
永尾 稔 校長先生
― P r o f i l e ー
1959年生まれ、長崎県五島市出身。上智大学神学部卒。聖職者として信仰の道を歩みつつ、仁川学院の幼稚園園長・学院長・小中高校の校長などを歴任(2025年度より小学校校長は退任)。「まさか自分が教員職を務めるとは」と笑い、穏やかな人柄と大きな愛に根差した教育観で生徒たちを見守る。趣味はウォーキング。
AIの進化や社会構造の変化によって未来の予測が難しくなったと言われる現代社会。学校が子どもたちに届けるべき教育のあり方も、大きく変化が求められています。もちろん、それはそれで大切なことでしょう。しかし、それらの多くはどこか、「いかに自分が生き残るか」という競争論で語られている部分はないでしょうか。本当にそれだけで子どもたちは人生を豊かに生きていけるのでしょうか。私は、そこに教育の本質的な問いが投げかけられていると感じます。
本校が大切にしてきたのは、「心の軸」を育てることです。「心の軸」とは、自己肯定感と他者への配慮が両立した状態と言い換えることもできます。
どれほど社会が変化しても、自分の存在に価値を見出し、同時に他者と共に生きようとする姿勢があれば、人は決して道を見失いません。この理念は本校が永らく拠り所としてきた考えですが、正解なき社会となった今だからこそ、改めてその価値を問い直し、大切にすべきだと思うのです。

この考えの根底にあるのは、「人は誰もが〝神の似姿〟としてこの世に生まれてきた、かけがえのない存在である」と考えるカトリック教育の人間観です。だからこそ、成績や成果、能力など後付けで“評価”される以前に、その存在そのものが尊重される教育を実践し、同時に子どもたちの内面にもそのような心を育てたいのです。
本校の建学の精神である「和と善」も、この人間観と深く結びついています。“和”は他者や社会、自然との調和、“善”は正しく生きようとする意志のことです。
私たちはこれを“縦軸と横軸”で捉えています。縦軸は神という根源的な存在とのつながり、横軸は他者や社会との関係性です。この二つの軸がしっかりと根付いてこそ、人はぶれることなく、自分らしく生きていくことができるのだと思うのです。
“和”とは、単に争いがない状態のことではなく、他者との関係の中で築かれるもの。そして“善”とは、日々の選択のなかで自らが志すもの。これを子どもたちに「自分たちはどう生きるか」という問いとして受け止めてほしいと願っています。

本校では、こうした理念を、日々の学校生活および教育活動に落とし込んでいます。代表的なのが、宗教朝礼や宗教の授業、黙想会といった、静かに心を落ち着かせて自分と向き合う時間です。
その成果は、目には見えにくいものかもしれません。しかし、私はこの時間こそが、子どもたちの内面に深く働きかけていると実感しています。たとえば宗教朝礼の後、生徒の表情がふっと柔らかくなり、校内に静けさが広がる瞬間があります。普段は活発な生徒も、その時間には自分自身と向き合い、何かを感じ取っているように見えるのです。こうした小さな変化の積み重ねが、やがて大きな心の成長につながっていくのだと思います。
一方で、内面の成長は体験を通じても大きく促されます。本校では、クリスマスウィークの慈善活動やボランティア活動をはじめ、生徒が主体的に関わる機会を数多く設けています。特徴的なのは、それらが“誰かにやらされる活動”でも、 “アピールの場”でもないという点です。生徒たちはあくまで自分の意思で参加し、他者のために何ができるかを考え、行動します。その過程で「誰かのために動くことの意味」を実感していくのでしょう。

また、中学校では『仁川の森』と称して取り組む園芸活動や野外活動、チームでオリジナルダンスを披露する伝統行事『ダンスフェスティバル』では、縦割りグループを取り入れています。学年を越えて協力し合うなかで、生徒たちは自分の役割を見出し、他者との関係の中で成長していくのです。高校では地域インターンシップを通じて直接社会と関わる経験を積みますが、そこでも同様に、自分が社会の一員であることを実感します。
こうした体験を通して育まれるのが、「力・愛・思慮分別」という人間の根源的な能力です。行動する力、他者を思いやる心、そして状況を見極めて判断する力。これらは教室の学習だけでは十分に育てることができません。だからこそ体験と学びを結びつけることを大切にしています。
そして何より、このような土台があるからこそ、子どもたちは学びに対しても主体的になっていきます。やらされる勉強ではなく、自ら考え、選択し、挑戦する学びへ。その結果として、いわゆる〝社会で必要な知識やスキル〟が生まれる。それこそが、あるべき姿だというのが本校の考えです。
さらに本校では、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドなどの提携校に一年間留学できる『国際交流プログラム』や『イタリア研修』、高大連携といった取り組みを通じて、学校の外にある社会と積極的に関わる機会を広げています。
異なる文化や価値観、新たな知に触れることで、視野が大きく広がるはずです。こうした経験も、「何のために学ぶのか」という問いに向き合うきっかけになり、進路についてもより具体的に考えられるようになるでしょう。
しかし、私たちが何より大切にしてほしいと願っているのは、やはり「その知識や力を何のために使うのか」という視点です。どれほど優れた能力を持っていても、そのベクトルが自分の利益だけに向いているのであれば、社会はより良い方向には進みません。本校が掲げる「和と善」とは、自らの力を他者や社会に還元し、他者と共に生きる人生そのものなのです。
受験生や保護者の皆様には、ぜひ本校の教育を「人を育てる教育」として見ていただきたいと思います。テストの点数、進学実績、資格やスキルなどの目に見える成果だけでなく、その土台となる心の成長に目を向けていただければ、きっと本校の価値をご理解していただけると自負しております。