を見据えています。
「こんなアプローチに生徒はどんな反応を見せるのか、どんな見せ方をすれば生徒はもっと主体的に学べるのか。巡検ではそういった教育的な挑戦がもっとできると思っています。そのうえで『日本の地理・地学学習の先駆的な事例になりたい』。そんな思いで取り組んでいます」(長谷川先生)
教室内での学びを教室外に広げる知的な旅の進化は、まだまだ続きそうです。
永平寺到着後、開校式で般若心経を唱える生徒たち。心を整え、修行を開始します。
坐禅を組む大講堂は、男子生徒が就寝場所として使用。布団の準備も修行の一環です。
"座ることを目的に座る"座禅。体と呼吸と整えることで本来の素直な心を取り戻します。
大小70余棟の殿堂楼閣が立ち並ぶ永平寺は、道元禅師によって開創された出家参禅の道場です。
単に食欲を満たすのではなく、身の弱まりを治す良い薬と思っていただく薬石(精進料理)。
駒澤大学高等学校では、禅の教えに基づいた教育を実践しています。建学の精神は「行学一如」。日々の"行い"と"学び"を同じように大切にするという意味です。そしてその精神を養うため、さまざまな学校行事を通じて知性と感性を磨き、情操を育む取り組みを行っています。なかでも大切にしている行事の一つが、毎年6月に実施している永平寺(福井県)拝登の研修旅行(高2対象)です。同校は全学年で週1時間の「仏教の時間」やさまざまな宗教行事を行っています。永平寺での修行はその一環であり、実践の場とも言えるのです。
「本学の根幹にある仏教教育の中心となるのが曹洞宗の教えです。この研修旅行では、本校の祖である道元禅師によって開かれた永平寺に拝登して、禅の教えについて身をもって学ぶことを大きな目的としています」
(宗教科/鈴木純行先生)
行程は1泊2日。朝8時前に東京駅に集合して北陸新幹線、バスを乗り継ぎ15時過ぎに永平寺に到着します。開校式では全員で般若心経を唱え、さっそく坐禅を行います。
「本来私たちは皆、"仏様"になる素質を持っていますが、自分勝手な心の動きによって悩んだり、苦しんだりしてしまいます。そこで身なりを整え背筋を伸ばし、呼吸を整えて坐禅をすることで、本来持っている美しい心に戻し、行動に移していこう。それが坐禅をする意味なのです」
その後、夕食(薬石)をいただきますが、食事もまた修行であると鈴木先生は言います。
「食事はいわば"命をいただく行"なのです。そこで本校では、普段から毎日の昼食時に食事訓として、"自然の恩恵も含めて、農家の方や調理をしてくれた方への感謝の気持ちを持っていただきましょう"という5つの文言、『五観の偈(ごかんのげ)』を唱和しています。食事は生きる営みの原点です。そして感謝の気持ちを知ることができる大事な行為でもあるのです」
そして夜は2回目の坐禅を行い法話をいただいたあとに、21時には就寝。翌朝は午前3時30分に起床して、片づけなどを行って坐禅。その後朝の修行(朝課朝)として大講堂の掃除を行い、朝食(小食)をいただいて閉校式を迎えます。これが『研修旅行』の全容です。
「杉の木立に囲まれた清廉な空気とともにある幽玄の世界。そこで過ごす時間は大事にするべきものの存在、時間の大切さ、そういったものをもう一度振り返る機会になっています。研修で初心に立ち返り、周囲に対する感謝の気持ちを持ち帰る生徒が多いように感じています」
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